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百五話 砦での話し合い

 ザードゥ砦に入ると、木製の太い閂がある大扉、木板の壁に粘土を塗った壁、その壁に矢を射るための穴――たしか銃眼というものが開いていることもあって、日本の城のようだって感想を改めて抱く。

 ただし、壁の基礎に使われているのは、石垣じゃなかった。

 『木垣』とでもいうのか、細い丸太を横向きに地面に積んでから、丸太の真ん中に穴を開けて杭で貫き止め、内側に盛り土をし、その上に壁を作っている。

 こうすれば、壁の内側と外側で高低差が生まれ、壁の上という高い位置から射撃がよりしやすくなるし、敵の突撃する勢いで壁を壊すような真似もし辛くなるわけだ。

 その仕組みに感じ入りながら、また別のことに気付く。

 砦の内側は兵が展開するために広い通路になっているのだけど、曲がり角が多かった。しかも、盛り土の具合も変えていて、短いスパンで上り坂や下り坂が作られている。さらに、砦の内側に入る道は一見しただけでは見落としそうな場所にある。

 まるで迷路のように入り組んだ砦の道を進み、五つほど大扉をくぐったところで、ザードゥ砦の最奥に到着した。

 俺は、ロッチャの兵たちにハータウト国の兵士たちとの交流するよう言ってから、パルベラ姫とファミリスを伴って案内役に導かれて砦の指揮官に会いにいく。

 湿った土が塗りたくられた丸太小屋、ここが指揮所らしく、中には立派な模様のある革鎧とマントをつけた五十代の男性と、板金が張られた革鎧の三十代の男性が大きなテーブルについていた。

 どちらが指揮官だろうとみていると、マントの男性がにこやかな様子で俺に喋りかけてきた。


「ミリモス王子。遠路はるばる、ようこそ援軍に来てくださりました。某が当砦を任されている、アーダです。そしてこちらが」

「下っ端兵士を取りまとめる、コプルであります」


 二人の自己紹介を受け、俺は元帥時代に習った礼法を取る。

 その後で、二人は俺のことを知っていたので、同行者二人の方だけ紹介することにした。


「挨拶、ありがとうございます。こちら、騎士国の次女姫であるパルベラ姫。その伴である、騎士ファミリスです」


 パルベラ姫が大国の王族らしい瀟洒な礼をして、ファミリスは武人らしい小さな目礼をした。

 二人が騎士国の人間と聞いて、アーダとコプルは色めき立った。

 そこに、ファミリスが冷や水を浴びせるように、硬い声色で釘を刺す。


「我々は、あくまでミリモス王子の行動の監視者。この戦いに助力を求められても、手助けをする気は一切ありません」


 取り付く島のない言い方に、アーダとコプルの意気が瞬く間に消沈する。


「騎士国の騎士は一騎当千。こちらに味方すると知れば、プルニャ国の兵たちはこれ以上戦うことなく引き上げると思ったのだが……」

「アーダ様。その言い方は、ミリモス王子とロッチャ地域の兵士たち、援軍に来てくださった方々に失礼であります」

「ああ、すまない。ミリモス王子たちの力を侮ったわけではないのだ。許されよ」


 俺は気にしていないと身振りしてから、現状について聞くことにした。


「この砦の兵士の数は? それと備蓄状況は?」

「三百名だ。備蓄は、生鮮物を運び入れたし、乾燥果物や木の実もあって、有り余っているほど。ミリモス王子とその配下に分け与えても、秋まで持つほどはある」

「こちらも冬前まで自分の兵たちを食わせるだけの糧秣を、こちらに運んでいる最中です。お互いに融通しあえば、春まで籠城できそうですね」

「戦争が冬を越すなど考えたくはないが、食料が潤沢にあること自体は望ましいことではあるな」

「それで、この砦を襲っているのはプルニャ国の兵だけですか? フェロコニー国の兵士は見ていませんか?」

「プルニャ国の兵だけしかいない。フェロコニー国の連中がいるなら、傭兵を前面に出してくるため、すぐにわかる」


 そういえば蹴散らした兵の中に、傭兵らしい者たちは見ていなかったな。


「プルニャ国との戦いは、先ほどので何度目で?」

「あれが最初だ。いままで、ここより三千歩は向こうにある森の中で陣地を築いていたのだ」

「プルニャ国の総兵数はいくつか、ご存知ですか?」

「詳しい数はわかっていない。千はいる。二千には届こう。三千はいないかもしれん」

「意外と小兵力ですね」


 俺の素直な感想に、アーダが頭痛を堪えるような格好になった。


「ミリモス王子は、ロッチャの価値観に毒されているようだ。小国で三千もの兵を賄うのは、並大抵ではないのだぞ。だからこそ、農民兵を用いて数だけは増やしたり、傭兵を一時雇い入れて戦力を上げようとするのだ」


 そう言われてみると、ノネッテ国はメンダシウム国という脅威が隣にあったのにもかかわらず、常備兵は五百人しか持てなかったっけ。

 ということはロッチャ地域の一万の兵って、鋼鉄の鎧も併せて考えると、小国相手なら楽に勝てるほど莫大な戦力なんだな。串剣と騎士国の黒騎士という切り札を使ったとはいえ、よくそんな相手に勝ったな、俺とノネッテの兵たちは。


「それにしても、プルニャ国の兵数は多く見積もっても三千ですか。輸送部隊がこの砦にくれば、ロッチャの兵だけで同数になるんですよね」


 これは打って出て蹴散らした方が、籠城するよりも楽なのではないだろうか。

 そんな俺の考えを見透かしたように、アーダが釘を刺してきた。


「ミリモス王子は戦争が得手だと知ってはいますが、逸って突撃はしないでいただきたい」

「戦争は機に敏に対応してこそだと思うんですが、ダメですか?」

「フェロコニー国の戦法がわからない内には危険が大きい。突撃して追いかけた先で、プルニャ国とフェロコニー国の軍勢が集結していたら、目も当てられない状況になってしまう」


 アーダの心配はもっともだけど、それは魔導具の木の鳥で偵察を飛ばせば、簡単に誘い罠を看破することが可能だと思う。

 そう伝えて突撃を強行することもできなくなないだろうけど、俺たちはあくまで援軍だ。砦の指揮権を握るアーダの顔を立てないといけないよな。


「それじゃあ、フェロコニー国の動向がハッキリするまでは、砦で籠城戦ですね」

「フェロコニー国がこの砦とは別の場所を攻めると分かったときには、改めてプルニャ国の軍勢を蹴散らすか、それともフェロコニー国に襲われている場所に救援に向かうかを話し合おう」


 お互いに方針を取り決めたところで、俺はロッチャの兵を纏めて休ませられる場所を提供してもらった。


「急いできたので、休める場所があって助かります」

「この砦は、内部に敵を引き込んで撃滅するために、土地は余分なほどに広くある。三千の兵が新たに加わろうと、両手足を伸ばして寝ることが可能だぞ」

「その砦の仕組みで、一つ相談したいことがあるのですが」


 ロッチャ地域やノネッテ本国にある砦と作りが違うため、戦い方がわからないと伝えると、アーダはコプルに指示を出した。


「先ほどプルニャの兵たちを追い散らしたことで、連中が再度襲ってくるまで時間ができたはず。この間に、ロッチャの兵士たちに大まかな籠城の仕方を伝え、訓練もしてやるといい」

「ハッ! 了解であります!」

「アーダ殿、コプル殿、感謝いたします」


 こうして方針が定まったところで、パルベラ姫が挙手した。


「ハータウト国は、この戦いについて、どのような見解をお持ちでしょう。自分たちが正しく、フェロコニー国およびプルニャ国は間違っていると、そう考えていますか?」


 パルベラ姫の突然の質問に、アーダは面食らった様子だったが、すぐに表情を整えてみせる。


「もちろん、今回の戦争理由――我が国がフェロコニー国の領土侵犯をしたなど、事実無根であると改めて表明いたす。そも問題の緩衝地帯における木の伐採にしても、本当に我が国が行ったか怪しいものですので」

「フェロコニー国がハータウト国を攻めるための作った、偽りであると?」

「そうまでは言い気はないが、旅人が切り倒したり、魔物が折った木を発見したフェロコニー国が、これは良い理由になると考えた可能性もあるわけでして」


 アーダの物が口に挟まったような言い方から察するに、問題の木を伐った者がどこの誰かを、ハータウト国は掴めていないんだろうな。

 掴めていたら言葉を濁すことなく、ハータウト国民が採ったのなら事実隠蔽のため、フェロコニー国民が採ったのなら真実公開のために、『我が国はやってない』って表明するだろうからね。

 そのことはパルベラ姫も思い至ったようで、これ以上の追求はしなかった。その代わり――


「皆様の戦いが、真に『正しい』ことであると祈っております」


 ――なんて不正を見つけたら騎士国が出張っていくと聞こえるような、不正を働いていたものが聞いたら縮み上がるような物言いを残してくれたのだった。

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