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28 救援

 指揮官不在のまま両国の兵たちが泥沼の争いを繰り広げていた前線だが、その状況に大きな変化が生じていた。


 その理由は単純明快だ。

 連邦側への救援に『剣舞姫』アストレイアがやって来たからだ。


「くそっ、このこのっ! ぐえっ」

「なんなんだよ、この剣ども! こっちに来るんじゃねぇ!」


 王国兵たちの困惑混じりの悲鳴があちこちから上がっていく。


 50近い数の剣が空へと浮かび上がり、それらが舞い踊るようにして次々と彼らを切り刻んでいた。


「くそっ、ちょこまかと!」

「あっちからもこっちからも来やがる! こんなのどうすりゃいいってんだ!?」 


 無論、彼らとて無抵抗では無く、必死に武器を振るい撃ち落とそうとしていた。

 しかし宙を高速で飛び回る小さな的をなかなか捉えられず、一方的に押されていた。


 アストレイアの固有魔術『ブレイドダンス』――それは宙に浮かべた剣を操るという彼女だけが使える特異な魔術だ。


 剣一本一本が独立して動き、しかもそれらが連携して襲い掛かってくる。

 流石に人間の剣士ほどの精細な動きは出来ないものの、個々のサイズが小さくお互いが邪魔になり辛いため、より自由に振る舞う事が可能だ。

 また素材が金属である以上それなりに硬く、しかも魔力によって強化されているため簡単に折れる事もない。

 しかも多少傷つこうとも操っているのはアストレイアであり、彼女をどうにかしない限り勢いが削がれることは決してない。

 しかし攻防一体の剣舞を前にしては、彼女に近づくことさえままならない。


 ある意味では不死の軍勢を相手にしているにも近く、魔力を持たない一般の王国兵たちが対応に苦慮するのも当然のことであった。

 

「お見事です、アストレイア様!」

「流石はユースティティアの剣舞姫! 戦場で舞う姿はなお美しいですな……」

「ははっ、見ろよ。王国の連中、尻尾巻いて逃げ出してやがるぜ」


 がぜん優位に立ったことで湧き上がる連邦軍の兵士たち。


「ほらほら、気を抜かないの。さっさと押し返してこの戦いを終わらせるわよ」

「「はっ!」」


 口ではそう叱咤するも、その内心は冷ややかなものだ。


(はぁ、手応えのない連中よね)


 別に戦闘狂という訳ではない彼女だが、それでも強敵との戦いを望む気持ちはやはり強い。

 でなければ良家の子女としての優雅な暮らしを捨て、戦場に身をやつしたりはしない。


(王国の騎士は精強って聞いてたけど、全然大したことなかったわね)


 だが一方的な展開が続いたことで、すっかりその期待は失われつつあった。

 

「さてと、敵の指揮官はどこかしら?」


 血が湧くような戦いが望めないならば、あとはただ淡々と仕事をこなすだけ。

 勝利を得るための最短距離を、頭を仕留めることだと見据えた彼女が選んだのは、敵陣の中央突破だった。


「おや……これこれは……」

  

 そんな彼女と、王国側の指揮官シェゾーら一団との進路が、奇しくもぶつかり合った。

 

「その恰好、あなたが王国の指揮官シェゾー子爵かしら?」

「そう言う君はもしかして連邦の『剣舞姫』殿なのかな? うーん、若く麗しい美姫だと聞いてたんだけど、なんか思ったよりも随分とババアなんだね。これは残念」


 馬から降りたシェゾーが不躾な視線を向けた後、肩をすくめる。


「ねぇ……それで挑発のつもりなのかしら?」

「挑発? ははっ、バカを言わないで欲しいな。そんな無駄な真似、この僕がすると思うかい?」

 

 真実、彼は挑発など一切していない。

 ただ思ったままを告げただけだ。


「……いいわ。ならお望み通りに殺してあげる」

「果たして君にそれが出来るのかな?」


 アストレイアの威圧にも、彼がニタニタ笑いを消すことはない。


 彼女は不快気に目を吊り上げ、剣をタクトのように振るい、背中の剣翼を展開する。

 翼が50を超えるパーツへと分かれ、それらが再び宙へと浮かび上がっていく。


「これは素晴らしい! なんて洗練された魔術なんだろう! 使い手の醜悪さとは、似ても似つかない美しさだねぇ!」

「ねぇ、降参するなら今のうちよ?」

「……けれどね、こっちだって君のその魔術については知ってるのさ。なら当然対策を考えてるに決まってるよねぇ?」

「対策、対策ねぇ。はっ、やれるものならやってみなさいよ!」


 かくして両者の戦いが幕を開ける。



 死闘の末、どうにか『竜鱗』ファフナーを打ち倒したテティスたち。

 だがそんな彼女らの身に新たな危機が迫っていた。


 窪地の縁の上に立つ小男――レギンが冷たい瞳で、彼女らを真っ直ぐに見下ろしていた。


「そうっすか。あんたらが弟をやったんすね」


 テティスたちから返答はなく、それを肯定だと受け取った彼は目に炎を灯す。


「バカな弟っすけど、あれでもたった一人の身内だったんす。仇は取らせてもらうっすよ!」

「何か勘違いしてるみたいだけど、彼はまだ……」

「もはや問答無用っす!」


 テティスの言葉を無視し、魔術を発動しようとするレギン。


「そんな。こんなところで……」

「助かったと思ったのによぉ」


 一難去ってまた一難。

 新たな敵魔導師の登場を前に蒼褪める兵士たち。


「おい、ぼやッとしてんじゃねぇ! テティス様を守るぞ!」

「お、おうさ!」


 しかも頼りのテティスは、もはや身動きさえままならない状況だ。

 それでも彼らは恐怖に竦む身体を奮い立たせ、自分たちの恩人の窮地を救おうと前に立つ。


「無駄っすよ。俺っちの魔術は、そんなんじゃ防げないっす!」


 しかし今のレギンには、その感動的な光景さえも滑稽な姿にしか映らない。

 弟の仇を討つべく、まずはその障害から排除しようと魔術を放とうとする。


「いくっすよ、ペノムレ――」


 だがその瞬間、高速で飛翔する物体が横合いから飛んできた。


「ぐぇぇ!?」


 不意打ちを食らい、派手に吹き飛ばされていくレギン。


「へ?」


 予想外だったのはテティスらも同様であり、皆が口をポカンとあけている。


 そんな中、見知った男の声がテティスの耳へと届けられる。


「よう、元気にしてっか?」

「お、オルト!?」


 レギンを吹き飛ばした謎の物体の正体は、彼女の親友を抱えた大男だった。


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