百八話 ロッチャの軍勢、出発
俺は馬車馬を用いた人馬一体の神聖術で、同道するファミリスとパルベラ姫は黒馬ネロテオラに乗って、ザードゥ砦から山脈を超えてロッチャ地域に入った。
そのまま中央都の城へ戻り、俺を見て驚くホネスに「まだ戦争中だから」と政務を手伝えないことを謝罪して、ドゥルバ将軍の元へと急いだ。
「ミリモス王子。どうなさいました?」
迎え入れてくれたドゥルバ将軍に事情を説明すると、急いで軍備を整えに走ってくれた。
「一両日中には抽出する各地の兵と兵糧を決定し、三日後には国境付近に集結を完了できるでしょう」
「予想以上に展開が早いね」
「道路が整備されていることもありますが、集合地点を定めて日時を指定すれば、兵どもが集まれるよう訓練してありますので。今回は、ハータウト国との国境の村を指定する予定です」
「それは頼もしい。ああ、そうだ。言わなくても承知していると思うけど。領内に残っている七千の兵の内、豪族の反乱を警戒して二千は守備に残したいんだ」
俺の慎重策に、ドゥルバ将軍が小首を傾げる。
「反乱して自治独立を宣言するものなど、もうこの土地にはいませんが?」
「兵がいなくなるんだから、絶好の機会だと思うけど?」
「ミリモス王子が領主になってから、治安と経済が大変に良くなりました。仮に豪族が独立宣言したところで、ついてくる民はいません。そしてミリモス王子がアンビトース地域を、ほぼ単騎で攻め落とされた話が伝わり、豪族たちは恭順の意を示しています。『騎士国の騎士の弟子に武力で叶うはずもなし』と」
なんだか盛大に誤解されているようだけど、いまはその誤解を利用させてもらおう。
「反乱の芽はないって話は分かったけど、やっぱり念のために二千は兵を残しておきたいよ」
「わかりました。その二千の兵を、効果的な配置になるよう差配いたしましょう」
詳しいことはドゥルバ将軍に丸投げして、俺は一日かけて体を休ませることに決めた。
美味しいものをたっぷり食べて、ぐっすりとベッドで眠るのだ。
でもその前に、同道してくれたファミリスとパルベラ姫に、甘いものを差し入れるよう使用人に通達をしておこう。
それとアテンツァとジヴェルデのところに顔を出して、少しだけでもいいから会話をしておかないと。あとでアテンツァに「放置気味です!」って怒られないようにね。
一日かけた休憩を終え、俺とファミリスにパルベラ姫、そしてドゥルバ将軍率いるロッチャの兵たちは、中央都を出立した。
街道を出来るだけ急いで進んでいくと、道々で各方面の兵たちが兵糧を乗せた馬車と共に合流する。
そうして終結場所である国境付近の村に、五千もの兵が集結した。
俺は兵たちを前に、演説を始める。
「ハータウト国を助けるにあたり、彼の国のエイキン王太子は俺に約束してくれた! ロッチャの軍勢が手にしたものは、全て俺たちの物にしていいと! それを聞いて、俺は決断した! ハータウト国の窮状を救った後で、フェロコニー国とプルニャ国を逆襲で攻め落とす! そうすれば、彼の国の土地は全て、合法的に俺たちのものにできる! そうなればますますロッチャ地域は繁栄すること間違いない!」
鼓舞するために調子の良いことを並べたところ、パルベラ姫とファミリスは苦笑していたが、兵士たちのウケは良く士気が高まった。
「「「うおおおおおおお! ミリモス王子に、栄光を!!」」」
「では、出発だ! ロッチャの鋼鉄の鎧は、フェロコニー国とプルニャ国の弱兵など跳ね除けること、戦場で証明するぞ!」
「「「うおおおおおおおおお!」」」
士気が高まった兵を携えて、国境を越えて一路ハータウト国の王城を目指して進んでいったのだった。
短いですが、キリがいいのでここで区切らせていただきますね。