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66 一進一退

『どのようにして、あの状況から生還したかは知らぬ。だが貴様が魔力を持たぬ以上、何度やっても結果は変わらぬよ』


 オルトの全身をゆっくり見回しながら、そう断言するドゥーベ。


 そこからはアリオトを若返らせた時の魔力はもうすっかり消え失せており、ドゥーベの目には最初に出会った時と同じ姿に映っていた。


「なに、もう勝った気になってんだよ」


 上からの視線に対し、負けず嫌いなオルトは不快気に顔を歪める。


『事実を述べたまでだ。空さえも飛べぬ人間が、どうやって我と戦うというのだ?』


 空を自在に飛ぶドゥーベと、翼をもたず魔法も魔術も扱えないオルト。

 そもそもまともに戦いが成立するはずがないと、ドゥーベは嗤う。


「はっ、こうやんのさ!」

『あいた!?』


 そう言ってオルトは、デスピナの背を蹴って空へと駆け出した。


『もうっ! イキナリだなぁ! せめて一言いってからにしてよ!』


 デスピナの抗議の声に「ワリィワリィ」と謝りながらも、彼の肉体は一直線にドゥーベの元へと向かって飛んでいく。


『ほぉ、人間にしては脅威と言わざるを得ない脚力だが……その程度でこの我がつかまる訳がなかろう!』


 それに対しドゥーベの巨体が、音もなくスッと大きく横へとズレた。


 結果、軌道上から外れ、オルトの肉体は明後日の方へと飛び去っていく。


 かに思われたが……


「おいおい。そっちこそ、そのくれぇで避けた気になってんじゃねぇよ!」


 すぐにUターンを果たしたオルトが、またドゥーベへと襲い掛かっていく。


『なっ!? まさか貴様……』

「わりぃがよ、使えるもんは何でも使う主義なんでな」

『ぐぅっ! なんということを……っ!』

「おらおら! 逃げんじゃねぇ!」


 回避しても回避しても、オルトはすぐまた舞い戻って来る。

 

 ……この空域に存在する多数の風竜たちを足場にして。


 思わぬ連続攻撃に動揺し、ドゥーベは防戦一方となってしまう。


『はぁっ、ちょっ!? ぐえっ!?』

『や、やめろぉ! 人間如きがぁ! ごはっ』


 オルトの飛翔速度は、多くの風竜たちからすれば目にも止まらぬ程に早いものだ。


 である以上、その速度を生み出した足場にも当然、相応の圧力が加わっていた。

 結果、風竜たちは呻き声を上げながら、次々と海に落ちていく。


 一応、オルトなりに手加減していたらしく、まだ死んだ者はいない様子だったが、しかし黙って見過ごせる状況ではない。


『おのれ! よくも我が眷属たちをっ! 今度こそ滅びるがよい人間よ! 《ディメンションブレイド》!』


 眷属たちを次々と足蹴にされたドゥーベは、怒りに任せて魔法を放つ。

 以前オルトの肉体を真っ二つに両断した魔法だ。

 

 細い線を描く不可視の魔法と、オルトの肉体とが宙で交差する。


「おっと、何度も同じ手を喰らうかよ!」


 だがその瞬間、飛翔中のオルトはその身を大きく捻らせ、それを回避した。

 まるでその魔法が見えているかのように。

 

『なっ!? 貴様!? まさか見えているのか?』

「はんっ、別に見えちゃいねぇさ。でもよぉ、なんとなくわかんのさ。おらぁ!」


 回った勢いのまま、拳を振り回すオルト。


『ぐぬぬっ、不条理な人間めぇ!!』


 間一髪で回避したドゥーベだったが、その表情には焦燥の色が濃くにじんでいた。


「どうしたよ? 顔色わりぃぜ?」

『ふんっ、たかが一撃躱した程度で、あまり調子に乗るでないぞ!』


 目の色を変えたドゥーベが、次々と魔法を放っていく。


「ははっ、そうこなくちゃなぁ!」


 それに対し、オルトは獰猛な笑みを浮かべながら突撃を続けていく。



 それからしばらくは一進一退の攻防が続いた。


『とったぞ!』

「ちぃっ!」


 先にダメージを受けたのはオルトの方だった。

 その理由は単純だ。


 風竜たちの多くがこの場から退避し、足場が少なくなった結果、攻撃パターンが絞られ、動きを先読みされてしまったのだ。


 負傷し、足場を失ったオルトは仕方なしに、デスピナの背中へと舞い戻る。


『はぁっ、はぁっ……。ずいぶんと粘ってくれたが、これで我の勝ちだな』


 右腕一本を奪いとったことで、ドゥーベが勝利宣言をする。


『ね、ねぇ!? ちょっと大丈夫?』


 裂かれた断面から血をダラダラと垂れ流すオルトを見て、デスピナが心配そうな声を掛ける。

 だが彼はそれを笑い飛ばした。


「はっ、てめぇも知ってんだろ? この程度で俺がやられっかよ」

『ああ……』

『強がりを言いおって……。その有様でまだ戦うつもりか?』


 勝利を確信していたドゥーベだったが次の瞬間、その目を大きく剥くこととなった。


「ああん? だから勝ち誇ってんじゃねぇ! うらぁ!」


 苛立ちも露わにそう叫んだオルトが、血の噴き出す右腕の断面を上に向けた途端、そこから一気に新しい腕が生え出していく。


『腕が……生え変わっただと? 貴様……本当に人間か?』

「ったく、どいつもこいつも……それ以外の何に見えるっつぅんだよ?」

『……』


 どう見ても人間にしか見えないが、しかし人間の腕は火竜(サラマンディア)のしっぽではなく、簡単に生え変わったりなどはしない。

 改めて目の前の人間が、常識から外れた存在であることを認識するドゥーベ。


『なるほど、ようやく理解したぞ。そうか、あの致命傷から生き延びたのも、その異常なまでの再生能力によるものか』


 オルトの負けていない宣言を、ただの負け惜しみだと判断していたドゥーベだが、ここでようやくその認識を改めることとなった。

 同時にこの戦いの重要性も増す。


『貴様は危険過ぎるな。我が死力を持って、この場で確実に葬らせてもらう!』

「はっ、やれるもんならやってみやがれ!」


 かくして一人と一頭の戦いは新たな局面へと移っていく。


連絡及び謝罪を

所用により明日、明後日の更新はお休みとさせて頂きます

再開は4/23(月)からとなります

どうかご了承ください

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