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56 大集結

 魔力推進型の小型帆船を完成させたテティスたち。

 魔力を込めるだけで風を起こし、自在に海を突き進む画期的な船だ。


 もっとも消費魔力がかなり多く、テティスクラスの大魔力持ちが交代して運用することが前提となっている上、運搬能力にも乏しく、商用船としての実用性は今のところ薄いと言えた。


「あなた天才だとは聞いてましたけど、ホントなんでも出来るんですわね……」

「あはは、ボクの一番の取り柄は何でもそこそこ出来ちゃうって所だからね。それよりも急ごう。きっと今頃お腹を空かしてるよ」

「そうね。沢山食べる方だものね」


 そうして出港したテティスたち。

 協定によって安全が保障された海域を超え、いよいよ海竜たちが跋扈する海域を目前とする。


「……なんだかやけに静かだね?」


 しかし予想に反して海竜たちが押し寄せて来る気配はない。

 てっきりすぐに気付かれ警告を受けるものかと考えていたが、現実はそうはならなかった。


 その理由は程なく判明する。


「……あちらを!」


 船首に立ち周囲を警戒していたアストレイアから、声が上がった。

 掲げられたその腕が指し示すのは少し遠くの大空だ。


「うそ……。あれって風竜……だよね?」

「え、ええ……。ここは天枢山に近いのですから、姿を見かけること自体は別におかしな話ではありません。ですがこれは……」


 問題はその数であった。


 戸惑っている間にも、その数はドンドンと増えていき、やがて空一面が風竜たちの影で埋め尽くされてしまう。


「な、何が起きてるのさ、これ!?」

「ちょっと二人とも! 下! 下!」


 上にばかり気を取られていたテティスの肩を揺さぶりながら、フローラが遠くの海面を指差した。


 見れば、そこには次々と巨大な黒い影が生まれていた。


「海竜までもがこんなにも沢山……何がどうなっているのでしょう?」

「ははっ、いくら彼らのテリトリー内だからって、これはちょっと尋常じゃないね……」


 風竜と海竜――人間など丸のみにするような巨体のドラゴンたちの大群を前にし、少女たちの口から乾いた笑いが漏れ出ていく。


「これはもうオルト様を探すどころでは……」


 ここまでの数のドラゴンが一堂に会するなんて前代未聞の出来事だ。


 しかも両者の間に流れる空気は明らかに険悪であり、このままだと二大勢力による大紛争が勃発しかねない気配が濃かった。


 もしそうなってしまえば、近くに住まう人間たちも他人事では済まされない。

 もはや連邦の存続にさえ関わる一大事だと判断し、彼女らは急ぎ港へと引き返していった。


 ◆


「なんだこりゃ? 連中スッゲー数を引き連れて来やがったぞ?」


 大勢の風竜たちが集っていく姿は、少し離れた洋上にいたオルトらにも目撃されていた。


『別に何でもいいんじゃない? それよりも肉だよ、肉ぅ!』


 だが数多くの風竜たちを捕食し大きく強く成長を果たした今のデスピナは、それを恐れることはなかった。

 

 ……どころかその目は血走り、飢えた獣のように彼らの肉を欲していた。


「お、おう。……まあそうだな。あんだけいれば腹一杯食えるよな!」

『ぐふふっ、肉、肉、肉ぅ!』


 その必死さに少しだけ引いたオルトだったが、彼自身も食い意地は張っている方だ。

 すぐにそのノリに追いついてしまい、結果、デスピナの意変に気付けなかった。



『おのれ! エンジバットに続き、ハイトーンまでもが戻って来ぬとは! 海竜どもの策略に違いない! 許せることではないぞ!』

『ああ! ここまで舐めた真似を捨て置けば、我らだけではなくドゥーベ様の沽券にもかかわってくる。一度奴らに痛い目を見せてやらねばな!』


 この短期間で二頭も失った彼らは酷く憤慨していた。


 ライバルの失墜自体は望むところではあるが、しかし卑劣な罠の餌食となったのであれば、その敵討ちはしてやりたい。

 その程度の仲間意識は彼らだって有していた。


 そうして彼らは海竜たちへの逆襲を企てる。

 その結果が今の状況であった。


 飛び交う風竜の群れによって空は薄暗くなり、海面からはそこかしこから大量の潮が吹き上がっている。

 ただでさえ強大なドラゴンたちが一箇所に集結したことで、一帯には魔力を帯びた濃霧さえも漂い始める始末だ。


 仲間の敵討ちに燃える風竜と、そんな彼らを喰らい過酷な実力社会をのし上がろうと目論む海竜。

 両者の間には、まさに一触即発の空気が漂っていた。


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