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5話


サバゲーをする際に、公式戦等では[コスト]というものが定められており、好き放題弾薬や武器を自由に持ち込んで闘うことはできないようになっている。




全国大会、世界大会は全て2000と一律で定められている。非公式戦では3000だったりする所もあるし、無制限というのも稀に見ることはあるだろう。




「兵器持ちと戦うのも久しぶりだな」


ロシア顔、左目に傷を負った男はそう呟く。手にはフランス製のブルパップ式アサルトライフル、FA-MASが握られていた。




「サバゲーもここまで来ると完全に戦争のソレだわ」


ホスト調の金髪の日本人の男がその呟きに呟きで返す。




「…そろそろっス」


筋肉マッチョの、普段は無口で自分からは一切会話を振らない男が、危険が近付いた事を知らせて警戒を促す。




「軍曹、状況を教えてくれ」




「分かった。それぞれの偵察の情報から行くと戦車が3台、装甲車両2台、ミサイルをたんまり積んだ戦闘車両が1台。」




「ペイント弾ミサイル!? イカれてやがるな…」




「安全性とか大丈夫なんかねえ…」




「まあ運営が通したってことは大丈夫なんだろうがな」




「…」




「あーこういうことがあるからコスト無制限の非公式戦は嫌なんだよなあ」




コスト無制限。つまりありとあらゆる、公式で使用が許可された武器、防具、兵器の使用を許されるのだ。某低身長凄腕JKスナイパーが2000以内で取り付けられる装備は、彼女愛用のスナイパーライフル、L96A1type.s。コスト850。257マグナムのコルトガバメント一丁、これがコスト400。弾薬がどちらも合わせて200で、フードつきクマパンダマントが謎に500のコストをしめている。




それに対し装甲車は一台コスト24000。つまりコスト比だけを見ても、歩兵隊12人分の働きをする事が見こされているのだ。




サバゲーの圧倒的な普及により、ゲームとしての規模も格段に跳ね上がってしまったせいで、時折こういった大げさな戦いになってしまうことも珍しくは無くなってしまった。






余談だが、ワールドフォースランキング1位[S]は、挑戦する側が20万ドル用意すれば数ヶ月後には戦えるよう取り計らわれる、とても面白みのある[挑戦権システム]がある。条件は挑戦する側のレートが全員14500以上であること。何ヶ月後になっても一切文句を言わないこと。




「んで、確か公式戦のルールで戦うってルールもあったはずなんだがな」




「今回は大量に金積まれたからな」




「俺らそんなに金には困ってないじゃん! なんで受けるかなあ隊長…」




「本部からの圧力だ、許せ」




「ああ、JJ社のお所望で…」




JJ社はこのサバゲー時代の、全ての元凶であり、今でもそれは変わらない。未だにペイント弾の成分の内訳を非公開にしているし、謎のテクノロジーを多数独占して、全てサバゲーという[ゲーム]そのものに投資しているのだ。




「あっこの社長やっぱ頭どうかしてるぜ」




「…俺も、それは思うっス」




「まあやろうや。戦車も今は散開してるらしいし、一気に片付けるぜ。s2からs8まで、各自よき働きをな。」




そうして通信機から7人分の、




「了解」




の声が隊長と呼ばれるその男の元の耳元へしっかりと届けられた。






____


「さあて、どうしようかねえ」


好青年サラリーマン(な見た目をしている)はスーツのネクタイを少し緩めて、木の影から一台の戦車とその周りを警戒するように並走する装甲車両二台を睨んだ。




「てーつーさん! 流石にこれは四人じゃきついって! しかもあの装甲車両のペイント弾めちゃくちゃ大口径じゃん! 戦車のとかもはや圧力洗浄レベルでインク打ち出してくるタイプのやつだよあれって!」




「まあ、みやっちゃん、落ち着け。策はある」




「軍曹の策って大抵私囮じゃん」




「囮が嫌ならせめて武器の一本でも持ってきて戦う意志を見せたらどうなのかと思うけどな…」


アメリカ人なのであろう、自然な金髪と青眼の男がミヤと呼ばれた少女にツッコミを入れたくて仕方が無いようだ。




「仕方ないじゃん! 私の撃つ弾人生で2回しか当たったことないし!」




そう言って彼女は一切戦う気のない、ファッション性だけを追求した戦闘服のスカートの裾をぎゅっと握って抗議した。彼女自身がデザインしたもので、自分の学校の制服をモチーフにし、全体をピンクと黒を基調としたそれは、あまりにも木々の中では目立ってしまう。




ちなみに小さめのリュックも入っているが、武器の類は一切無く、水筒とお菓子がそこそこに入っているただのオシャレバッグでしかない。




「しかも仲間にな」




「あれはほんとに悪かったって」




「まあそんなみやっちゃんだからできることもあるってもんさ、行ってきな。そのまま戦車まで全力疾走。そのまま走り抜けてくれていい。」




「はいはい、分かりました。行きますよって」




そう言って、彼女はトップランカーチームの仲間であることを忘れた並のJKの走りで、お世辞にもそこまで早いとは言えない彼女なりの全速力疾走で敵の前へと躍り出た。




「うお、S8だ、撃て、撃てー!」




「ひいいいいいい」




__彼女は[S]の中で最もオカルトな存在と言っても過言では無い。彼女は公式戦では一弾も撃たず、そして一弾も撃たれたことがない。インクが掠めてダメージ%を蓄積させることはあっても、直接弾を受けて大ダメージを被った事が1度もないのだ。




ある時は撃たれた直後にたまたま足元に石ころにつまづき射線をかわし、ある時は彼女撃とうとした人間の銃が暴発してバラバラになって。ある時は折れた木の枝が丁度落ちてくるタイミングと、彼女へ向けて撃たれた弾丸が着弾するタイミングがジャストで重なって目の前でインクが爆散したりと。




「まああれはある程度の無茶をしても問題無いだろう」




「軍曹ってみやっちゃんに当たりきつくない?」




「仕方ない。彼女は前に散々食うなと忠告した私のお気に入りのアレを食べてしまったのだから」




「…それでか」




彼らのペースは一切崩れない。いつものように動いて、殲滅できる時に一気に動いて、全て同時進行で事を運ぶ。




「おー撃たれてる撃たれてる」




「ほーら当たってねえ。あの装甲車両の砲台なんかジャミったっぽいし」




「流石ラッキーガールだねえ」




「じゃあ行くか」




サラリーマン、金髪、メガネは真ん中右左と散開し、c4を模して作られたペイント爆弾を抱えてそれぞれの車両の懐へと飛び込んだ。






____




「まあ、隊長のところもみやちゃんの所も一瞬でカタがつくよね~」




「どうする?俺達は二人であの戦車やれってことらしいけど」




「…今隊長から通信来た。俺のとこもみやっちゃんのところも決着着いたから、お前らは別に動かなくてもいいけどどうする?だって」




「折角だし暴れて帰ろう」




「まあやっぱりそうなるよね」




身長145cmの女子高生。今は一目で高校生と分かる目印は無い。白いクマのようなものをモチーフとした仮面に、全身を覆う同じく白くクマかパンダか分からないものをモチーフとしたフードつきマント。手には自分の身長に追いつくくらい銃身の長いスナイパーライフル。




そしてもう一人は身長169cmの男子高校生。銃と呼べるものは一つとして身につけていない。腰と太腿のところに二本ずつ、大きなコンバットナイフが収納されている。




「ナイフじゃ戦車は無理じゃないかなあ」




「タンクを狙えばいけると思う」




「なるほど」






じゃあ今回はその作戦でいこうという事になり、男のほうが歩いて目の前の敵戦車へ姿を晒す。




砲身が男のほうへと向き、発砲。弾というよりインクの高圧噴射だ。一気に横へ走り抜けた為、少しの飛沫さえ付着することはなかった。




「タンクは後ろかっ」




回り込み、腰からナイフを展開して叩きつけるように戦車へ切り込むように振る。




だが、戦車に搭載されたダメージシステムの識別はそれを1のダメージとすらも捉えなかったらしい。そのまま戦車は後ろへ急発進する。男の反応が遅れていれば、引かれていたかもしれない。後ろへの大きなステップは戦車の初速をギリギリで越えた。




「おいおい、殺す気かよ…おっかねえ」




「アオイ、大丈夫!?」




「もう許さねえ、乗り込んでやる」






「アオイ、もしかして…」




「ルール違反ではない、許してくれ。んでもって、力を貸してくれ」




「しょうがないなあ」




そう言うとスコープ越しにどうなるかを伺っていた女は、ふわりと木陰から飛び出る。あえてスナイパーが前に出るという、普通では考えられない暴挙。




「ほらほら、芋砂はこっちですよーだ」




それに釣られるように、砲身が白いスナイパーへと向き、発射。高圧噴射されたビームのようにも見えるインクは、彼女に当たることは無く、彼女を避けるかのように何本ものビームに分かれて地面へと落ちていった。




それは彼女が撃った弾丸が、真ん中からそれを裂くように計算されたものだったからだ。彼女の腕はかつての伝説、シモ・ヘイヘを超えると言われているのだから。




そのまま撃ち出された弾丸は砲身まで辿り着き、着弾。砲身部分がインクの圧力に耐えきれず、変形しその部分だけ破損。




「アオイ、行って!」




「ありがてえ」




ごく小さな隙間だったが、彼のナイフが通るには十分な距離だった。戦車の上をバク転の要領で腕で大きく飛び、そのまま戦車の中にいた乗車員四人全員を投げナイフで仕留めた。一人一本、全員首元を狙った超ファインプレーだった。






「投げる場所の角度を変えれば全員当たるくらいの穴の大きさだった、インクの噴射する機構が強力じゃなかったらひしゃげてなかったろうし、まあなんであれ助かったな」




「グッドプレイ、アオイ!」




そう言いながら高校生同士の男と女はハイタッチをかわした。この二人は基本的にこの二人ででしか動かない。それ故に言わずともとれる連携、カバーは見事なものである。




「今日の晩御飯が気になるところだな」




「確かに。隊長どこ連れて行ってくれるんだろうね」






本日は日曜日、明日からまた学校が始まることを考えれば早めに飛行機に乗って帰りたいという思いもあるが、久しぶりの遠くで全員での部隊戦。当然とも言える快勝の打ち上げは、今日はどういったものになるのだろうかという期待に胸を膨らませた二人。お互いに見合って、意味もなく笑いあった。

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