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三噺 歓迎


 暗くなりつつある森の中を、矢のように飛ぶ炎が赤く照らす。

 やがて炎は目標にぶつかって燃え盛り、獣の悲鳴が静かな森に響き渡った。


「随分と魔物が多いな」


 溜息交じりに呟きながら、杖を振るい狼の魔物を捉える。ソルマを連れ自分の城へと戻ろうとしているのだが、襲いかかって来る魔物の多さに辟易していた。

 一方のソルマはその真っ赤な腕を振るいながら、飛びかかってきた狼を炎で吹き飛ばしていた。


「手厚い歓迎ではないか、よっぽど貴様のことを警戒していると見えるぞ、ゴテルよ」

「嬉しくもないもてなしだ」


 両手を広げ首をすくめるソルマの冗談に苦笑しながら、杖を振るい最後の魔物を倒す。

 このように襲いかかってきた魔物の群れ、そのいずれにも共通点があった。


「私達の遭遇したいずれの魔物達も、群れを率いる個体だけが魔力を十全に扱え、その個体には魔法の痕跡が残っている、と」

「手数で足止めしようという魂胆であろうな、我や貴様の相手ではないが……」

「放置するわけにもいかないのが厄介だな」


 魔物の群れを率いる個体には、いずれも魔法で干渉された形跡があった。何者かが私を足止めしようとしているのだろうが、無視して進む訳にもいかない。

 放置した魔物は成長し厄介な存在となる。次第に人間を襲うようになり、やがて人々の手に負えなくなる程に凶暴化してしまう。そのため放置は出来ないのだ。


「我としては、もう少し骨のある奴を寄越して欲しいものだが」

「それはお前が戦いたいだけだろう」


 そんな風に話していたソルマだったが、突如後ろに振り返り、何かを睨め付けるかのように目を細めた。


「む……ゴテル、今のは」

「ああ、分かっている。この魔力は……魔法の行使か」


 何者かが魔法を使ったのであろう、一際大きな魔力の反応があったのだ。


「あっちには何があるのだ」

「その方角は私の城……いや、近くにある村の方か」


 ソルマがその赤い手で指差すのは、流れ者達が集まって出来た村の方向であった。

 自らの城には結界を張っているが、流石に付近の村は範囲外だ。


「この犬共は我と貴様を引き付けるための囮……してやられたか」

「だが何もないあの村に一体何の用だ? 目的が分からないな」


 村には訳ありの人間が多いがそれだけであるし、価値のある何かがある訳でもない。

 ラプンツェルを狙っているはずの敵の狙いが見えず、少し焦りのようなものを覚える。


「とにかく急ごう、嫌な予感がする」

「貴様の勘は昔からよく当たる、悪い方ばかりであるがな、フハハ」

「笑い事じゃないだろう」

 

 戦いの匂いがすると笑っているソルマに適当に相槌を打ちながら、暗くなりつつある森の中を急ぐ。


 夜の空気を連れた冷たい風が木々の枝を揺らし、葉の擦れ合いが何かを急き立てるように騒いでいた。




~~~




「報告は以上になります」

「ご苦労、ネイ」


 海底に沈む城塞の一室に、二人の女性の話す声が反響する。


「深緑の魔女は相変わらず動き回っているようね。過激派が減った今、本格的に復帰されると非常に厄介だわ」


 豪華なドレスにティアラを身に付ける青き悪魔、エンデは真っ赤な玉座にもたれかかりながら愚痴をこぼしていた。

 隠れ蓑が少なくなった、と肩まで伸びた黒髪を弄りながらぼやいている。


「肝心の神の愛し子の方も、人間にしては随分と守りが硬いわね。まさか王城にいるなんて思いもしなかったわ……夜中に誘拐でもしてやろうかと思ってたのだけれど、あの国の王城には結界が張ってあるのよね」

「はい、あの結界は魔法に理解のある者が作ったものかと」


 そんな不貞腐れた様子のエンデを、表情の抜け落ちたような顔で見ているのは、白き悪魔のネイ。

 感情を露わにするエンデとは対照的に、無感情な声色でただ淡々と言葉を発している。


「あー面倒ね! いっそのこと一気に王都を侵攻して、ついでに人間ドモから魔力回収してしまおうかしら」


 イライラとした様子を隠す様子もなく黒髪をかき乱すエンデだったが、突然動きを止め顎に手を当てて何かを呟き始めた。


「……我ながらいい考えだわ、どうせ深緑の魔女も警戒しないといけないし、戦力を整えて一気に蹂躙しちゃいましょう!」


 人間にとって最悪の結論に至ったエンデだが、彼女の目に映るのは自らの欲望のみ。その惨劇を生み出すためにどうすればいいのか、頭の中で悪夢のようなパズルを組み立てていく。


「となると()()の完成は最優先ね。最後のピースを手に入れるためには、深緑の魔女の城に近付くことになるけど、私の操っている魔獣で足止めくらいにはなるでしょう……ネイ!」


 唐突に玉座から立ち上がったエンデは、ネイを引き連れ部屋の外へと歩いていく。


「計画どおり、目を付けていた例の人間を使うことにするわ、準備しておいて頂戴」

「はっ」


 悪魔の計画を聞いていたのは、静かな海と物言わぬ魚達だけだった。





 森の向こう側に沈みゆく日が、燃えるように赤くなりつつある夕暮れ時。

 魔女の森という物騒な名がつけられた森、その奥深くにある流れ者達の村のとある家。細身の女は一人ベッドに寝転がり、眠たくもないのに惰眠を貪っていた。

 だが。


 こんこん。

 そんな静寂を破るように、玄関の扉が叩かれる。

 女は驚いていた。この家を訪ねるような人間は自分と夫を除き、二十年間で一人もいなかったからだ。


 こんこん。

 再び扉が叩かれる。

 そして二度目のノックの音から時間を置かずに、ギシィと開かれる扉。玄関口に立っていたのは、派手なドレスを着た女であった。


「だ、誰!? 私の家に何の用よ!?」


 だがドレスの女は人間ではなかった。その肌は海のように青く、頭には羊のような巻角が生えている。

 警戒心を隠さず怒鳴るように正体を問う女に対し、青い女――エンデは口角を片方だけ上げ、不気味な笑みを浮かべる。


「ワタシは……そうね、アナタの娘を気にかけている者、とでも言っておきましょうか」


 黒い髪の上に乗るティアラを弄りながら、曖昧な言葉ではぐらかすように返事をするエンデ。

 明らかに怪しい存在に目を細め訝しむ女だったが、エンデの次の発言を聞いて思わず目を見開いた。


「魔女に連れ去られたアナタの娘、どうなったか気にならない?」

「……!」


 その台詞と共にエンデの魔力が高まり、部屋の中に霧のような白い何かが薄く拡散していく。女はその霧に気付かず、呼吸と共に体内に吸い込んでしまった。

 すると次第に女の目から光が失われ、どこか虚ろな表情になっていく。


 エンデは魔法で生み出した水や霧を対象の体内に吸収させることで、相手の思考をある程度操ることが出来る。動物や魔物などの理性の薄い動物ならほぼ支配下に出来るが、理性のある人間相手では思考の傾向を誘導する程度しか出来ず、魔力を持つ人間や悪魔には抵抗されるため殆ど効果はない。

 しかし「言われたことを疑わなくなる」ように誘導された女は、怪しいどころか人間ですらないエンデの話を信じ込むようになってしまう。


「娘は既に魔女の元を離れたわ、どうしてだか分かる?」

「い、いや、聞きたくない!」

「あの魔女はね、お金欲しさに娘を王国に売ったのよ!」


 そんな女に対し、青き悪魔は声高らかに嘘を紡いでいく。女は娘の悲惨な末路を想像してか耳を塞ぐが、エンデの言葉が止まることはない。


「王子に慰み者にされ、望まぬ子を産まされ……ああ、可愛そう!」

「そ、そんな……」

「悔しいでしょう、怨めしいでしょう、殺してやりたいでしょう?」


 エンデの作り話を聞いた女は悔し気に歯を食いしばるが、無意識に握った拳は弱々しく震えていた。


「……でも相手は魔女、そんな恐ろしい存在に私なんか敵う訳がない」

「ええ、だからアナタに力をあげるわ」

「力?」

「そう、魔女をも凌駕する人知を超えた力。その力で魔女を殺すも、王子の国に復讐するもアナタの自由よ」


 強大な力が簡単に手に入るとうそぶくエンデ。だが悪魔の魔法にかかった女は、その言葉を疑う素振りさえ見せない。


「アナタの娘を、取り返しに行きましょう?」


 エンデは不気味な笑みを浮かべながら、その青い手を差し伸べる。

 女は悪魔の差し出した手を取り、日の入りと共に暗闇に包まれた森へと消えていった。


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