54 風竜四天王
風竜オプテリクス――八大竜が一、天空竜ドゥーベの眷属たる生物だ。
原初の鳥類にほど近い外観を持ち、しかし鳥類ならざる巨体を持つドラゴンである。
その体長は平均して30m近くもあり、それを支えるのは巨大な翼と魔法の力だ。
彼らは風を読み操り、世界各地の大空を自由気ままに飛び回っている。
海竜リヴァイアサンが大海の覇者であるならば、彼らは天空の支配者であると言える。
ドラゴンと呼ばれる種族の中でも最大の勢力圏を有し、その総数も同じく最大だ。
個々の戦闘力では海竜などにやや劣る傾向にあるものの、高い機動力と優れた察知能力を持ち危機回避能力に長けている。
そんな彼らのコミュニティだが現在、とある異常事態に見舞われていた。
天枢山近くの大空で、風竜四天王を自称する4頭のドラゴンたちが集まり、その対応について話し合っていた。
『諸君らに集まってもらったのは他でもない。ここ数日、我らの同胞が相次いで行方不明となっている事件についてだ』
彼らのうちもっとも素早く空を飛翔する《疾風》ナルノックが、集まった他の3頭の顔を見回しながらそう告げた。
『ホント困った話よね。ドゥーベ様が不在の時にこんな事態が起きちゃうなんて……』
同じく四天王たる《烈風》ハイトーンが、一際甲高い声でそう呼応する。
『それもこれも全てあの八大竜の面汚しのせいよ』
『聞けば人間如きに滅ぼされたというでないか。情けない』
《旋風》キストマンが吐き捨て、《疾風》エルノチューネが嘆く。
『だがその人間も、ドゥーベ様によってあっさり屠られたようだがな』
『……流石はドゥーベ様であるな。だが、あの方ももう良い御年なのだ。人間如き命じて頂ければ我が代わりに滅ぼしたものを……』
『ナルノックよ。そうやって手柄を独り占めしようとするでない』
そうして三頭の視線が交錯する。
表情こそ和やかだが、言葉の節々には険悪さが滲んでいた。
『そういえば……エンジバットの奴めはどうしたのだ?』
その雰囲気を変えようと、もっとも年かさなキストマンが話題の転換を図ろうとする。
『この集まりをサボるなんてね。ようやくこの私こそが《烈風》の称号に相応しいと認めるつもりになったのかしら?』
『あの高慢な男がそのような殊勝なわけがなかろう。……まさか奴までもが行方知れずなどとは言うまいな?』
『ふむ……言われてみればこの件が話題の端にのぼるようになってから、まだ一度も奴の姿を見ておらぬな』
持っている情報を突き合わせ、やがて彼らは一つの答えへと辿り着く。
既にメンバーの一頭が欠けてしまっという事実に。
『……となると、やっぱりあの戦闘狂どもの仕業なのかしら?』
ドラゴンを狩れるのは、同じドラゴンだけ。
他のドラゴンの生息域はこの近くにはないため、それ以外の可能性は考え辛い。
『しかしあのノロマなデカブツ共に、ヒヨッコどもだけならばいざ知らず、エンジバットの奴までもが捕まるか?』
『ふむ……たしかに少し不可解な話ではあるな』
この中では最弱とはいえ、一応自分たちと同格と言ってもよい実力者だ。
いくら凶暴な海竜でも、そう簡単に捕らえることなど出来はしない。
『もしや海竜どもの陰謀か?』
『いや、あの者たちに我らを出し抜くような頭はなかろうさ』
『では他のドラゴンどもか? 可能性があるとすれば黒竜――ドラーウェだが……いま奴らはそれどころではなかろう?』
様々な意見が飛び交うも、これといった答えは出てこない。
そんな中、ハイトーンが自信に満ちた声を上げる。
『ねぇ、だったらこの私が直々に調査してくるわよ』
エンジバットが死んだならば、彼女が唯一の《烈風》となる。
だが運だけでその称号を占有したというのは、少々居心地の悪い話だ。
なので、ここできっちり実力を示しておきたいと考えていた。
『……よかろう。だが我ら四天王の名を穢すことは許されぬぞ?』
『ふんっ、この私をエンジバットなんかと一緒にしないで欲しいわね』
かくして風竜四天王が一、《烈風》ハイトーンは大空を飛翔し、行方不明者多発地帯へと赴いていく。
◆
『に、人間如きに私がぁぁ!? この《烈風》ハイトーンが破れるなんてぇ!?』
「……ったくよぉ。おまえらドラゴンってのは、人間を侮らねぇと生きていけねぇのかよ?」
死んだ風竜の身体と共に降下しながら、オルトはやれやれと首を振る。
この星に来てからずっとそうだった。
何がそこまで彼らを有頂天にさせているのかと不思議がる。
『あははっ、僕も君に会うまでは割とそんな感じだったから、ちょっと耳が痛いかなー』
その呟きを聞き、デスピナが苦笑をもらした。
これまで会話さえロクに交わしたこともなく、何とはなしに人間を劣等種族だと見下していた。
もっともオルトとの出会いで、そんな考えなどすぐに消し飛んでしまったが。
「まあ……あんだけでけぇ身体に魔法なんて力まで持ってりゃ、そりゃ勘違いしたくなる気持ちも分からなくはねぇけどよぉ……」
かくいう彼自身、力に溺れ慢心した経験が全くないとは言えない。
『そだねぇ。そういえば今君が倒した風竜だけど、これまでで一番強かったみたいだよ?』
「そうなんか? ガタイのデカさで比べりゃ、最初の奴の方がデカかった気がしたけどな」
『まあ……風竜は僕らとはちょっと違うからね。身体が大きいほど絶対に強いとも限らないのさ』
「はぁん。おめぇらにも色々あんだな。んで今回も山分けでいいか?」
『うん!』
かくして《烈風》ハイトーンの肉は、余すことなく一人と一頭の腹の中へと納まっていった。
連絡と謝罪を
明日と明後日の更新ですが、お休みとさせて頂きます
理由は週末少し忙しいのと、2章がもうすぐ書き終わるので見直しの時間が欲しいためです。
再開は4/9(月)からとなります。ご理解のほど、よろしくお願いいたします。




