要注意分隊
定例会から今日でちょうど1ヶ月。作戦決行は遂に明日まで迫っていた。作戦決行時刻は午前3時。理由は簡単だ。今回作戦地となった基地の夕と夜の警備部隊の交代時間は午前0時。この時間が最も多くの兵士が寝静まった頃だろうというだけだ。強いてもう1つあげるなら基地の最高指揮官もその時間には寝てるからだ。まぁ夜闇に隠れられるってのも無くはないが。警備部隊は昼、夕、夜の3部隊に別れている。それぞれ8時間づつで交代体制だ。そして昼と夕の多くの警備兵はそれに沿った生活リズムをしている訳ではなく、夜に寝る普通の生活リズムをしている。となれば多くの兵が眠る夜の警備が最も脆いのは当たり前である。前線基地であればこうも行かなかっただろうがここは中間基地、前でも後ろでもないからこそ気が緩んでいる。そして前線で戦ったことがないからこそ根拠の無い自信を持つものが多い。間違いなく実戦経験を積ませるだけならもってこいであろう。まぁ実際ここを攻め落としたとしても前からも後ろからも攻められ守りづらいだけで一切うまくはないけどな。ちなみに中間基地の中からどうやって選んだかは近いうちに俺が行く用事がある中間基地はここだけだったってだけだけど。
そういえば神島さんたちの作戦の方は日の出を待ってからって言っていたな。まぁ示威行為としては見せつけなければならないって理由だろうが大丈夫だろうか。ここと違って狙うは王都近くの奴隷商だ。元々基地ほどじゃないにしても警備はいるし直ぐに兵がとんでくる。心配ではあるがそんな心配は心の奥隅に押しやり自分の作戦の方に気を向ける。自分のことも出来ないものに他人のことを心配をする資格はない。当たり前だが当たり前だからこそ絶対に破ってはならない。
現在時刻は午前10時。昨日からこの基地に王国の命で視察に来ている。視察に来てる分気を引き締めてしまうのはマイナスだがこういう状況でもないと俺がいるのは不自然だから仕方ない。まぁ所詮俺の目の届く範囲だと思ってるやつしか引き締めてないだろうけどな。朝食を済ませた俺は軍服に身を包み分隊員の元へと向かった。
扉の前で誰の目もないのを確認して少しだけ肩を落とす。まだ会う人会う人が敬礼してくるのはなれない。俺はそんなに偉い人間じゃないんだがな。まぁそりゃ彼らよりは階級は高いけどな。少し大きめに息を吸って分隊員が集まっているはずの部屋の扉を少し強めに開けて中へ入る。
「おはよう!みんな今日も元気か?」
「はいはい今日も元気にやってますよ分隊長殿。」
少し気だるそうに答えたのが青岩 斗真。黒い髪に茶色の瞳で寝癖を整えずに寝て起きてとりあえず軍服にだけ着替えましたって格好をしている。軍服の着方が明らかに雑だ。俺を除き唯一の男性分隊員で実力はこの分隊ではトップだろう。もちろん俺を覗いてだが。能力は【宿す能力】。元々は真面目だったらしいが能力のせいで結局は才能だとやる気を失ったとか酒の席で聞いたがこいつが努力を再びし出せばどこまで伸びるのか気にはなるが軍の戦力増強になってしまうので積極的には解決しようとはしていない。非常にもったいないがレジスタンスに悪影響を及ぼすことをする訳には行かないからな。
「もう斗真!分隊長に失礼ですよ!」
この一言からも真面目な子なんだなと判断できるのが谷澤 春。青い瞳を持ち、少し茶色い黒髪を肩まで伸ばし斗真と違い軍服をピシッと着こなしている。正直彼女がいて非常に助かっている。優しく、真面目で優秀、そして美人。まさに完璧超人と呼ばれるにふさわしい彼女は俺のデスクワークを手伝ってくれている。いなければ時間が無くて情報集めをする時間に影響が出ていただろう。恐らくここまで真面目に働いているということは国への忠誠が高いのだろう。そう考えると少し申し訳ない気になるがそれは考えないことにしている。彼女の能力は【固める能力】。汎用性に優れた能力で彼女は主に看護兵のため止血に使うことが主なようだが戦闘となると固める能力で生み出した鎧で相手の攻撃を阻み相手を冷静に追い詰めていくという周りから見るとバーサーカーにしか見えないような戦い方をする。完璧超人でありながら浮いた話をあまり聞かないのはそういう理由なのかなぁと密かに考えている。
「ほら理恵も何か言ってやってください!」
「別に私はどうでもいい。」
明らかにこちらに興味を持たずただ腰に下げた刀の手入れをしているのが真田 理恵。黒い瞳に黒髪を短く整え少しだけ動きやすいように軍服を着崩している。彼女の能力は【身体を5倍まで加速する能力】。この分隊にしては珍しく倍率は少し高めなものの割とあまり能力としてはレアではない。ちなみに空の身体能力を引き上げる能力との大きな違いは空の能力は身体能力そのもの、つまり筋力、瞬発力を上昇させるのに対し、理恵の能力はただ動きをはやくするだけという事だ。動きを速くするという結果は同じでも道筋は異なっている。筋力が上昇する分重いものを持てるようになるという点において空の能力の方が上位互換とされるがその分理恵のものの方が倍率が高い傾向にある。あとは負荷が少ないとかなんとか。そんな彼女が得意とするのが見た目からもわかる通り剣術、もっと言うと居合だ。能力を全開で振るわれる彼女の居合はまさにほぼ視認不可能の必殺の一撃となる。俺も辛うじて能力と魔法のおかげで見える程度である。もしもこれに身体強化魔法が合わさった場合一体どうなるのか非常に気になるがこれまた斗真と同じ理由で断念している。
「もう二人共!」
「まぁまぁいつもの事だろ?俺もそんなに堅苦しくされても困るしさ。」
「ですが上官への対応では無いですよこれは。」
「まぁまぁそんなことよりさっさと朝のミーティングして自由行動にしようぜ。」
「さっさと終わらせちまいましょうか。」
「はぁ...。了解です。」
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「よし。じゃぁ今日の予定も確認したし残りは各自自分の仕事を片付けて自由行動ってことで。」
「はい。了解です。」
「はいよ。」
「了解。」
「じゃぁ先に失礼するな。」
ドアを開けさっさと部屋を去る。やっぱり上官なんて慣れないな。スパイだからなんか裏切ってるようでっていうか裏切ってるからちょっと罪悪感あるし...まぁ仕方ないか。
昨日のうちに全体的に回って状況を確認したがやはり想定通り最も厄介なのはうちの分隊だな。他の兵士は指揮官含め特に問題にはならなそうではある。それに比べうちの分隊は一応王国の中では精鋭に入るだけの実力のある分隊だ。それぞれ得意なことを持ち能力も強力だ。まぁまだ俺の分隊な分個人個人の正確な能力を把握してるだけマシか...。
「失礼します。」
「おっこれは准尉殿ではないですか。」
「お身体の方はどうですか?大尉殿。」
「いやぁちょっと飲みすぎたのか今朝は少し。」
昨日の夜は大尉ことこの中間基地の最高指揮官に呼ばれて酒の席についていた。飲みすぎでは?と思ったが予想通りか。まぁ視察に来た俺をあわよくば抱きこもうと頑張ったんだろうが。これは予想より楽に行けるかもな。
「大尉殿ももう40になるのですからお身体には気をつけなくては。」
「はっはっは耳が痛いですな。」
「それに指揮官がそんな時に責められたらどうするのでしょうか?」
少し眼力を強める。さすが大尉と言ったところか一切同様を見せなかった。
「なに私が動けないくらいで一切使い物にならなくなるほど私の兵は愚かではありませんよ。それにここまで攻めてくるようなものはよっぽどの変人か利益も計算出来ぬばかものでしょう。」
「ならいいですがね。不意をつかれぬようお気をつけください。」
「もちろんですとも。」
「ではこれで失礼します。」
部屋を出て一息つく。これでしっかり仕事はしてるように見えるだろう。あとは夜までに仕事を片付けて休むとするかな。
To be continuous...
どうもクロウです。最近は早めに出せてる...はずなのでちょっと気が楽です。今回は大地の分隊員が登場しました。彼が優秀だと国からも認められているために彼の分隊も優秀ですね。正直やりすぎたのでは?って気がしないでもないですがまぁきっと大丈夫でしょう( 'ω')