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八十七話 ミリモスは悩む

 街の散策を終えて自室に戻り、そのままの格好でベッドに飛び乗ると、今日のことを思い返しながら考える。

 パルベラ姫が俺に好意を持っていることを知ったいま、俺はパルベラ姫のことをどうしたいのだろうか。

 正直言うとパルベラ姫のことは、大国の姫様で監視者だと考えていたので、恋愛の対象だと見たことはなかった。


「だからといって、嫌いな相手ではないんだよなぁ」


 むしろ、パルベラ姫と少なくない時間近くにいて気心も知れてきたので、喋っていて楽しい。

 それなら受け入れてしまえばいいと、自分のことながらに思うのだけれども、そうは問屋が卸さない。

 仮にパルベラ姫が、なんの立場のない可愛らしい少女だったのなら、普通に付き合えばいいだろう。付き合った結果、失望されて恋人関係が終わったとしても、それはそれで一つの恋の物語と言える。

 けど、パルベラ姫が騎士国のお姫様という事実が、ここに重くのしかかってくる。


「他国の姫と恋人になったのなら、あっさりと別れることはできない。そしてパルベラ姫と付き合うことを決めるなら、なずは騎士王に謁見して許しを得ないといけない」


 俺は腰から短剣を取り出し、柄にある騎士王家の紋章を見つめる。

 この短剣を使えば、問答無用に騎士王に一度だけ謁見ができるため、面会することはできるだろう。

 でも、軽々にそんな真似はできない。

 それこそファミリスが言っていたように、大陸を二分する大国の片方の王に俺の力を認めて貰わないといけない。その実力が伴っていない間に短剣の効力を使ってしまえば、無意味以下の結果になることは目に見えている。


「そんなに実力がつく自信がないからって、パルベラ姫の気持ちを拒否したりしたら、格好悪いことこの上ないし……」


 俺は男子だ。そして男子とは、好意を持ってくれている女性に対して良い格好をしたいものと相場が決まっている。少なくとも、俺がパルベラ姫の恋心を真に拒否すると決めるまで、パルベラ姫が好きなままでいてくれるように俺は努力するべきだし。

 その努力の仕方だって、パルベラ姫がいままでの俺の活動を見て失望していないことを考えれば、なんら難しいことはない。


「いままでやってきた活動を、そのままやり続ければいいだけだろうしね」


 つまりは今まで通りに行動することが、パルベラ姫との関係を続ける最上の方法だろう。

 そう考えを出したところで、再び問題は原点回帰してしまう。


「結局のところ、俺がパルベラ姫をどう思っているかが重要になるんだよなぁ」


 好き嫌いで判別するなら、俺はパルベラ姫のことは好きだ。

 けどそれは恋愛感情ではなく、友達とか知り合いとしての分類でだ。

 特定の相手に恋愛感情を抱いているかを図る指標として、『その人が自分とは違う人と付き合っている場面を想像する』というものがある。俺がパルベラ姫を相手にやってみてたところ、少しだけイラッとするだけで、何が何でも止めさせたいという気持ちは出ない。


「イラッとくるってことは、少しは好意を持っているってことではあるんだろうけど」


 堂々巡りのように、延々とパルベラ姫のことについて考えに考えていく。

 そうしていて、ある時点を境にして、俺は悟った。


「わかっていない気持ちのことを考えてもしょうがない。でも俺自身がパルベラ姫が好きだと自覚したそのときは、俺から告白プロポーズしよう。そして騎士王にも会って、どんな障害があっても乗り越えて、パルベラ姫と結婚しよう。そう決めた!」


 自分への宣言として言い放ったところで、もやもやしていた気分は晴れた。

 そうして軽くなった気分で寝てしまおうかと考えて、自分の体力がまだまだ余っていることを自覚する。

 今日一日は街の散策をしただけで、あまり体力は減ってなかったんだった。

 この余った体力がもったいないように感じて、剣を振って消費しようと部屋を出ようとする。

 しかし直前で、部屋の前に誰かがいる気配がした。

 すわ刺客かと心身を戦闘用に構えたところ、気配は一つだけだし敵意は感じられないと察知した。そして扉の先にいる相手が、なぜか戸惑っているような雰囲気を発していることも悟る。

 どうしてだろうと疑問に思いつつ、気を付けながら扉を開けた。

 すると目の前に、いままさに扉をノックしようとしていた格好で固まる人物がいた。

 相手を視認した瞬間はソレリーナがいると錯覚したものの、その肌色を見れば別人だとすぐ理解できた。


「アテンツァさん。僕の部屋に来るなんて、どうかしたんですか?」


 姉のソレリーナと肌と髪色以外は似ている人物にそう問いかけると、アテンツァは背伸びして俺の部屋の中を覗く。


「部屋にはミリモス王子以外、誰もいらっしゃりませんね?」

「ええ。もしかして、内緒話ですか?」

「そうですね。内緒話といって差し支えないでしょう」


 容量を得ない言い回しだけど、とりあえず話があるらしいと理解して、アテンツァを部屋の中に通したのだった。


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