1話
チャイムの音が無理やりぼけた頭を起こさせる。
一日の終わりのホームルームは特に連絡も無く3分程で終わり、退屈な学校の授業も、今日のところはひとまず終わりを告げる。それを毎日毎日、時間とは飽きないものなのだなあ。
「ねえねえサヤ、今日暇? ス〇バの新作飲みに行かない?」
彼女はハル。同じクラスで、高校一年の時から二年の今に至るまで、ずっと一緒にいる素晴らしき友人。身長が145cmくらいしかない私に対し、彼女は170ちょっとはあるだろう。神様、せめて5cmでもいいので分けてください。
「あー…えっと… ごめん、今日バイト被っててですねえ…」
「まったバイトー? 聞いた話じゃ超給料いいとか? 危ない仕事はダメだぞ~~」
「そういうのじゃないってばー! あとその話は絶対皆には秘密だからね! バイトしてるって学校にバレたらめんどうだし」
「わかってますってー!」
ごめん、と謝る手をハルに差し出しながら教室のドアを後ろ向きに出る。学校の用意よりも多いごてごてしたリュック、「バイトの用意」一式はギリギリの所でドアの横幅よりも小さいことを証明し、通過した。
「慣れたらこれほど楽で楽しいバイトもないよね~」
そう独り言を呟きながら、週に4,5回は訪れる彼女のもう1つの「我が家」へとスキップしながら向かう。
「いやいや、だからお客さん困るんですよねえ、この先うちの商品買った人じゃないと入れないんですってば~」
「なんだよちょっとくらい良いんじゃねーかお嬢さん。こんなにいい場所他には無いんだからよお」
「じゃあせめて2000万円以上買ってくださいよ~表にもそう書いてたでしょ~」
近頃3,4年で1番増えたであろうエアガンショップ。この店はそのブームの遥か前から鎮座していた。特徴はただ一種類の会社の、エアガン、サバゲー用品、用具しか置いていないこと。店長がどう見ても16,17歳くらいの店長で学校の制服で対応している事。店の開店時間が5:00~である事。
そして1番の特徴は、この店で2000万円以上商品を購入すると、裏のドアから繋がる、大きな山(森林とも呼べる)を3時間貸し切る事ができる。
「2000万円って何だよおい! 完全に入らせる気ねーじゃねえか! 客を舐めるのもいい加減にしろよオイ!」
金髪でピアスを開けた、いわゆる典型的なDQNである。似たような輩が店に20人ほどで居座り、カウンター越しのJKに言い責めしては譲らない。ただでさえ銃を棚に並べているだけの個人営業の店内なのに、定員オーバーなんてレベルではない。
「はあーーーーーー、警察呼びますよ。」
「呼べるもんなら呼んでみなってんだよ!悪いけどお邪魔するぜ!!」
「あ、ほんとにちょっと待って」
チンピラの代表が奥に踏み込んで扉を開ける。そのまま外に繋がっており、ドアを開けた周辺はテントになっていて、日除けになっている。その下にはサバゲーに使用する道具や椅子、机、鍋から焚き火をした後が散乱しており、生活感マックスである。
「あーあ、警察呼ぶより大変な事になっちゃうなあこれは…」
サバゲーの時代もこの数年間で変わった。JJ社が5年前に開発したBBペイント弾、そしてそれを用いた、限りなく実戦に近い競技を実現するシステム。
驚きの100発30円(税込)。今ではこの弾を買うためだけのずうたいのデカい300円ガチャガチャがコンビニ、スーパーの一角を支配している。最初に23000円(税込)の専用の電子ウォッチバンドと安全のためにゴーグルと腕パッド、膝パッド、そして一目気に入ったエアガンを買えば誰でも簡単にサバゲーデビュー!
JJ社の恐ろしい所は、マイナーな遊びとして知られていた「サバゲー」そのものの形式を変えてしまったことだ。この改革によって、30000円はしていたアサルトライフルのエアガンも、今では3000円程度で、誰でも気軽に始める事ができる。初期投資40000円で最初からそこそこの装備を整えることができるのだ。
それだけではない。このBB弾はペイント弾。しかも着弾しインクをばらまいた15-20分後には、全て気化して消えてしまう。人体にも無害で、ボリボリと食べておやつにできることでも有名である(一応お菓子として、ちゃんと甘く作られている)。
23000円するなんちゃって腕時計は何に使うのかと言うと、これはサバゲーという競技自体をより現実に近づける物だと言ってもいい。
このウォッチバンド(商品名:ガンバンド)から発信される電波は装着した人間の身体中を駆け回り、弊社のペイント弾のインクが装着者の服等に付着すると、それを感知して、付着した部位、着いた時の勢い、どういったシチュエーションで付着したのかを人工知能が解析し、ダメージポイントとして加算する。このダメージポイントが100になった時がその人間の脱落、負け、ということになるのだ。
ガンバンドは全てネットで連動しており、他のそれの所有者と戦った戦績は、本部のサーバーへと送られる。その強さの数値はレートとしてランキング表示され、誰でも、誰の戦績でも見ることができるのだ。
JJ社の火付けにより、今では世界中でサバゲーは大ブームもブーム。遊びとしても、スポーツとしても、ビジネスとしても。オリンピックはもちろん、年一回に開かれるJJ社主催のWSGG(ワールド サバイバル ゲーム ゴールデンといらしい)は国の経済が根こそぎ動く程にまでは白熱する。
「で、そんなブームのおかげもあって店も大繁盛、お客さまの層も広がりました、と」
裏山のドアを開けて1番最初に目に付いたのは、50,60歳くらいの男。ただの男じゃない。老いを感じさせない白髪と左目に大きく入った傷。日本人離れした顔たちと、何よりも気迫。
が、今はくつろいで携帯でテレビを見ながら、コーラを缶ごとがぶがぶ飲んでいた。
「ちょっと隊長~! こいつらなんとかしてくれません~?ぜんっっっぜん言うこと聞いてくれなくて~」
先ほどまでカウンターで対応していた女子高生はチンピラどもをかき分け、その男へ抗議していた。
「あー、最近ちょっとずつ増えてるよなあ、こういう輩は」
「ちょっと何呑気な事言ってんの! 早く帰ってもらおうよ」
「おうお前ら、レートはなんぼだ」
目に傷の入った男が、先ほどから威勢の良さを振りまく先頭のチンピラへ問う。
「へ、ここのオーナーか? 聞いて驚けや。俺のレートは12500。でも実はな、この24人はフォース専(部隊専門)でな、フォースレートは13000弱はあるぜ。」
「なるほど、ワールドランキング3万位くらいってとこか」
そもそも今では野球やサッカーに並ぶとてつもなくデカいスポーツ。3万位以内と言えばかなり強力と言ってもいいだろう。ちなみにレートの初期値は2000で、最高値は18000。現状のトッププレイヤーが17600なので、13000はまあまあと言ったところか。
「なるほどねー、地元最強名乗れるくらいの強さはある、と。」
「女は黙ってろ!!」
「わあ怖い」
「どうだおっさん、おっさんもやってんだろサバゲー。もしここ譲ってくんねーなら全部レートもぎ取ってやるくらいにボコボコにしてやんよ」
「おお、怖いねえ。若さってのは。」
「どうだおっさん、やんのか?」
「まあ俺がやってもいいんだがな。そろそろ来るだろ。お前さんフォース戦(部隊対部隊のレート戦のこと)が専門だったな。」
「そうだけどよお、お前さんのとこ24人も人いんのか?」
「そうだな、全員集めても9人ってとこだ。だがいいだろう。やろうぜ、フォース。」
「…! てめえなめた真似してくれんじゃねえか……後悔すんなよ…レート全部もいでやるからな…」
お前ら準備だ、と後ろの奴らにも叫ぶ。各々自分のエアガンの調子を確かめて、準備を進めていく。
「今から30分後にでも始めようか。それまでこの辺りを自由に見回ってきていい。土地の利をしっかり見てくるんだな」
「っは、おっさんまじで後悔すんなよ? 5回勝負だ。先決めだから取り返しつかねえぞ?」
先決めとは、最初に試合を開始する時に、同じ相手と何回連続で勝負するかを決めることができるシステムだ。基本的にお互いの合意の上、1回試合が終わる度に次の試合をするかどうか決めるのが普通なのだが、こういった場では初手5回決めは有効である。一方的に試合が動けば片方のレートはズタボロになるだろうから。
「インターバル(試合と試合の間の休憩時間)は3分だ! どうせ一方的な試合だ、そこまで必要ないだろうよ」
「そうだな…いいだろう」
チンピラはニヤリと笑い、
「30分後楽しみにしてるぜ」
と言って、山奥へ群を連れて歩いて行った。
「…さて、そろそろ来る頃だと思ってた」
学校からスキップで来たものの、来た途端まったく見知らぬ金髪ばかりの後ろから、ポカンと傍観していたものの状況が飲み込めないでいた、この場で見るのは2人目の女子高生。
「…えっと、これはどういう状況で?」
「待ってたぜ嬢ちゃん、超高時給のバイトのお時間だ」
「おい、ちょっと待てよ、舐めてんのかオイ!!」
「あはは、私もそう思います…」
24人対1人。戦闘開始前の顔合わせは、それはもうカオスな状況であった。
「おいおっさん、ビビって女一人にレート損失押し付けやがったな。せめて9人で来るかと思ったぜ。流石にクズすぎて笑えてくるわ」
(どっちがクズなんだか)
「はっは、すまねえなあビビりで。じゃあ俺はこの辺で」
「…この女さっさと終わらせてあのジジイ二度と表に出れねえ顔にしてやる」
とうのジジイはとっくにテントへ戻っており、その言葉は届かなかった。お互いに装備は完全武装。チンピラも防具をつけエアガンを手に持ち、背負い、ヤル気満々と言った調子だったのだが。
「あの、早く始めませんかー?」
1人佇むJKは、まるで戦う気がないのかと言うほど装備が軽い。そもそも制服ではないが、服が完全に着ぐるみというかパジャマというか、ひとまずやる気が無さげな白い動物の顔がフードについたマント。多分パンダか熊のモチーフ。目立って仕方がない。武器は一応持っている、が、スナイパーライフル。単独で持ってくる武器ではまず無い。最初から諦めているようだ。
「…おう待ってろ、手早く済ませてやるよ」
チンピラの代表がガンリストを操作し、フォース5回決着のルールでサヤへと申請を送る。サヤは手早い操作で、一切断る素振りも無く受諾。対決する時は自分のレートが相手に表示されるが、設定で見せないようにすることもできる。チンピラ達のフォースレートは13052。サヤは非表示設定にしていた為、相手には見えなかった。
「あのおっさんに弱みでも握られてんの?」
「いやいや、そういう訳では…」
「まああのじいさんを恨むんだな、10分後に開始だ」
ガンリストにタイマーウォッチの表記が出現。試合開始まで残り9:58秒である事を示した。
「まあお互い頑張ろうや…って、あの女どこ行った?」
秒針が3進む間。もう既にこの[勝負]は始まっているのだと、金髪連中24人は気付くはずも無かった。
「3…2…1… 始まった。試合時間上限は1試合30分。ここはそこまで広くないが、5回とも逃げ切られたら面倒だ、どうするよブロ」
「うるせえ、相手は1人だ。散開して見つけたら袋叩き。5回繰り返して終わり、意見あるやついるか?」
無線越しに23人に確認を取る。
「まあブロに逆らえるやつはいねえわな…ん?」
「…どうした」
「あの、無線から3人くらい落ちてるんだけど…」
ガンリストには無線機能が着いており、脱落すれば同じフォースの者は一目でわかる。脱落した者は、その戦闘中は脱落していない者に無線を送ることは不可能となっている。
「おいおい、こんな時に不具合か…? でもガンリストが壊れることなんてそうそうねえぞ…しかも3人分も…ん…?」
「おい、これってまさか…」
「撃たれてんのか!? この短時間で!!?」
「う、嘘だ、音もしない、目視も一切でき____」
「う、嘘だろ…?もしかして、これで4人目…?」
その後も無線の切断数は増え、一切状況は分からないまま、生き残りは自分含め残り3人となってしまった。
「オイオイオイオイオイオイどうなってんだオイ!!イカサマしてんじゃねえぞオイ!!」
そのままガンリストに表示された接続数はとうとう1、つまり自分一人となってしまった。
「おい、あのオヤジがなんかやってんだろう!卑怯だ!!チートなんてよお!!」
後ろでストっと音がした。
「イカサマ呼ばわり、果てにはチートですかあ」
一瞬感じたのは殺気だろうか。後ろを振り向いてはいけない、そう本能が呼びかける。
「は、ハハ、そうさ。だって意味がわからんだろう。そうか、分かったぞ。この土地には隠れたスポットが大量にあるんだ。それぞれの場所に何人も待機させて、待ち伏せして一人ずつ狩ってるだけだ、そうだろう!!」
「そんな方法システムが一瞬で検知してはじいちゃいますってえ。…んー、まあ後4回あるんですし、じっくり楽しんでいってくださいね」
そのまま後頭部に軽めのショック。結局後ろ向きのまま、ヘッドショットでダメージを100、つまり上限値たっぷりに貰い、次の試合へと以降しようとしていた。
「おいおい、何があったんだ」
「なんか全くよくわからん間にダメージ表記が100ってなっててよ。ゴーグルにペイントが着いてたんだ。」
「嘘だろ、オイ…」
2戦目は唐突に始まった。いや、唐突という訳では無い。ガンリストは確かにちゃんと前の試合から三分数えていたのだから。
「おお、いつの間にか始まって___」
「ブロ、大変だ!!、一緒にいたアキヒコが___」
「おい、どうした、オイ!!なんか返事しろって!!」
恐ろしいペースで接続数が減っていく。またか。
そうしてまた先程の試合と同じようにチンピラの代表だけが取り残され、先程の試合のように後ろに人のただならぬ気配を感じながら会話を交わす。
「仮にだ、仮にイカサマでないとしてだ。お前はさっきの高校生の女か?」
「確かめてみたらいいじゃないですか?」
「ほう、なら!」
ハンドガン、デザートイーグルを腰から引き抜いて後ろを振り向く。が、誰もいない。
「遅いし、ハンドガンあんまり使ったこと無いんですか?ね?」
また前を向いた時に、目が合ってしまった。
パンダか熊か分からない白いふわふわ。その奥にある、目。
恐ろしく深い目だった。
スナイパーライフルは片手で構えて、狙ってもいないかのようだった。L96A1をカスタムしたものだろう。先端にサプレッサー。レバーを引く。ボルトアクション。俺には分かった。確実にこいつの撃つ弾はどうしようが右目に当たる、と。
そう思考するよりも早く、そのまま視界はペイント弾のインクにより全てジャック。オレンジに染まったゴーグルの向こう、低めのところから少し高い声が聞こえる。
「____んー、お兄さん達あんまりみたいなので、私もここからは適当に遊びますね?」
見えない。なのになんだ。見えるかのようにそこにいる。そこにいる。いる。いる。どこにでもいる。もう戦いたくない。逃げたい。逃げたい。
三戦目はもう散々だった。無線から聞こえるのは断末魔と命乞いだけ。
「綿だ、絡みついて殺してくる綿だ、わあああああああ」
「あの銃やべえ、リボルバーだ、あの白熊野郎、大口径の銃片手で振り回してやが___」
「357マグナム!?アニメに影響された馬鹿野郎め___」
「おかしい、おかしいおかしいおかしいオカシイなんでこんな銃に____」
「ちょっとちょっと酷くないですか!? みーんなこんな事言うんですよ! せっかくメインウェポン使わないであげたのに~ しかもやっぱりどこ行ってもワタって言われるし!」
最早隠れもせずに俺の前に現れた、悪魔の綿。
「なあ、お前は一体なんなんだ?」
「そうですねえ、次の試合、10分の間誰か1人でも逃げ切れたら教えてあげてもいいですよ?」
そう言いながら357リボルバー、コルトガバメント。ル〇ン三世の次元大介が愛用していた銃の引金を、両手でしっかりと構えて引いた。
「おいお前ら、逃げ回れ!! なんとしても逃げるんだ、もう奴に勝とうとするな!」
「ぶ、ぶ、ブロ、にににげるんすか」
「ああああああ俺はもう戦いたくないんだ!」
「___まあ無駄なんですけどね」
「…!?」
「後5秒で始まっちゃいますよー? 3,2,1…」
「お前ら、撃て、撃て、撃て!!」
意気消沈発狂しかけの24人は綿目がけて撃った。撃った、撃った。だがそれは一発も当たらなかった。
「なんだあの綿…」
一言で言うなら、ありえない、だった。
綿を撃った奴から、綿から出る弾で死んでいった。24人全員。綿はふわふわとしているが、風のように早かった。一瞬捉えた光景が、ジャンプしてパルクール、木々を移りながら0.5秒程空中で構えて、自分を撃つ姿だけだった。
_______さあ、最後ですよ~
あと一回。あと一回もある。命が掛かっているわけでもないのに、なんだこの気配。恐怖。消される、消されるのだ。俺はあの綿に骨の髄まで持っていかれて、死ぬ。死ぬんだ。ハハハハハハハハハハハハハハ!
「殺しなんてするわけないじゃないですか~ただの遊びなんですから、サバゲーは」
「ヒっ」
長い銃身を脳に直接押しつけられる感覚。どうやらわざと腹部だけ撃って、2パーセントほど余らせているらしい。
「最後なので倒す前に一人ずつ感想聞いていってるんですけど。どうでした?楽しかったですか?」
目の前の悪魔のワタはニコリとしてそう言った。土埃1つさえついていなかった。パンダか熊か分からぬまま、ずっと綺麗な白いまま、俺自身が何故このゲームに参加しているのかを忘れ、5戦を終えてしまった。
「やめろ、やめろやめろやめろ!」
「フォース戦はもっと連携取らないとだめですよ~」
「このイカレ女野郎め!!絶対殺してやる!!」
「へえ、殺せるんですか?」
頭に押しつけられた銃身をぐりとこめかみへねじ込まれる。
「アッ…」
股のほうが濡れて気持ち悪い。
「わあああ汚い!! これで漏らしたの6人目だし!!さよなら!!」
消音器特有の音が脳内で響いた。そこから先は、記憶が無い。
「ってことがありまして」
地下室。丸いテーブルを囲み、恒例のカード遊び。今日はババ抜きをする9人。昨日の出来事で会話は大盛り上がりだった。
「ヒー、超ウケる、さやちゃんやりすぎ!」
事務兼[みりたりや]のJK店長、ミヤ。
「まあスポンサーから頼まれてたデータ収集もできたし、給料もいっぱい出たからいいんだけども」
「クー、毎度やる事クールだねえ嬢ちゃんは」
金髪のアンドリュー(皆はアンと呼ぶ)は毎度のごとく[嬢ちゃん]をからかう。青い目をキラキラとさせて。
「アンは黙っててよね! もう、あなたが寝坊してなかったらこんな事にはならなかったかもなのに~」
メガネの日本顔マッチョは応える。
「いいや、一緒だと思いますけどね」
「軍曹までそう言っちゃうんですか!」
軍曹と呼ばれた彼は、隣でじっとカードを見つめる青年に呼びかける。
「君もそう思うよなあ、アオイ。」
「知らん。まあ同じような結末になってたような気もする」
彼はこの部隊のメインアタッカー、アオイ。同じ歳。同じ高校。戦い方は真逆、そして、
「まあ俺が学校で寝過ごしてなければ、その役割を買ってたのが俺だったってのは事実かもな。」
「…はあ」
「ピエー」
一応戦闘としてのパートナーではある。一応。口ではこう言ってるが根はいい子なのだ。ほんとに。前衛としては最強だし。ほんとに。彼の肩の上に乗っているのはモンガーと言い、かなりミニマムサイズのモモンガで、人の言葉をある程度解す頭のいいやつだ。
「コジローさんもなんか言ってくださいよ」
先程から一言も発しない、1番身体のデカい男。筋肉ばかりでサヤからでは顔も見づらい。
「…」
「はあーーーー相変わらずですね!」
そこに好青年、といったイメージの、サラリーマンでよくいそうな26歳の男が口を挟む。
「そう言わないでやってくれよ。彼も彼なりに頑張ってるんだからさ。」
「お人好しなのもいいですけど、人の心配ばっかりじゃなくて、テツさんは早く結婚相手でも探したらどうですか?」
「うっ」
そこに見た目が完全にホストの、染めた金髪がしゃしゃり出るのだ。
「はっは、今日の嬢ちゃんはよく切れて刺さるナイフだ」
「…そういえばどことなく、Rさんとあのチンピラ、見た目が似てるような気がしますよ」
「ええ!!?」
どっと笑いが湧く。9人全員が騒ぎに騒ぐ、裏山から繋がる地下室。そこは彼らにとっての本部であり、基地である。
「さて、そろそろ仕事の話といこうか」
先程まで聞く側に徹していた、左目に大きく傷の入った男。ここでは年長でありリーダー。これらの個性をまとめるほどの気迫と信頼は、他では中々見られないであろう。
「またサバゲーを悪用する輩が増えているみたいでな。改造弾なりなんなり使って強盗だとさ」
「エアガンで強盗かあ…時代も変わったなあ」
軍曹が口を挟む。
「まあ次の標的がそれってわけよ」
「ええ、命の危険があるのはナシで…」
「嬢ちゃんはスナイパーなんだしまずないっすよ~」
アンが応える。
「まあいつも通りにやってくれ。俺らにしちゃこれは変わらずゲームだ。」
「ん、まあそうだな」
Rがそう賛同して。
「んじゃあまあ嬢ちゃんとみやっちゃんは買い物いってらっしゃいな、行く時間無いって言ってたろ?」
「え、いいの?」
「やったー!! 新しい服買ってス〇バの新作も飲むんじゃー!!」
「こうやってりゃさやちゃんもただの女子高生なんだけどねー…」
「まあいいさ」
軍曹はそうためて、
「これがフォースランキングワールド1位、[S]の、そのものの実態なんだから」
___1戦依頼するだけで20万ドルの動く部隊[S]。自分のいるチームの一員であることを誇りで思うかのように、そう言った。