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十話 国境の砦

 予想通り、俺は元帥として戦争に加わることになった。

 戦場に邪魔だからと、訓練途中や終わってすぐの新兵たちは、各地に残すことになった。もしも国境の砦を抜かれたときには、彼らが予備役の人たちと共に民の避難誘導を行う手はずになっている。

 俺が練兵場で出会ったあの三人も、王城の守りを命じられて、王の護衛騎士たちと共にお留守番である。

 そんなわけで、常備兵五百人の内、砦に詰められるのは四百人ほどだ。


「人数が少なく感じるけど、これがこの国の精一杯だしなあ」


 俺が兵列の先頭で歩きながら呟くと、アレクテムに笑われてしまった。


「心配ありませんぞ。メンダシウム国の弱兵二千人を、百人で撃退した実績がございますからな!」

「砦と渓谷を利用した防衛戦とはいえ、二十倍もの人数差を跳ね除けられたとは、にわかに信じがたいけどなぁ……」


 でも、この世界は魔法と神聖術が存在する世界だ。

 神聖騎士国家ムドウ・ベニオルナタルの騎士や、魔導帝国マジストリ=プルンブルの魔導機のようなものがあれば、人数差を埋めることができるのかもしれない。


「そういえば、帝国の武装を調べている研究部から、なにか成果が上がってきている?」

「ようやく仕組みを理解したところで、この戦に使える物を作るまでには至っておらぬそうですぞ」

「うーん。帝国製の武器を劣化複製でも数を揃えられていれば、頼もしい戦力になったんだけどなぁ……」


 ないものねだりをしても仕方がない。思考を切り替えていこう。


「俺たちが砦に入った頃、メンダシウム国の軍はどのあたりに居ると思う?」

「連中の首都はノネッテ国に近い場所に御座いますからな。両国の緩衝地帯に入っているやもしれませんな」

「あっちはノネッテ国を敵国認定しているんだろ。それなのに首都が近いのか?」

「ワシが子供の頃に、いまの位置に遷都したそうですぞ。事実上の主上国といえど、帝国に近いままよりは安全と考えたのでしょうな」


 一部隊で小国を滅ぼせそうな帝国と、兵数が少ない山間の小国じゃ、どちらが脅威かは幼子でもわかるか。


「緩衝地帯――山に入ってくる手前まで来てくれたら、木製の鳥の目で偵察ができるな」

「偵察限界距離ですが可能ですな。詳しい兵種と兵数が判明すれば、作戦が立てやすくなりますぞ」

「山に入ってきたら、遊撃隊で嫌がらせもしないとな」


 平地に暮らすメンダシウム国民と違い、ノネッテ国民は山での活動の自由度が高い。断崖に見える場所を坂と称して登り、四つ足の動物ですら降りられない崖をショートカットと言って滑り降りるし、切り立った尾根を道として利用したりするぐらいにな。

 ちなみに俺も、素の状態で似たことができるし、神聖術で肉体を強化すればどんな山道も踏破できるようになる。

 そんな連中に、渓谷に作られた細い山道で襲撃ゲリラされるメンダシウム国兵士を可哀そうに思っていると、アレクテムから忠告が飛んできた。


「ミリモス様は元帥ですぞ。兵たちに混ざって遊撃に出るのはおやめください」

「ええー。個人戦力では、俺が一番高いと思うんだけど?」

「いくら強かろうと、失うには価値が高すぎます。後方で大人しくしていてくだされ」

「ちぇっ。まあいいや。木製の鳥で偵察しなきゃいけないしね」


 そんなことを話しているうちに、俺たちも山道に入った。

 ここから砦までは、険しい道が多くある、楽しいハイキングだ。



 国境の砦に入ってすぐに、俺は木製の鳥を空中に放った。


「動けよ、動け。仮初の生命よ。飛べよ、羽ばたけ。偽りの翼。見よ、映せ。洞の目の景色を水晶へ。我が意に従い、機動せよ。インヴィア・ムヴメイ」


 フクロウ似の木の鳥が、俺の誘導に従って羽音なく空を飛んでいく。

 渓谷の道は、山肌に沿って作られている関係で曲がりくねっているうえに高低差もあるため、道程の距離が結構ある。

 しかし空中を通る直線距離はさほどでもないので、木製の鳥はすぐに山の向こう、メンダシウム国側の緩衝地帯に入った。

 山道に入る直前の場所で、メンダシウム国の軍隊の陣営が現れる。どうやら厳しい山道に入る英気を養うために、食事をとっているようだ。

 その光景を水晶の光を壁に投射しながら、俺とアレクテム、そして砦勤めの熟練兵数人で見ていく。

 鳥の目の光景を初めて見る兵士たちは、壁に映し出された映像に驚いている。


「これは、いま現在の風景が映っているのですか?」

「そうだよ。撮って出しの映像だね」

「うむむっ。偵察に出る必要がないことを喜ぶべきか、元になった帝国の道具に脅威を覚えるべきか」


 兵士が苦悩を始める。

 その気持ちはわかるが、そう悲観するものでもない。


「この魔動機は、帝国の魔法使い並に魔法の扱いが上手じゃないと、ちゃんと動作しないんだ。あと、空からの目があると知っていれば、誤魔化す方法はいろいろあるしね。人の目で直接確認する偵察の必要はなくならないと思うよ」

「ふむう、そうですか。所詮、道具は道具。最後に役に立つのは、人の技というわけですな」


 兵士の気持ちが持ち直したようなので、映像を詳しく分析することにした。


「こことそっちの集積場が、食料のようだね。驢馬ロバもたくさん用意して、山道を物資を持って進む準備は出来ているって感じだね」


 俺の見解を皮切りに、アレクテムや兵士たちからも意見がでてくる。


「兵数は、二千から三千といったところですかな。数は凄くとも、薄そうな革鎧ばかりの農民兵ばかりとは、慣れぬ山道を進む負担を軽くしたいにしても貧弱すぎですな」

「あれぐらい鎧なら矢雨を降らせば、楽に餌食にできます。今回も簡単に追い返せそうですね」

「少し気になるのは、メンダシウム国の兵士たちの表情が明るいことだ。笑顔で飯を食ってるぞ」


 積極的に意見を交換している。

 いいことだと感じつつ、俺もまたなにか言おうと映像を注視する。

 そして気付いた。


「んなッ! あり得ない!」


 俺は大声を上げながら、木製の鳥の飛ぶルートを少し変更して、通り過ぎた場所まで引き返させる。

 そして、俺が問題視した光景がハッキリと映る場所に飛ばし続けた。

 壁に映る光景の動きが如実に変化したことで、兵士たちは不思議そうな視線をこちらに向けてくる。


「元帥殿、どうかなされましたか?」

「なにやら、兵士たちが集まっているところを、ずっと映しているようですか?」


 疑問の声に答える前に、俺はある一点を指す。


「アレクテム、これが何に見える?」


 俺が聞きながら示したのは、数人のメンダシウム国の兵士のうち、ある一人が手に掲げ持っている杖だ。

 アレクテムは目を細めて、その杖の映像を注視する。


「陣地の端でコソコソしている様子から、上官に見つからないように集まっていることがわかりますが、持っておるのは杖ですな。ということは、魔法使いが同行して――」


 アレクテムは言葉を途中で区切ると、壁に張り付くほど近寄って、杖の映像をまじまじと見る。


「――これは、帝国兵が持っておったものに、そしてミリモス様が回収した杖に、そっくりですぞ!」

「やっぱり、そう見えるよなー」


 俺とアレクテムの意見が一致したところで、水晶が映す光景にも変化が現れた。

 隠れ集まっていた兵士たちが、上官らしき別の兵士に見つかり、大目玉を食らわせられている。そして杖を奪い取られ、鉄拳制裁を加えられた。

 取り上げられた杖はというと、食料とは別の集積地に運ばれ、覆いの中に収められた。


「覆いが捲れたときに少し中が見えたけど、同じような杖が何本もあったね。これは大事おおごとだ」


 俺が思わず仰け反って悲観していると、兵士たちが不思議そうに聞いてくる。


「あの杖が帝国のものっぽいとは理解しましたが。二人がそれほど驚かれるものなのですか?」

「魔法など、どれほど強力でも、この砦の外壁を焦がす程度のものですよ?」

「ミリモス様も以前に実際に試してみて、魔法使いの力だけで砦の壁を壊すのは難しいと評価をしたはずでは?」


 兵士たちの意見は正しい。

 この世界の魔法は、さほど強力じゃない。

 俺が使える中で一番攻撃力が高い魔法でも、分厚い砦の壁を打ち崩すのは難しい。

 しかしそれは、帝国の魔法技術を抜きにした場合の話だ。

 そしてその魔法技術の恐ろしさを良く知るのが、俺の兄姉たちを帝国と騎士国の戦争に観戦させに何度も連れて行った、アレクテムだ。


「あの杖が、爆炎を引き起こす魔動機だとすると、砦の外壁は一日も保たんのだぞ! もっと危機感を持たんか!」


 アレクテムの焦りに満ちた顔を見て、兵士たちも脅威を感じ取ることができたようだ。


「砦に籠って戦うことができないのであれば、打って出るしかないのでは?」

「人数差を考えろ。こちらは四百人。向こうは三千人だぞ」

「では、いまから連中が来るまでの間に、少しでも砦の防備を硬くするか?」


 兵士たちが盛んに意見をぶつけ合わせる光景を見ながら、俺はどうしたものかと頭を悩ませる。

 いま問題となっている点と、ノネッテ国の勝利条件。それらを頭の中で並べて、どうにか光明を見つけようとする。

 俺が黙りながら考え、可能性がある案がまとまったところで顔をあげると、兵士たちがこちらを見つめてきていた。


「どうかした?」

「いえ。元帥殿の御意見もお聞かせ願おうかと」

「ミリモス様は軍事の天才と評判です。起死回生の一手を思いつくと期待しています」


 過剰な期待による重圧で、俺は頬が引きつる思いをする。


「奇想天外な手を期待されても困るよ。俺が提案できるのは、ごく普通の戦法と、その組み合わせだけだって」


 俺が考えていた策を口頭で披露すると、アレクテムと兵士たちは納得半分困惑半分の表情になる。


「説明されれば、確かに的を得た作戦なのですが……」

「しかしそんな当たり前の方法で、大丈夫なのだろうか」


 不安な様子の兵士たちを見て、俺はあえて明るく言う。


「上手くいくから、大丈夫だって。それとも他の作戦案があるなら、言ってくれればいいよ?」


 代案をどうぞと水を向けるが、アレクテムも兵士たちも、俺の案以上の作戦は提案できないようだ。

 そして消極的というか、これ以外には戦いようがないと諦めた感じで、俺の作戦が了承される運びになった。


「さあ最初は遊撃隊を編成しての夜襲からだ。人員を整えて、戦争開始だよ」


 俺がパンパンと手を叩いて急かすが、兵士たちの動きは鈍いままだった。

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[良い点] チートっぷりがよく分かるね(≧∇≦)b [気になる点] ストーリー展開がもうちょっと早くなってほしい(´・ω・`) [一言] 執筆頑張ってください(。>﹏<。)
[気になる点] > 確かに的を得た作戦なのです 「当を得た」か「的を射た」では
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