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4話

「ね、眠い…」




身長145cmの、一部では[悪魔のワタ]と恐れられているスナイパー、サヤ。




サバゲーワールド個人ランキング12位。武器別スナイパーでは1位。レートは16700。そして彼女の所属する部隊[S]もワールドランキング1位。




そんな世界を沸騰させたシモ・ヘイヘもびっくりなスナイパーだが、彼女は銃を撃っている時以外は、その辺のごく普通のJKと変わらない。身長が小さいことと、贔屓目なしに見ても可愛い容姿が備わっている事を除けば、ほんとにどこにでもいる、授業中もうとうとしてしまうただの高校二年生だ。




「昨日の夜戦訓練長引いちゃったから…隊長、九時で絶対終わらせるって言ったくせに…」




ちなみにだが、サヤの家は[S]の事についてはあまり干渉してこない。なにより、サヤ本人がやりたいと思った事を尊重してくれているため、[S]での活動を制限されることは全くない。






「確かに心配なのは心配よ。もの凄く。でも引っ込み思案だったあんたが自分で何かやりたいって言ったのは初めてだったからね。私は信じるよ。ただ怪我してきたら承知しないからね?あんたらもよ!」


と、[S]に入る時に隊長とテツさんの前で話したことを今でも覚えている(珍しく隊長もテツさんも震えて恐怖していた)。






「結局帰ってお風呂とか入ってたら1時回っちゃったし…肌に悪すぎる…」




ただでさえ外に出て活動する事の多い毎日だ。風に吹かれ、日焼け止めを塗ろうが何しようが毎日突き刺す日差しには、少しの諦めさえも感じる。




「ちょっとサヤー! また寝てたでしょ!」




「…ああ、ハル…おはよう…」




「おはようじゃなくて、もうチャイムなってお昼だよ」




「う、うそ!? 全然ノートとれてないよ~」




「仕方ない、恒例のごとく私のノートを写させてあげよう」




「ハルちゃん大好き~!」




「都合のいい女ねぇ…」




彼女はハル。高校に入ってからのお友達だが、未だにサヤが[S]の一員であること。ましてサバゲープレイヤーである事すら知らない。




「そういえば今日もまた[S]の特集やってたねー!」




「へ、へえ、そうなんだ」




「やっぱかっこいいよね~、私全然サバイバルゲームの事とか分かんないけどさ! やっぱりあの仮面の下が気になる所だわ」




「あ、あはははは…」




「サヤは本当にサバゲー興味無いよね~」




「いや、ないというかなんというか…」




一年ほど前から言うタイミングを逸してしまい、そのまま彼女には隠したままになっている。本当は今すぐにでも言ってしまいたいのだが、これといって言う機会も無く、そのまま保留になってしまっている。




ハルと机あわせで弁当を広げながら、いつものごとく彼女は私の唐揚げを箸でひょいと持っていき、代わりに彼女の卵焼きを私の箱の中に運ぶ。




「いつもありがとうねハルちゃん」




「まったく、肉を食べんから背が伸びんのだよ」




「唐揚げはちょっと油が多すぎて…むり…」




「はーそんな甘えた事言ってるからちっちゃいのよ」




「む」




「背とか、色んなとこがね」




「むむむ」




そのまま頬を膨らませてハルに無言の抗議をする、が、確かに非は自分にあり。仕方ないので目で降伏の合図を送る。




「ははは、まあいいんじゃないの、ちっちゃくても」




「嫌だよ! 色々不便なんだよ! 背がちっちゃいせいで銃持つ時もつっかえちゃ…」




「ん?銃?」




ご飯をもひもひと食べながらハルが問う。




「あ、いやいや、えっと、背が高かったらもっと[じゆう]だっただろうなって!」




「はは、なにそれ、自分そうとう変なこと言ってるよ?」




笑いながらハルはそう言った。




「え、えへへへへ…」




「あ、そうだ、今日どっか行かない?」




「おお、いいですな~久しぶりに色んな所回っちゃいますか~」




「おおよきよき。行こう行こう!」




そうしてすんなりと、放課後の予定は決まった。








_____




「なんとか午後の授業は起きれたー…」




「お疲れ様。よっしゃー!どこ行くよサヤお嬢!」




「お、お嬢…」




偶然にも、ここではまず呼ばれないであろう呼び方で呼ばれてしまい、なんとなく動揺してしまう。




(ああ、私[S]に汚染されすぎだあ…)




「そう、お嬢! そういえば[S]のメンバーのS9も、お嬢って呼ばれてたよね」




「ヘエーソウナンダー、シラナカッタナー」




ひとまず会話の雲行きが怪しかったので、足を早めて無理やり会話を途切らせる作戦に出ることにした。




「ちょっとサヤー、どうしたのー! 歩くの早くなーい?」




「そんな事言ってるとエムドナルドの新作無くなっちゃうよ~!」




「そんな簡単にシェイクは逃げないってば!」




そんなこんなで、無事にシェイクには逃げられずにたいらげ、二人でプリクラを撮って服を見て、ぐるりと色々なお店を一周した。






「サヤは本当によく服買うよね~、今日はそんなにだったけど」




「んん~… 服買わないと女の子を忘れてしまうような気がしてですね」




「じゃあお化粧も初めて見たら?」




「ええ、ダメだよ、学校で禁止されてるよ~」




「ちょっとくらいなら皆もやってるって、ちょっとでいいんだからさ…いやでもまあサヤくらいの可愛い子になると必要も無いか…」




「な、なにそれ!お世辞言っても何も出ないから!」




「とか言っていっつも気分良くなってジュース奢ってくるじゃん?」




「う、る、さい」




「いらないって言うのに~」




「それはいつもお世話になってる分なので良いのです」




「お世話した覚えないけどねえ。あ!ノートのことか!!」




「まあ、それもあるけどね…」








そんな事を話しているときだった。唐突にも目の前から、もっとも視界に多く時間が入ったであろう男子ベスト1位の彼が、横の店の間の路地から出てきた。




「わ、わわ、」




「おお、これはこれはアオイ君じゃないかい」




「う、うお、サヤ!?んでハルさん!なんでここに!?」




「いやいやアオイこそなんでこんな所に!?」




「お二人さん落ち着いて落ち着いて」




(二人、予期せぬ所で会うといっつもこうなんだよなあ… バイト先まで一緒らしいし。にしても、お互いさっさと気付けばいいのに。お互い鈍感よねえ…)




「…あっ、私用事思い出した、すぐ帰らなきゃ!じゃ!!今日はありがとね!」




そう言うとハルは駆け足で、2人を置いて先の道を急いだ。






「ちょちょちょちょちょっとハルちゃん!」




呼び止めようとしたものの遅く、少し背の高い彼女はもうすっかり見えなくなってしまっていた。




「…」




「…」




サヤの頭の中はぐるぐると同じ思考をループしていた。アオイが来た。どうしよう。かっこいい。制服姿もとてもよい。なんでここに。Sのほうはどうしたの。




思っても口から声が出ない。ちゃんと気持ちの準備をしてからなら問題無いのだが、急に来られると毎度毎度この調子である。




「…きょうは部隊のほう、無かったんだな」




「う、うん」




「どうだ、たまには外に撃ちに行かないか?」




「えっと、[家]のほうじゃなくて、ですかね」




「まあ、そんな感じ」




もう少しで夕暮れも近い。アオイは頬を染めていたが、近似色でサヤからは気づかなかった。一方サヤは夕暮れよりも何倍の赤さで頬を染めていたが、アオイの心の幼さからその心情には気付けなかった。




それでも、お互いにこれから始まる時間は良しとしているようだった。






_____


「なんだあの女子高生、やべえぞ…」




「撃った弾が全部的の中心に当たってやがる…」




「ありえんのかよ、そんなこと…」




「あの男とカップルなんだろうさ、手出しはできねえな」




(か、カップル…)




そういう関係では無いんですよ~と否定しないといけないが、傍からでもそう見えているというのは気分の悪いことではない。決して。そのせいで先程からにやけが止まらず、しゃんとしろ自分、と喝をいれようとするが、なかなかそうもいかない。




「にへらにへら~」




にやけながらも20m先のターゲットに弾丸を放ち続ける。エアガンを貸し出しし、撃ち放題2000円。サバゲーの爆発的普及と共に、こういった場所も多く増えた。




「お、おい、サヤ、大丈夫か」




「あ、はい、大丈夫です!」




「なんで敬語なんだか…」




彼の役割は部隊における、私のサポート役。そして私の部隊の役割は、彼のサポート役。基本的に部隊で動く時は私とアオイは2人で動く。それが一番効果的で、強力だから。アオイの一番強い部分を生かせるし、私の一番強い部分を生かせるから。




(でもきっと、アオイに恋愛なんて感情、無いよね)




彼にとって私はただの部隊の仲間でしかない。共に戦う、真の良き仲間、友でしか。




無心で彼女は貸出用のエアガンを撃ち続けた。15発撃ってはすぐにマガジンを替えて、また15発立て続けに撃つ。それを繰り返せばこの余分な気持ちも少しは収まるような気がして。




「おいおい嬢ちゃん聞いてんのか?」




「…え、あ、すみません!」




「おいおい俺様からわざわざ話しかけてやってんのにそれは無いよなあ?」




「ひああ…」




がらが悪い、というのが初見の感想。2つ目3つ目の感想も、ガラが悪い、柄が悪いというものだった。目は細く無駄に身体は大きい。ここは確か禁煙だったはずだが、タバコをふかしている。40代といったところか。




「あの、すみません、なんでしょうか」




「嬢ちゃん俺とちょっと遊ぼうや」




「ちょっと待ってください、彼女嫌がってるじゃないですか」




「なんだお前、こいつの女かよ」




「そういうのじゃないですけど。大切な人です」




(大切な、人…)




「ほう言ってくれるじゃねえか。でもな、この嬢ちゃんがどう言うかは知らないぜ?」




そう言ってサヤの腕を無理やり引っ張る。




「っきゃ」




2つのお下げがつられて揺れる。これは、まずい。




「…おい、その手を離せ」




「なんだよ何の力も無いのにいきがってんじゃねーよ?あ?」




「…おっさん、サバゲーできんのか?」




「できんのか?じゃねえ。なんならやってみるか?」




「ああ、やろう」




「ほう言ったな、ちょっと表出ろや」




そう言って男はサヤの腕を掴んだまま強引に店の外に出る。




「あいたたたた」




「うるせえ、黙ってろや」




その時、サヤは見てしまった。アオイの左の目からすーっと光が抜けていくのを。






________


「……寒いっス、隊長」




同じ時刻、[S]の家。普段はあまり口を開かないコジローが隊長に会話を降るなんて、なかなか珍しい。




「そんなに寒いか?まだ夏もいいとこだぞ」




「…なんていうか、悪寒が」




「おいおいやめてくれよな、コジローの悪い予感はいい予感と同じくらい当たるんだから」




「…サーセン」




「そういやアオイ坊どこいった?今日来るって言ってたよな?」




「…お嬢と出くわしたらしく、デートしてくるらしいっス」




「ひえー彼も男だねえ! やる時はやりよる」




「…寒いっス…」




「…なんか面倒な事に出くわして無ければいいけどな」




_______




離れの公園。撃ち放題のエアガン射撃場から事の顛末を見送りに来たかなり多くの野次馬が、公園の外側から祈るように見つめていた。




「あいつやべえよ、この辺りのレート狩りだ!」




「ああどうかあの少年に栄光あれ…」






男から話を切り出す。


「さて、何がお望みだ」




「サバゲーで話つけるのが早いって話」




「いいのか?まあ俺もそのほうが話が早くて助かるぜ、でもな、俺はあるルールしか飲まねえ」




「…なんだ」




「お前レート10000越えてるだろ?さっき射撃場で見た時筋がよかったからなあ?」




「…ああ」




「よかったぜ。じゃあ決まりだ。お前のレート全部かけろ。」




「いいだろう。」




全レート懸け。運営が用意したもっともタチの悪いルールの一つ。ただでさえレートを高めるのには時間がかかるのだ、例え良い腕があったとしても。負けたらレートは初期値の2000でもなく、0となる。勝ってもレート上昇は微々たるものだ。男を見せる勝負をする時にしか使い方がない。




「あの少年ばかだ!勝てっこない!!」




「だってあの男のレートって確か、」




「13000だぜ!?」




「く、くく…」




「…おい小僧、何がおかしいんだ」




「いや、始めようか」




「いいんだな!? 美味しくいただいちまうぜ…」




今のアオイは左目の視力を犠牲にする代わりにありとあらゆる感覚が研ぎ澄まされている。遠くから聞こえる野次馬の祈り、13000のレートの話。風で揺れる木々の1枚1枚の葉が擦れる音。自分を案じるサヤの視線。全てが、彼の支配下に置かれていく。




「俺はな、プロなんだよ。金で雇われて代わりにレート稼ぐプロだ。そんな俺が自分のレートかけてやるってんだ、感謝しろよ」




「ああ、凄く感謝してるよ」




男はアオイに対決申請を飛ばした。腕のガンバンドと呼ばれるソレは、この世界での生命線でもある。




name: aoi s7


force: ----


rate: ----




「フォースもレートも非表示かよ…まあいい、やろうや」




そう言って男はアサルトライフルを取り出した。AK47。使用者が多い武器で、使用者が多いということはそれだけ取り回しがいいということの証明でもある。




「じゃあ僕も本気でいくから」




その時、彼の左目から完全に光が消えた。




「いくよ」




そう言って、さっきカバンから出したコンバットナイフを四本展開した。




「っは、ないフゥ!!? ひ、っひひ、ハハハハハハ、舐められたもんだなあ、悪いがこの勝負負ける要因がねえわ。ちょっとは遊べるかとも思ったんだがなあ!」




「…確かに俺はサヤのように究極のエイム力も無ければ、サヤのような相手の戦場を心から支配することもできない、でもな」




そう言って彼は2本ずつインクがべったりなナイフを構え、




「俺は行動で戦場を支配していく。そうやって勝ち抜いて来たんだ」






フランスの対特殊テロ部隊、GIGNの為に開発されたコンバットナイフ、Glauca B1。 ただでさえ大きめのナイフを器用に二本ずつ押さえて持つ。




「ふざけたことしやがって。世界ランカーの物真似かよ」




「サヤに手出すやつはな、」




3,2,1とカウントダウンも終わろうとしていた。




「____システムがお前を負けと認めても、その口から、脳から、直接謝罪の言葉を聞くまでは、許さないからな」




___0。カウント終了と同時に男かアサルトライフルを連射する。




アオイは二本のナイフを宙に高くあげ、飛んできた弾丸を全て見切る。




(1マガジン30発か。一瞬だな)




ナイフで弾くまでも無かった。一弾一弾を全て数えていき、全てをあえて大袈裟に一弾一弾丁寧にかわしていく。




「な、なんだこいつ、なんで当たってないんだ!?」




「なんでだろうなあ」




彼の投げたナイフはまた丁度彼の手元に帰ってきたようだった。




「後2マガジン。60発分だけ待とう。その間にこのからくりを見破れるか」




男はトリガーを引き続ける、が、弾はもう出ない。急いでリロードする。




「なめやがってよ!」




彼も一応中堅の上の方。手早いリロードは、焦る心情をなんとか抑えて完了することを叶えた。




「後2だね」




彼はまたナイフを二本投げた。




サヤにはこの動きを何度も何度も目にしている。彼の行動の起点は基本的にあの動きから始まるのだ。いわゆるルーティンというもの。彼の曲芸めいた技は全てあの奇妙なナイフ投げから始まる。




2マガジン目を全て撃ち切っても、彼には全く理解することができなかった。




「ど、どうなってやがる…?チーターか…?」




「残念ながらこのシステムに運営以外で干渉した人はまだいないよ」




「なんだとこのガキよお…」




「3マガジン目だね。撃ち切った時がタイムアップだから」




もはや男は彼の言うことなど聞こえていなかった。撃つ。撃つ。撃つ。元よりナイフがアサルトライフルに勝つことなんてできるわけがないのだ。銃は剣より強い。当たり前のことだ。世界ランカーのナイフ使いならそうもいかないかもしれないが。




…いや、待て。あの小僧のネーム、aoi、アオイと書いてあった。それにs7。なりすまし?偶然か?いや、違う、これは。




「はい、時間切れ」




「お前、まさか、Sの…!?」




「時間切れだよ、口外したら、分かってるよな」




「…!!?」




一瞬だった。ダメージレート表記670オーバー。人間6人分の生命力を超える超過ダメージ。手首足首を2回ずつ、胴体全体にかけて6,7回は大きく切りつけられている。システムがこのダメージは「全く同じタイミング」で振り込まれたと判断したせいで、おかしな表記になっている。




男は身体を見た。身体全てが赤に染まっていた。真っ赤な真っ赤な、紅。




「わ、わ、わああああああああああ」




男は発狂した。自分の身に何が起きてるかも分からないまま。




「さあ謝れ。サヤにした全てのことを」




「すみませんでした、すみませんでしたすみませんでした」




膝から崩れてひたすら謝罪を繰り返す。




「そしてお前はサバゲー自体の面汚しだ、二度と戻ってくるな」




「もう、しません、しませんから!」




ひたすら懇願するように。謝罪を繰り返す。先程の威勢の良さと比べるととても見てられなかった。




「俺の事も一切口外するなよ?」




「も、もちろんです」




「ならばいい」




そう言ってアオイはナイフの柄の方で、ガンと男の首筋を殴った。そのまま男は気を失った。






「あ、あの坊やすげえや!」




外で見ていた野次馬が一気になだれ込む。




「正直何が起こったのか見てても全然分かんなかったぜ!」




「お前強いんだな!!」




(貴方達なんかに言われなくても、アオイは最強ですよーだ)




ぷくうとサヤは頬を膨らませて、注目の的となっている少年に視線を突き刺す。




「この辺で一番のレート狩りを倒しちまった…!でも、生きてんのかこれ…?」




「ああ、この赤いのはそういうペイント弾なんだ。ホラー用のね」




「な、なんだびっくりしたぞ…」




「にしてもすげえや、高校生だろ、なにもんなんだ?」




「まあまあ、今のはまぐれですよ、それに」




「帰ろ、アオイ」




「彼女もこう言ってるので帰ります」




「お、おう、いいもん見せてくれてありがとな」




「またあの撃ち放題来てくれよな~!」






___ちなみにその後の男は、前後の記憶が曖昧になり、誰かと戦い負けたという記憶しか残っていなかったという。だが帰ろうと自分の銃を握った途端震えが止まらず、泣き叫んで銃を捨てたらしくて、サバゲーからは永遠に身を引いたという。








____


「…嵐みたいな出来事だったな。腕、大丈夫か」




「う、うん、大丈夫。 …本当に嵐みたいな出来事だった」




「ああいうやつもたまにはいるだろうよ」




「…左目切ったでしょ。無茶しすぎ。」




「すーぐ右目切るやつがよく言うよ」




「私はどうしてもの時です」




「俺もそのどうしてもだったから使っただけだよ」




「…アオイ」




ワールドランキング4位。武器別ランキングナイフ、断トツ1位。レート17460。神代 碧。私の憧れの人で、仲間で、最も愛しい人。




そんな思いは、鈍感な彼に伝わるはずもなく。




「そういえば、公園離れる時にさ」




「なんだ」




「彼女って言ったよね、私の事」




「いや、まあ、あれは言葉のあやというか」




「ふーん?」




「いや、すみません、あの場を離れる口実を作る為でした」




「ふーーーーん」




「いやすみませんほんと…反省はしてるんで」




「…まあ、」






「アオイのだったら、別にいいんだけどね」




「ん?なんて言ったんだ?」




「なーんにも!」






あえて彼に伝わらないように口走ったのは、彼女なりの乙女心の表し方だろう。夕焼けの沈み際。小走りになった、背の低い高校生を追いかけるもう一人の高校生。




それは二人のことを全く知らない通りすがりの人間が見ても、夕焼けをバッグにした二人の戯れる風景は、とても絵になるものだっただろうに違いない。

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