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35 修行の成果

 連邦との交渉のため、オルバース伯爵率いる使節団が国境沿いの陣地へとやって来ていた。


「何やら騒がしいようだが……」


 だがそこでは慌ただしく兵たちが駆けまわっており――戦場の雰囲気を漂わせていた。


「おのれシェゾーの奴め。よもや失敗しおったのか?」


 与えた任務を――ハーシェル侯爵の暴走を止めることが出来ず、連邦との間に戦争が勃発してしまったのではないかと怯える。


 そこに当のハーシェル侯爵が舞い戻って来た。


 こちらの姿を認めた彼は、不機嫌さを隠さない顔で尋ねてくる。


「ふんっ、なぜ貴様がこのような場所におるのだ? オルバース」

「連邦との和平交渉のために決まっておるだろうが、この戦争バカめ。それよりも貴様こそ何をしていた? まさか向こうに喧嘩を売ったのではあるまいなっ!」


 そう唾を飛ばしながら、声高に責め立てる。

 だが――


「ふんっ、そのような世迷い言を良くもまあ抜け抜けと! その台詞はお前が送り込んできた若造にこそ言ってやるのだな! この研究バカが!」

「な、なんだと……!」

「ふんっ。やはり人の心というモノを知らぬ男だ。だからあのような痴れ者に騙されるのだ!」


 そう吐き捨てたハーシェル侯爵は、そのままシェゾーのこれまでの行いについて語っていく。


「まさか、そのような事が……」

「疑うのなら、他の兵たちにでも――なんなら連邦の連中にでも聞いてみたらどうだ? もっともあの若造の上役であるお前の言葉に、連中が耳を貸すかどうかは知らぬがな?」


 嫌味たっぷりにそう告げるハーシェル侯爵。


 それに対し、オルバース伯爵はもはや何も返せずに、ただ肩を落としていく。



 剣翼による一斉攻撃を仕掛けたアストレイア。

 しかしオルトは避けることも撃ち落とすこともなく、ただ皮膚の強度だけでそれを防いでしまう。


「なぁ、もうおしまいかぁ?」

「いいわ。……見せてあげるわ、この私の本当の魔術を!」


 アストレイアの目がくわっと吊り上がる。


 戦闘魔導師にとって、強さこそがもっとも重要だ。

 相手に舐められたまま放置しておけば、今後の活動に大きな差し障りが残る。


 なら例え相手を確実に殺してしまう魔術であっても、使わざるを得ない。


「へぇ、今度はちゃんと奥の手があるみてぇだな? いいぜぇ、来いよ。そいつも全部受け止めてやんよ」

「ふんっ、あの世で後悔したって遅いわよ!」


 彼女が操っていた剣たちが力を失くし、地面へと落ちていく。


 己が持つ最強の魔術を、最大出力で目の前の男へと叩きつけんと、アストレイアは静かに力を貯めていく。


 その姿をオルトは当然のように腕組みしながら黙って見守っていた。


「その余裕顔、ホントムカつくわね!」

「はんっ、だったらちったぁ俺を驚かせてみろよ」

「ムッキィ! 絶対に殺すわ! 受けなさい!」


 そしてついに、アストレイアの魔術が解き放たれた。

 向けた剣の先から、シェゾーを肉塊へと変えたのと同じ不可視の力が放出されていく。


「あははっ! あなたが悪いんだからね!」


 彼女は今放った魔術に対し、絶対の自信を持っていた。


(どんな生物だろうと、この魔術を食らえば生きてはいられない! それは例え八大竜であっても同じこと!)


 その自信から、これまで彼女は邪竜フェクダの討伐許可を何度も申請していた。

 この魔術ならば――シェゾーを瞬時に無残な肉塊へと変えて見せた威力があれば、かの強大なドラゴンでさえも葬れると確信していたからだ。


 それほどの一撃を受けて生きていられる人間がいるはずもなく――しかし現実には存在した。


「おう? これでオシマイか?」

「え……嘘……まさか不発? いいえそんな訳ないわ。確かにちゃんと発動したはず……」


 現にそれだけの魔力が彼女の中からは失われている。


 なのにどうして目の前の男は、平気な顔をして立っていられるのだろう?


 訳が分からず、答えを求める視線が宙を泳いでいく。


「まぁまぁピリピリ来たぜ。ちょっと前の俺なら、そこそこダメージ食らってたかもな?」


 死んだシェゾーは、彼女が扱う魔術が一種類だけだと推察していた。


 そしてそれは別に間違いという訳ではない。

 真実、彼女が主力として扱う攻撃魔術はただ一つだけ。


 だが極めた魔術というモノは、扱い方次第で様々な顔を見せる。


「しっかしなぁ。ほんの一瞬とはいえ、こんな強力な磁場まで生み出せっとはなぁ。正直ちょっと見くびってたぜ」

 

 アストレイアが扱った魔術の原理を察したオルトは、素直にそう褒めたたえる。


 しかし言われた本人は、喜ぶどころか恐怖に一歩二歩と後ずさっていく。


「な、なんなのよあなた一体……。本当に人間なの……?」

「ああん。どっからどう見ても人間だろうがよ?」


 心外そうな表情を浮かべるオルト。


「じゃあ何で生きてるのよ!? 有り得ないでしょ! 意味わかんない!!」

「んなこと言われてもなぁ……。鍛えてっからとしか答えようがねぇな」


 ポリポリと頭をかきながら彼はそう呟く。


「はぁ!? どこでどうやって鍛えたら、そんな事になるっていうのよ!?」

「どこでか? そりゃー決まってんだろ。マグネターっつうところさ」

「……マグネター? 何よそれ……」

「まあ知らねぇよな。ねえちゃんが今使った魔術のよぉ、何十倍何百倍もの磁場を持つ星の名前さ」


 そこで修行をしたことで、彼は磁場への強い耐性を手に入れていた。

 もしそうでなければ、状況は少し違ったかもしれない。


 ……おそらく結果は変わらなかっただろうが。


「あはは、鍛えただけの普通の人間に『マグネティックバースト』が破られるなんてね。私もまだまだだったみたいね……」


 そう嘆くように呟いた彼女は、剣杖を放り投げてそのまま地面へと座り込んでしまう。


「いやいや、彼がおかしいだけだからね! 絶対に普通じゃないって!」

「そうよね。なんだかちょっとだけ彼女が可哀想になってきたわ……」


 一方、その様子を遠くから見つめていた二人の少女が、そんな言葉を交わしていた。


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