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29 合流

 想い人からお姫様抱っこで運ばれる。

 フローラはそんな絶好のシチュエーションの真っ只中にいた。


 しかしその目に力はない。

 両手で口元をおさえ、湧き上がる吐き気とただ必死に戦い続けていた。


「ああん、ここにも居ねぇみてぇだな」

「お、おろし――」

「しゃーねぇな。次行くぜ」


 テティスが軟禁されていそうな場所を見つけるたび、オルトは地面を蹴って空を高速で駆け抜けていく。

 その度に全身を激しく揺さぶられ、もはや完全にグロッキー状態となっていた。


「うぷっ、もう無理――」

「おっ? あれじゃねぇか?」


 そんな彼女の憔悴ぶりに気付いた様子もなく、オルトは周囲を見回す。

 その青い瞳が、テティスらしき人影を遠くに捉えた。


「うっしゃ、いくぜ!」


 俄然テンションの上がった彼は、勢いよく地面を蹴って飛ぶ。

 

 その際、ちょっとばかり力を入れすぎたのが多分良くなかったのだろう。

 つい飛び過ぎてしまった彼は、勢いあまって進路上にいた男を()き飛ばしてしまう。


「あっ……」


 そのまま予定より少し離れた場所に着地を果たした彼は、間の抜けた声を漏らしながら、ゆっくりと振り返る。

 しかし、そこに轢いた男の姿は見当たらない。


「やべぇ、やっちまったか?」


 金髪をぐしゃぐしゃとかきむしりながら、そう呟くオルト。


「うげぇ……っ!! はぁ……はぁ……。多分問題ありませんよ……。敵の魔導師だったみたいですし……うぇ……」


 その腕の中から逃れ、地面に膝をついたフローラが胃の中身を吐き出しながら、そう告げる。

 

「はぁん、んじゃまあ別にいいか」


 その答えを聞いたオルトは、刹那でその男の存在を忘れ、テティスたちの方へと歩き出す。


「ま、待ってください……オルトさん……うぷっ」


 まだ気持ち悪そうに口元を抑えながら、その後ろをヨロヨロとついていく。



「オルト!? なんでキミがこんなとこに?」

「なんでってそりゃ……おめぇを迎えにきたんだよ」

「はぁ……はぁ……。久しぶりね、テティス」

「フローラ……キミまで。まったく無茶ばかりして……」


 自分の身を案じ、こんな危険な戦場までわざわざやって来てくれた二人の姿を見て、テティスの目からポロリと涙が零れ落ちる。


「無茶はどっちだよ。ったく、ボロボロじゃねぇか。やっぱ俺もついてきゃ良かったな」

「オルトさんの言う通りよ。こっちがどれだけ心配したか分かってるの? 呼ばれたからってホイホイ行くもんじゃありません!」

「あはは、ゴメンね」


 二人のもっともな言葉に、テティスはテヘヘとはにかみ笑う。

 

 再会に和んでいた彼らだったが、その背後から邪魔する声が掛かる。


「なぁ……あんたら。俺っちのこと忘れてないっすかね?」


 オルトに派手に轢き飛ばされたレギンだが、まだ生きていた。


 全身のあちこちに擦り傷が生じ、服も破けボロボロの有様ではあったが、瞳に戦意は失われてはいない。

 自分をこんな姿へと変えた元凶を真っ直ぐに睨み付けていた。


「……誰だぁこいつ?」


 その姿を見て、平然とそう言ってのけるオルトに対し、テティスが呆れ顔で教えてやる。


「もう……さっきキミが吹き飛ばした相手じゃないか」

「ああ、そういやそんなのもいたな。まあなんだ、その……悪かったな」

「あ、いやまあ……戦場での出来事っすからね。しゃーないっすよ」


 あっさりと謝罪するオルトに対し、毒気を抜かれた様子で返すレギン。

 緩い空気が流れるが、すぐに気を取り直して叫んだ。


「て、違うっすよ! なんか妙ちくりんな恰好してるっすけど、あんた、王国の騎士っすか?」

「騎士ねぇ……まあ騎士っちゃ騎士だが、別に王国とやらにゃ所属しちゃいねぇぜ?」

「となると他国の……? あんた何が目的っすか?」

「何って……俺はただこいつを迎えに来ただけだぞ?」


 そう言ってテティスを指差すオルト。


「その娘は俺っちの弟の仇っす! 大人しくこっちに引き渡すっす!」

「そいつはちょいと聞けねぇ相談だなぁ。どうしてもってんなら俺を倒してからにしな」

「……いいっすよ。さっきは不覚を取ったっすけど、もう俺っちに油断はないっす! 覚悟するっすよ!」


 初めのうちこそ体格差に圧倒されていたレギンだが、オルトから魔力を全く感じ取れない事に気付き、すぐに自信を取り戻していた。


御託(ごたく)はいいからよぉ、さっさとやろうぜ?」

 

 一方のオルトの方もやる気満々だ。

 邪魔なマントを脱ぎ捨て、拳や首をポキポキと鳴らし、臨戦態勢となっている。


 そんな彼を止めようとテティスが声をあげる。


「待ってよ、オルト! おそらく彼は『毒雨』のレギン。キミがいくら強くても一人で相手するなんて危険だよ! ここは全員で力を合わせて戦おうよ!」


 オルトの頑丈さや抜きんでた筋力はテティスも知っている。

 しかし相手もまた名の知れた魔導師であり、しかもその二つ名には毒という不穏な単語が混じっている。


 いくら肉体的に優れた彼でも、搦め手を使われれば敗北も十分あり得る。

 そう彼女が心配するのも当然のことではあった。


 しかし――


「おいおい、相手は一人なんだぜ? ならこっちも一人でやんのが礼儀ってもんだろ?」

「礼儀って……ここは戦場だよ?」

「つってもなぁ。別に俺は戦争しにきた訳じゃねぇしな。これはただの喧嘩だぜ? なら関係ねぇさ」

「……もう、ボクは知らないからね!」

「おうよ。まあ後ろでのんびり見てなって」


 プンプンと怒りながら、テティスは後ろに下がっていく。


「さてと、待たせちまったな。んじゃ、早速やろうか?」

「ホントにいいんすか? 俺っちは全員まとめてでも全然構わないんすよ?」

「はっ、いらねぇよ」


 レギンの見た限り、魔力持ちはテティスとフローラの二人だけ。

 そして片方は満身創痍であり、もう一方に至っては杖さえ持っていない。


 残る兵士たちも目の前の大男も、魔力を持たない以上は彼にとっては十把一絡げの雑兵に過ぎず、もはや彼の勝利は揺るがない。


 そう考えていたが……。


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