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百話 情報を求めて

 ソレリーナにフェロコニー国の動向を気を付けろと言われたので、急いで情報を精査してみた。

 けれど一つ国を挟んだ向こう側にある国の情報は、インターネットなどの通信がある前世とは違って、大したものがなかった。その情報であっても、どれもこれもが行商人や旅人からの伝聞で、確証のある情報とも言い難い。

 いったいソレリーナは、どうやって情報を掴んだのだろうと、疑問に思ってしまう。


「仕方がない。知っている人に聞こう」


 情報を得られる当てが、実は一つだけある。

 それはパルベラ姫――もっと細かく言うなら、騎士国の黒い鎧を着た騎士。ノネッテ国とロッチャ国との戦いで、俺がドゥルバ将軍と一騎打ちした際に出てきた、あの黒い人物は、気配を消す神聖術を用いて各地で情報収集をしている、いわば騎士国のスパイとか忍者の類だった。

 協力を得られれば、フェロコニー国の情報も手に入れることが可能なはずだ。

 そんな人物がどこにいるかを、俺は知らない。

 知らないけど、気配を消す神聖術の特性と、パルベラ姫のいる場所を考えれば、大まかな検討はついた。

 俺は廊下を歩き、パルベラ姫の部屋の扉をノックする。

 するとすかさず、ファミリスが扉を開けてくれた。


「ミリモス王子、どうかしましたか?」

「ああ、ちょっとね。入っていいかな?」


 ファミリスが一度部屋の中に視線を戻す。恐らく、パルベラ姫に許可を取るためだろう。


「いきなり来たのです。大したもてなしはできませんが」

「気にしないで。用が済んだら、すぐにお暇するから」

「……いえ。やはり茶と菓子ぐらいは必要でしょう。使用人に用意させます」


 なにか俺を足止めしたいような言い方だな。

 その意味合いがわからないけど、お茶と菓子を用意してくれるというのだから、相伴に預かるとしよう。

 俺が部屋に入ると、パルベラ姫は微笑みを持って迎え入れてくれた。


「いらっしゃい、ミリモスくん。私にご用がありでしょうか?」

「ああ、うん。ソレリーナ姉上が、フェロコニー国に気を付けろって、変な情報が入ってね」

「その情報の真偽を、聞きに来たわけですね。でも、ごめんなさい。フェロコニー国の情報に、目新しいものはなかったはずです」

「うーん。パルベラ姫が知らないとなると、ソレリーナ姉上の考えすぎか、それともロッチャ地域とは関係が薄いと判断して情報が上がっていないかのどっちかだろうね」

「そうですね。私に関係が薄い情報は、得ようと思わなければ伝わらない仕組みになってますし」


 人の口に戸は立てられない。

 騎士国の姫であろうとそれは変わらないため、国防や情報取り扱いの観点から、例の黒い人物が掴んだ情報を一から十まで伝えることはしないだろう。知らせないことが、最も強い情報封鎖になるわけだしね。

 そう理解はするとして、ハータウト国がフェロコニー国に負けてしまうと、売った武具の代金を回収しきっていないロッチャ地域の損になってしまう。

 ここは是非とも、情報を貰わないといけない。

 そう決意して、俺はこの部屋の角――柱と壁で人が一人入れるぐらいのくぼみがある場所へ声をかける。


「ねえ、黒い鎧の人。フェロコニー国について、新しい情報はないかな?」


 俺の言葉に、パルベラ姫はもとより、使用人からお茶と菓子を受け取っていたファミリスも驚いていた。


「もしかして、ミリモスくんは黒騎士の気配がわかるのですか?」

「パルベラ姫様、それはあり得ないことです。傑出した騎士であろうと気配を掴めないからこそ、黒騎士なのですよ」


 疑いの目を向けられたので、俺は二人の目の前で気配を消す神聖術を使ってみせる。

 その途端、パルベラ姫とファミリスの顔が困惑に代わる。きっと二人の目から見ると、俺がここに座っているはずなのに、しっかりと認識ができないという不可思議なことになっているはずだ。


「こんな風に、俺も気配を消す神聖術は使えたりするんだよ。そしてこの神聖術の欠点も、良く知っている。だからこそ黒い鎧の人――黒騎士だっけ?――その人が居そうな場所に当たりをつけることはできるんだよ」


 エッヘンと胸を張りながら神聖術を解くと、パルベラ姫は目を輝かせ、ファミリスは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「まさかミリモスくんが、黒騎士の素養まで持っているだなんて」

「本当に規格外ですね。神聖術を独学で発現しただけでも驚きなのに、魔法だけでなく、『陰の神聖術』まで使えるとは」


 パルベラ姫は兎も角、ファミリスの言葉に俺は疑問を持った。


「普通の神聖術は力を膨らませて、その陰っていう神聖術は力を小さくするだけなんだから、両方使えない方が変じゃない?」

「そんな単純な話ではないんです! 本当にミリモス王子の頭の中がどうなっているのか、割って確かめてみたいですよ」

「物騒だな。ねえ、そう思いませんか、黒騎士さん」


 俺が言いながら視線を向ける先は、パルベラ姫の座る椅子の後方。

 その場所に黒騎士がいるという確証は、実はない。でも俺が気配を消す神聖術を使っていたら、パルベラ姫とファミリスと話しているうちに移動するであろう場所が、そこなのだ。

 俺が外見は自信満々に、内心では外していたら恥ずかしいなと思いながら少し待つと、黒騎士が部屋の中に現れた。正確に言えば、気配を消す神聖術を解いたことで、ちゃんと認識できるようになった。

 出はどこにいるかというと、俺が予想した通りに、パルベラ姫の後方に控えるように立っていた。


「本当に見抜かれているとは……」


 全身を真っ黒な鎧で覆った黒騎士が発した、兜で遮られてくぐもった声に、俺は疑問を抱いた。


「前に俺と会ったことがある人じゃないね。あの人は男性だったはずだし」

「はい。姫様とファミリス様の側付きは同性である方が望ましいと、配置転換があったので。それと監視対象であるミリモス王子は善良という評価になってるし、ロッチャ地域は平和で、黒騎士としての仕事が少ないもので」

「彼には、その才能に見合った情報収集が重要な場所があるってことだね」

「あの方であれば、ミリモス王子に居場所を予想されることはなかったでしょうから」


 俺が女性の黒騎士と話していると、パルベラ姫がパンと手を一つ叩いた。


「世間話はそこまでで十分ではありませんか。ミリモスくんはフェロコニー国の情報を、黒騎士から聞きにきたのですよね?」

「そうだった。ということで、教えてくれない?」


 俺たちの要請に、女性黒騎士は困惑する声を出す。


「フェロコニー国の情報はいくつかありますが、これは神聖騎士国が保持するべきものであり、他国の者であるミリモス王子に教えていいものでは――」

「構いません。教えてあげて」


 パルベラ姫に言葉を遮るように言われて、黒騎士の困惑がさらに強まる。


「姫様。情報というものは、秘して価値を発揮するもの。無暗に披露しては、各地での黒騎士の働きが無に帰することに繋がるのですよ」

「なにも世界中の情報を渡せと言っているわけじゃないのよ。それにミリモスくんには日ごろ良くしてもらっているんだもの、これぐらいの役得はあげてもいいんじゃないかしら?」

「それは、そうかもしれませんが……」


 煮え切らない黒騎士の態度に、ファミリスが使用人が配膳した茶を飲んでから苛立った。


「パルベラ姫様の要請だ、話してやれ」

「……ファミリス様。正騎士と黒騎士とは指揮系統が違う。その命令に従う理由はないぞ」

「平和な後方に置かれてしまう程度の実力しかない、半端な黒騎士が良く正騎士や騎士王の姫に反抗の言葉を口にできるものだ。増長が過ぎると自分で思わないのか?」


 ファミリスが剣呑な気配を発し始めると、黒騎士は降参とばかりに肩をすくめた。


「姫様の要請に従いましょう」


 言外に『ファミリスの言い分に従うわけじゃない』との言葉に、ファミリスの口の端が獲物を噛み割こうとする直前の肉食獣のように釣り上がる。

 正騎士と黒騎士って仲が悪いのかなと感じつつ、俺は黒騎士とファミリスの間に割って入る。


「いい大人かつ同じ国の出身なのに、喧嘩しないでよ。それで、フェロコニー国の情報を教えてくれるんだよね?」


 黒騎士は一瞬だけ兜の隙間から鋭い視線をファミリスに向けると、俺には平静を取り戻した態度に変わり、フェロコニー国の情報を口にし始めた。

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