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55 救出作戦

「デスピナ、おめぇよぉ……なんか随分とデカくなったなぁ」

『ふふっ、でしょう? 君の言う通りお肉って最高だよねぇ。美味しいし大っきくなれるし……。これはやみつきになるよ!』

「がははっ! おめぇもなかなか分かってきたじゃねぇか! だろよぉ! やっぱ肉は最高だぜぇ!」


 デスピナのその言葉に、オルトは大口を開けて満足気に笑った。


 天枢山近くの空域で相次いだ風竜の行方不明。

 その事件の犯人は、もちろん彼らであった。


 単独または少数でその真相を探りにノコノコやって来た彼らは、単独行動のデスピナに目を奪われ、その隙にオルトによって狩られていた。


 彼らの肉を――そして魔力を喰らい続けたデスピナの全長は気が付けば以前の1.5倍以上――体重で換算すれば倍さえも軽く飛び超える脅威の成長を遂げていた。

 

 既にそこらの海竜たちよりも強大な魔力と肉体を持つにまで至っており、もう群れに戻っても迫害させる心配は無くなっていたのだが、当初の目的などすっかり忘れ、彼らは風竜狩り没頭していた。


『しっかし、君の方は全然変わらないよねぇ? あれだけ食べてるのに、一体どこに消えてるのさ?』


 ふと感じた疑問を何気なくぶつけてみる。


 重厚な筋肉のせいか見た目よりも重いオルトではあるが、それでも質量保存の法則と照らし合わせてれば、どうしたって矛盾が生じてしまう。


「さぁな? 俺はよぉ、昔からクソしねぇ体質だかんな」

『クソとか言わないでよ、もうっ! 下品だなぁ……』

「ワリィワリィ」


 悪びれもせずそう形だけの謝罪を述べるオルト。

 それに対しデスピナは憤慨し、大きく四角い頭部から勢いよく潮が噴き出していく。 


 だがその心中には別の想いが過ぎっていた。


(排泄物うんぬんについては……まあ僕らもそう変わらないからね。不可解なのはどっちかというと魔力の行方だよね)


 デスピナと同様に大量の魔力を摂取したにもかかわらず、彼が魔力を有した気配は見られない。

 では、吸収されなかった魔力が一体どこへ消えたかという疑問が生じる。


(まあ別にどうでもいいか。それに……彼についてあんまり深く考えてると、海底にまで引きずり込まれそうだし……)


 現状自分にとっては良いことばかりなのだ。

 ならそれでいいじゃないかと、デスピナは理解を放り投げることにした。



 一方その頃、天枢山の近くにあるトロヤ連邦の港町パリス。

 ここは連邦にとって数少ない漁港の一つであり、重要な海産物の供給地として賑う街だ。


 その活気に溢れた街中を走り巡り、額を汗で濡らす少女らの表情には焦燥の色が見え隠れしていた。


「はぁ……全然見つからないね」

「そうね。ユースティティア家とやらの力も、案外大したこと無かったみたいね」

「うっ、うるさいですわよ、フローラ!」


 現在、テティスたち三人はオルトの捜索に向かうため、船乗りたちと交渉を続けていた。


 しかし目的地がここから北東の海域――海竜たちのテリトリーであることを告げると、皆一様に青い顔を浮かべ、ぶんぶんと首を大きく横に振った。


「彼らの気持ちも理解は出来るけどね。もし海竜に襲われでもしたら、大抵の船なんてすぐに沈んじゃうだろうし……」

「ですが、私たちは戦いに行くわけではないのです。それに力を併せれば、船一つ守り切るくらいならっ!」

「出来るかもしれないけど、それを証明する手段が今のボクらには無いからね」

「テティス? なぜあなたはそんなにも冷静なのです?」


 諦めとも取れるらしくないその発言を、アストレイアが訝しむ声をあげた。


「うん……決めたよ! 彼らに船を出してもらうのはもう諦めちゃおうか。船だけを買い取って、ボクらだけで探しに行こう。きっとそれが一番だと思うんだ」

「……そうね。もうそれしか手はないんでしょうね。でも船の操舵はどうするの? わたくしはもちろん出来ないわよ?」


 そう言ってフローラは、アストレイアへと視線を向ける。


「私もそうですわね。もしかしてテティスは出来るのですか?」


 様々な分野に精通している彼女のことだ。

 もしかしたら船の操舵さえもこなしてしまうのではと、期待の籠った瞳を向ける。


 だがテティスは首を横にふった。


「まさか、航海術の知識なら多少は持ち合わせてるけど、たった三人で動かすのはどのみち無理だよ」


 一般的に船と言われて思い浮かぶのは、両側に備えた大量のオールを漕いで進むガレー船か、帆に風を受けて進む帆船か、そのどちらかだ。


 ガレー船はその単純な動力ゆえ大量の人手を必要とする。

 だが目的地に命の危険が大きい以上、その確保は困難だ。


 一方、帆船ならばガレー船の程、数は必要ではない。

 だがその推進力が風である以上、その時のその時の状況に左右されてしまう上、技術的な要求度も跳ね上がってくる。

 やはり素人三人で動かすのは厳しいと言わざるを得なかった。


「だったら――」

「普通の船ならね」

「……普通ではない船なら可能だと?」


 どんな船だと怪訝な顔を浮かべたアストレイアに対し、テティスが微笑みながら告げる。


「そっ、幸いにしてボクらは三人とも魔力に恵まれてるからね。ならいっそのことさ、魔術で動くように改造してみようかなって考えてるんだ」


 帆船の操舵が難しくなるのは、帆に当たる風の向きが一定ではないからだ。

 ならその風を魔術で制御してやればいい。


「……他に良い手も無さそうですし、ではその案でいきましょうか。となると、まずは母体となる帆船の買い付けからですね。テティス、何か希望はありますか?」

「うーん、そだね。3人だけなんだし船体は大きくなくて構わないよ。ただなるべく足が速くて丈夫なのがいいね」


 その言葉を聞き、アストレイアはすぐさま駆け出した。


「買い付けて来ましたわ!」

「はは、早いね。もう少し苦戦するものかと思ってたよ」

「ふふっ、ユースティティア家の――いえ《剣舞姫》の威光もバカにしたものではないでしょう?」


 大きな胸を張りながら、嬉しそうにそう告げてくる。


「そうだね。流石だね」


 実際大したモノだとテティスは感心していた。


 テリトリーへと踏み入れば、海竜たちの怒りを買い船ごと沈められるかもしれない。

 無論、彼女らに敵対するつもりはないが、しかし相手はドラゴンだ。交渉し理解が得られるかは賭けの部分がどうしても大きくなる。

 そのため自らが船を出すことについては誰も了承しなかった。


 しかし、ただ船を売りつけるだけならば自分に火の粉は掛からない。


 ……実際には海竜たちは人間を個体で判別しないため、下手すればこの街ごと報復を受ける可能性もあるのだが、それでもアストレイアが頬に叩きつけた大金に目を眩ませ、船を差し出す者は無事現れたのだった。


「うん、これなら悪くないね」


 アストレイが買い付けてきた10人乗り程の小さな帆船の姿を確認したテティスは、満足そうにうなずく。


「待っててねオルト。もうすぐ助けにいくからね!」


 そんな決意を薄い胸に抱きながら、彼女は船の改造作業へと没頭していく。

 札束で必要な物資や人手を買い叩き、それらは急ピッチで進んでいった。


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