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8 積もる疑問と一つ屋根の下

本日更新3回目です。

 この星から脱出するためには、現状についてもっと良く知る必要がある。

 そう判断したオルトは、早速テティスたちに疑問をぶつけることにした。


「なぁ、あのバカでけぇトカゲは一体なんだったんだ?」


 この星が推測通りに未開惑星なのだとしたら、そこに住まう生物を殺したのは実は大問題である。


 帝国法に抵触しているのはまず確実であり、逮捕まで行くことは多分ないにしろ、取り調べのために長期間拘束される怖れが高い。

 そして何より――


(兄貴にバレたらマジやべぇ。ガチギレした兄貴はホントおっかねぇからな……)


 エッジワース家の家長でもあるオルトの兄は、周囲には温厚な人柄で知られている。

 だが実は怒らせるともの凄く怖い相手だということを、彼だけは良く知っていた。


「トカゲ……? ああ、もしかして邪竜フェクダのことを言ってるのかな?」

「そう、そいつだよ。ありゃ一体なんだ? あんな生き物、見たことがねぇぞ?」


 オルトの感覚的にこの星の重力は、地球と大差ない。

 である以上、常識的に考えれば陸上生物があんな巨体を保てるはずが無い。


 そんな疑問だったが、テティスは少し違う受け取り方をした。


「ふぅん、他国の人だとそんな感覚なんだ。まあドラゴンってのは、本来あまり人前に姿を見せない生き物だとも聞くしね……」


 もっともここラグランジュ王国では違う。

 ここ何十年もの間、邪竜フェクダはこの国で好き勝手に暴れ回っていたせいで、国民の多くがその姿を一度は見かけていた。


 いけにえを差し出すようになってからも、暴れる頻度こそ大きく減ったものの、それでも時折気紛れに人里を襲っては犠牲者を出していた。


「そいつはまた、随分とクソッタレなトカゲもいたもんだな……」


 邪竜に関する説明を聞いたオルトは、複雑な表情で考え込む。


(あんなでっけぇトカゲが言葉喋るってだけでもかなり驚きなのによぉ。よりにもよっていけにえだぁ? どこの神話の怪物だよそりゃ)


 人類が生態系の頂点に長らく居続けた世界で生きてきたオルトにとって、それは中々にショッキングな話であった。

 同時に、ここがUEN管理外の未開惑星である可能性がより高まったとも言える。


(そういや……何で言葉が通じるんだ?)


 そこでふと湧いてきたのが、そんな疑問だった。


 オルトが現在用いているのは、人類圏における統一言語だ。

 かつては様々な言語が存在したそうだが、現体制となって以降は完全な統一が図られ、それらは過去の産物と化していた。


(ならやっぱここはUENの管理下なのか? けどよぉ、なら何で帝国法を知らねぇんだ?)


 結局、その疑問へと舞い戻ってしまう。

 現時点では、やはり分からないことだらけだ。


「ねぇ、ボクの方からも質問いいかな? キミはどうやらこの国の人間じゃないみたいだけどさ。ならどこから来たのかな?」

「……そいつぁちょいと難しい質問だな。なぁ、あそこからやって来たつったら信じるくれるか?」


 窓の外の夜空を指差しながら、オルトがそう告げる。

 茶化すような言い方ではあるが、その眼差しは真剣そのものだ。


「ボクをからかっている……ようにも見えないね。そんな事をして喜ぶタイプでも無さそうだし……」

「おおっ、よく分かってんじゃねぇか! ホント賢い娘っ子だな!」

「はぁ、だからボクは子供じゃないってば……」


 年相応の扱いを求めるテティスだが、彼が聞き入れる様子はなく溜息をもらす。


「さてと……聞きたいことはまだまだ沢山あるんだけど、今日は一旦お開きにしようか。随分と疲れてるみたいだしね」


 テティスがフローラの方へと顔を向けながらそう言う。

 緊張の糸が途切れたのか、まぶたが閉じかけていた。


「えっ? わたくしなら大丈夫よ」

「無理しなくていいさ。それに最低限の確認はもう済んだしね」


 チラッとオルトへ視線を送る。


 最初のうちこそフローラが脅されているのではないかと疑っていたテティスだが、その疑念はすぐに消し飛んだ。

 彼女がオルトへと向ける瞳は、完全に恋する乙女のそれだったからだ。


 次に騙されている可能性も疑ったが、どう見てもそんな器用な男ではない。


 なら自分の身代わりとして未来を無くしかけた親友に、やっとで訪れた春だ。

 一抹の寂しさを感じつつも、テティスは心の底から祝福していた。



 幸いにして、屋敷は広く部屋もいくつか余っていた。

 オルトとフローラの二人も、用意された部屋で休むことになった。

 

 ……なぜか同じ部屋で。


「ちょ、ちょっとテティス!? 他の部屋も空いてるはずよね!?」

「ごめんね、フローラ。なにぶん急な話だったからさ、ここしか準備出来なくてね。まあ一晩だけだし我慢してよ」


 そう言われてしまえば、フローラの方も反論はしづらい。


 事前連絡もなしにこんな夜遅くの、しかも知らない人間まで連れての来訪だ。

 普通なら追い出されてもおかしくはなく、なら寝床を用意してくれただけでも感謝すべき状況である。


 そんな訳であっさりと押し切られてしまい、フローラはオルトと同じ部屋で寝ることとなった。


(もうっ、テティスったら! 変な気を回しすぎなのよ!)


 口ではあれこれ言いつつも、フローラだって親友の気遣いはちゃんと理解していた。

 同時にすぐに自分の想いがバレた気恥ずかしさから、顔を両手で覆う。


「おい、入んねぇのか、嬢ちゃん?」

「あ、はいっ!」


 慌てて部屋へと入ったフローラが最初にしたことは、オルトへの謝罪だった。


「ごめんなさい、オルト様。わたくしと同じ部屋なんて、嫌……ですよね?」


 出会ったばかりの女性と同じ部屋で一夜を明かす。

 よくよく考えれば、向こうにとっても迷惑な話かもしれない。


 その可能性へと思い至り、チラリとその表情を伺う。


「ああん? 別に気にすんなよ。どこだろうと俺は余裕で寝れっからな」


 だが言葉通り彼の方に、特に気にした様子はない。


 まあ、そんなことをイチイチ気にするような細い神経では、星々の海をたった一人で渡り歩くなんて真似、出来やしないのだから当然なのだが。


「てかなんだったら、別に俺は外で寝たって全然構わねぇんだぜ?」


 彼にとっては、普通の人間が普通に暮らせる環境というだけで、既に快適そのものでしかない。

 なら部屋の外も内側も大差はない。


(昔ちょっと立ち寄った、あのクソ寒いの。ええとなんだっけか? そうだ、たしかブーメラン星雲って奴だな。あれと比べりゃ、ここはマジ天国だからな)

 

 それは摂氏-272℃――絶対零度より僅か1℃高いだけの極寒の天体だ。

 そこまで極まってしまうと、いくら寒さを得意とする彼であっても流石に堪える。


 それと比べれば、例え夜の寒空の下だろうと誤差の範囲でしかなかった。


「いえ! オルト様は恩人でお客様なのですから! 外に出るならわたくしが!」

「いいって。てか疲れてんだろ? ならとっとベッドに入って寝な」


 そう言ってオルトはフローラを抱きかかえた。


 不意打ちにフローラは驚き、それから憧れとも言える状況に瞳を輝かせる。


「え、これってお姫様抱っこ!? うそ……あ、きゃぁぁ!」


 だがその感動もつかの間、すぐにベッドへと運ばれて、その上へ放り投げられてしまう。

 実に彼らしい雑な扱いっぷりであった。


「もうっ! オルトさんったら!」


 口ではそう抗議しつつも、フローラの顔は真っ赤だ。


 別に太っている訳ではないが、背もそこそこで凹凸のある身体つきのフローラは、同年代の女性と比べれば少しばかり重い。

 けれど彼は、そういった雰囲気を微塵も感じさせることはなく、彼女をすごく軽い荷物として扱ってくれた。


(やっぱり男らしくて、ステキな方よね……)


 フローラが、うっとりとした表情をオルトへと向ける。


 しかし彼はそれに気付いた様子もなく、床へとさっさと布団を敷き、そそくさと潜り込む。

 そのまま足をはみ出しながらも、あっという間に寝付いてしまった。


 どんな状況どのような場所であっても、すぐに眠れる。

 それは彼の持つ特技の一つであった。


「ねぇ、オルト様? あ、もう寝ちゃったのね……」


 眠る前に少しだけお喋りをしようとフローラが声をかけるも返事はない。


 そのことを少し残念がるが、すぐに彼女もまた睡魔に負けて眠りへ落ちていく。


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