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7 未開惑星

本日更新2回目です。

 招きに応じた二人は、屋敷の応接間へと通される。


「悪いけど、こんなのしかなくてね」


 お茶を出してから、テティスが向かい側のソファーへと腰掛ける。


「さてと、早速話を聞かせてもらおうかな? まずその妙な恰好をした大男は何者なんだい、フローラ?」

「この方はオルト様よ。わたくしを邪竜から救い出して下さったの」

「……邪竜から救った? 一体それはどういうことかな?」


 テティスのこめかみがピクリと動き、表情が微かに強張る。


「えとね、わたくしが邪竜に食べられそうになってた時にね、彗星みたいに空から降って来て助けて下さったの! しかもそれでね、怯むことなく邪竜の前に立って、そのまま倒しちゃったの。とっても凄かったのよ!」


 フローラがつい先ほど出来事について口を開く。

 蒼い瞳をキラキラと輝かせながら、まるでおとぎ話の英雄について語るように。


「……話が全然見えないんだけど、要するに彼はフローラの恩人ってことなのかな。ならボクとしてもあまり無碍(むげ)には扱えないね」


 言葉ではそう述べつつも、テティスの表情は険しいまま。

 オルトに対して疑惑の視線を向けている。


 しかし当人はまるで気付いた様子もない。


「あん? 別に適当で構わねぇぞ。てかガキのくせに妙な丁寧口調はやめろ。なんかむずがゆいじゃねぇか」

「……ねぇ、子供扱いは止めてくれないかな? これでもボクは成人済みなんだけど?」

「マジか……」


 そう呟いたオルトの視線が上下する。

 フローラより一回り小さく、凹凸に乏しいぺったんこな身体を。


「マジか……」  

「……前言撤回いいかな? ねぇ、フローラ。コイツちょっとぶっ飛ばしたいんだけど?」


 こめかみをピクピクと怒らせながら立ち上がり、オルトへと杖を向ける。


「ま、まって! 多分オルト様にも悪気は無いのよ! ……ですよね?」


 フローラは反射的にフォローの声を発し、それからオルトの方へと顔を向ける。


「あ、ああ……。なんか悪かったな……」


 オルトも自分の発言のマズさに気付いたのか、謝罪の言葉を口にする。


「……そう素直に謝られても、それはそれでムカつくんだけれどね」


 はぁと溜息一つ吐き出してから、気を取り直しフローラの方へと向き直る。


「それで何があったのかな? 彼がどうやってキミを救い出したのか? そもそも何故、キミが邪竜に襲われることになったのか? その辺、是非とも詳しく聞かせて欲しいね」

「えっと……わたくしにもよく分からないことが多いのだけど。その……順番に話すわね」

「お願いするよ」


 問われたフローラの方も状況をきちんと理解しているとは言いがたい。

 なので彼女に出来るのはただありのままを語ることだけだった。


「まさか……儀式が今日だったなんてね……」


 話の中、テティスがまず衝撃を受けたのはその事だ。


 フローラがいけにえに捧げられるのは、まだ1月ほど先だと聞かされており、だから屋敷に引き篭もり、ずっと研究に打ち込んでいた。

 なのに……


 テティスの表情がますます険しくなっていく、


「そうだったの……。それで……」


 一方で、その反応を見たフローラの方は合点がいく。 

 出立の日の朝、親友の少女が顔を見せなかった理由が判明し、逆にこちらは少しホッとした表情を浮かべた。


「うーん……やっぱり良く分からないのは、彼についてだよね。空から降って来たっていうのも意味が分からないし、そもそも邪竜の翼を砕く程の勢いで地面に落っこちたっていうのに、なんでまだキミは生きているのかな?」


 テティスがオルトへと鋭い視線を向ける。

 

 フローラの言葉を疑ったわけではない。

 しかし常識と照らし合わせれば、やはり信じがたい話だった。


 もっとも魔術や魔法というものは、時にそういった不可能事を――奇跡を実現する。

 他ならぬ彼女がその可能性を一番に信じていたからこそ、邪竜討伐を目指したのだ。


 だからこそ彼女は、奇跡の詳細に対して強い関心を寄せる。


「なんで生きてる? とか言われてもな……」


 一方で問われたオルトはというと、ボサボサの頭をポリポリとかきながら視線を彷徨わせていた。


 彼としては「鍛えてんだから当然だろ」以上の答えはない。

 しかしそれで納得してもらえないこともまた経験から良く知っていた。


「なぁ、こっちからも聞きてぇんだがよ。まずここどこだよ?」


 答えに窮した彼は迷った末、自分の疑問の解決を優先させることにした。


「ああ、そういえば君はよそから来たんだったね。ここはラグランジュ王国の北東――邪竜の棲み処の端っこさ。一応ハーシェル侯爵領内ってことになるのかな?」


 その答えに首をかしげるオルト。


(ラグランジュ王国にハーシェル侯爵領ねぇ。カケラも聞いたことねぇ名前だな。ったく、どこの星系に飛ばされちまったんだか……)


 超新星爆発(スーパーノヴァ)に巻き込まれ、元いた星(マグネター)から弾き飛ばされたオルト。


 だがその近くに――少なくとも1000光年以内に有人星系はなかったと記憶している。

 だからこその疑問だった。


「なぁ、ここはどこ所属なんだ? 見た感じフォルスかヴォルフラム辺りっぽいけどよ……?」


 フローラやテティスの肌は彼と同様に白く、顔の彫りも深い。

 その特徴から、その2つの星系のどちらかだと当たりを付けてみたが、その予想は外れる。


「ん? ラグランジュ王国は独立国だよ。どこにも属しちゃいないさ」

「……そうかい」


 独立国を名乗るということは、ここが自治権をもった星だということになる。

 しかしそれは非常に稀なことであり、両星系に該当する星の記憶はない。


(となるとソルの……いやそいつは有り得ねぇな。だったら兄貴からすぐに連絡があるはずだ。となると可能性があるのはカイトス辺りか? まさかオオヤシマや武曲(ムゴク)ってこたねぇだろうし……)


 人類が居住する植民星系の数は限られる。

 その中から可能性を絞っていくが、どうもしっくりいく答えは見つからない。


「まあいい。ともかく植民星管理官プラネットコントロールのところに案内してくれねぇか?」


 オルトの直近の目的はこの星からの脱出だ。

 しかし原因不明の現象によって、それは阻まれている。


 なら誰かに助けてもらおうと考えるのは一般的な思考だろう。


 そして彼とて一応は貴族の端くれである以上、その要請を受ければ管理官たちは手を貸す義務を持つ。

 そう帝国法で定められている。


「ぷらねっとこんとろぅる? なんだいそれは? 聞かない言葉だね? フローラは知ってるかい?」

「ううん、わたくしも初めて聞いたわ」


 しかし二人は揃って首を横に振る。

 義務を拒否したのではなく、話の意図がまるで伝わっていない。


 どうやら彼女たちは帝国法の存在自体を知らない様子だった。


(……マジか。けどよ、今の時代にんなことあり得んのか?)


 現在、宇宙各地に存在する有人惑星は全て人類圏統一帝国(UEN)の管理下にある。

 その下に各星系自治区が存在し、各惑星の自治権は更にその下の扱いだ。

 

 帝国法、星系法が定める範囲内での自治権に過ぎず、その影響から逃れることも、まして管理官が存在しないなんて事もまず有り得ない。

 

 考えた末、オルトは一つの推論へと辿り着く。


(なぁもしかして、ここ。ガチの未開惑星だったりすんのか?)


 それは概念としてのみ存在した言葉だった。


 母なる星――地球を起源としない知的生命体が住まう星、もしくはUENの管理外に存在する有人惑星のことを指す。

 

 前者を求め人類は多くの星々を巡ったが、今のところ発見の報告はまだ上がってはいない。

 後者については、UENの統治が各植民星系の隅々まで行き届いている現状、存在する余地など見当たらない。


 それがオルトの認識だったのだが、どうやら間違いだったらしい。


(マジかよ。大発見かもしれねぇが、大問題でもあるな、こりゃ)

 

 もしかしたら人類史に刻まれる新たな一歩なのかもしれない。

 しかし、それも全て情報を持ち帰れたらの話だ。

 

(なんとか帰る方法を見つけねぇとな……)


 その為にも、この星についてもっと良く知る必要がある。


 オルトをこの星へと縛り付ける何か。

 その正体と突破方法を求め、彼は動き出す。


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