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26 竜鱗

本日更新1回目。

夜にもう一度更新予定です。

 テティスと『竜鱗』ファフナー、二人の魔導師による戦いが繰り広げられていた。


 バカでかい大剣――斬竜剣をオモチャのように振り回しながら攻め続けるファフナー。

 それに対し、テティスはひたすら回避の一手だ。


「ふんっ! ふんっ! すばしっこいっすね!」

「身体が小さいのも、そう悪い事ばかりじゃないってことさ!」


 ファフナーの称賛に、やけくそ気味にそう返すテティス。


「けど避けてるだけじゃ、おいらは倒せないっす!」

「そっちこそ、バカみたいに剣を振り回すだけじゃボクは倒せないよ!」


 口ではそう強がっていたが、テティスは己の不利をちゃんと理解していた。


(これじゃ反撃どころじゃないよ。マズイね……)


 振るわれる斬撃は時折、地面や岩などを掠めていたが、それで止まるどころか逆に抉り取ってしまう程の威力が秘められていた。

 かわす度に全身に風を叩き付けられ、否が応でも恐怖を煽ってくる。


 いくら大振りで避けやすくとも、もし間違って掠めでもしたらその時点でミンチとなる。 

 その危機感は、戦いに不慣れな少女の精神を削るには十分過ぎた。


「おいっ、ばさっとするな! 俺たちもやるぞ! 間違ってもテティス様には当てるなよ!」


 そんな彼女の焦燥を知ってか知らずか、後方の兵たちが援護を開始する。


 いくつも矢が飛び、ファフナーの巨体へと吸い込まれていく。

 だがそれらは全て光の鱗によって弾かれ、ポトリポトリと力なく地面へと落ちていく。


「……そういや、まだそっちにもいたっす」

「ひぃっ!?」


 表情の消えたファフナーの顔が、兵たちの方へと向けられる。

 その瞳が怪しく輝き、先にそちらから仕留めようと走り出す。


「《グレイシャルミスト》!」


 その背中へと、蒼く輝く霧が強く吹きつける。

 僅かな隙を逃すことなく、テティスが杖を向けていた。

 

「ううっ、冷たいっす! 何するっす!」


 振り返ったファフナーがそう抗議するが、その身体には凍傷の一つさえ見当たらない。


 空気さえも凍らせる極寒の一撃さえ、ただ冷たいの一言で片づけられてしまった。 

 それを認識したテティスの表情が、ますます険しいモノとなっていく。


「……熱でもダメ、冷気でもダメ、か。じゃあ、なんだったら通じるんだろうね?」


 また一つ手札を失ったことで、焦燥感が増していく。


「ううん。弱気になっちゃダメだね。まだ何か手があるはず……」


 折れそうな心を必死に鼓舞しながら、少女の戦いは続いていく。



「ああん? なんだこりゃ?」


 テティスを連れ戻そうと、王国軍の陣地へと赴いたオルトたち。

 だがそこは予想外の大騒ぎとなっていた。


 いくつも怒号が飛び交い、兵たちが忙しそうに駆け回っている。

 緊迫した戦場の空気が漂っていた。


「何があったのですか?」


 その中に見覚えのある顔の兵士を見つけたフローラが、そう尋ねる。


「これはフローラお嬢様。連邦の連中が攻めてきたのです」

「そんな……まさかお父様が……?」


 その答えを聞き、フローラの表情が真っ青に染まる。


 領地の利益を考えれば、そんな事をする意味はどこにもない。

 だが敵の挑発に乗った末というならば、ありえない話とも言い切れない。


「……分かりかねます。上からの指示が何もないため、こちらも何が何やら……」


 どうやらその兵士も似たような事を考えていたのだろう。

 戸惑いながらも、どこかきまずい表情を浮かべている。


「そう……。ねぇ、テティスがどこに行ったか分かるかしら?」

「ああ、お嬢様のご学友の方ですよね? あの方でしたら、シェゾー子爵と共にどちらかへと向かわれたのは見かけましたが……。行き先まではその……申し訳ありません」

「やっぱりそうだったのね。いいわ、後はこっちで探すから。行きましょう、オルトさん」


 これ以上この場に留まっても邪魔になるだけだと判断したフローラは、早足で歩き出す。


「おい、嬢ちゃんいいのか? そっちは戦場じぇねぇのか?」

「嬢ちゃんじゃなくて、フローラです!」

「お、おう……」


 プリプリと怒った顔でそう返してから、ハッとする。


「ごめんなさい、つい……」

「別に構わねぇがよ。それよりどうすんだ? なんか心当たりはあんのか?」

「そうですね……たぶん陣地内には居ないと思います。人目につかない場所に軟禁されている可能性が高いかと」

「てぇと岩陰とかそんなんか? ……隠せそうな場所なんていくらでもありそうだな」

 

 周囲を見回しながらオルトがそう零す。

 その対象となる範囲はかなり広く、しらみつぶしにするとなればかなり時間がかかりそうだ。


「ええ、なのでここは手分けして――」

「うっし、じゃあちっとばかし本気出すとすっか」


 ポキポキと指を鳴らしてから、フローラの後ろへと回り込んだオルト。

 そのまま彼女を抱き上げる。


「え? やだ……」


 いきなりのお姫様抱っこに驚きながらも、ポッと頬を赤く染めるフローラ。


「暴れんなよ? 振り落とされっからな」

「はい……?」


 だがそれもすぐに蒼白に変わる。

 猛スピードでオルトが空へと飛びあがったからだ。


「きゃぁぁぁ!?」


 晴れ渡る戦場の空を一人の男が駆け抜けていく。

 抱いた少女の悲鳴を響かせながら。


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