2 スーパーノヴァ
本日更新2回目です。
俺がこのレモンみてーな形の星に来てから、もう何ヶ月経つんだろうな?
ああ、最初にこれだけは言っとくぞ。
ここは普通の人間が住めるような場所じゃねぇ。
だから引っ越しとか考えるのは、マジやめとけ。
何が大変なんだよって聞かれりゃ、まあ色々あるんだが……まず思いつくのは、やっぱその磁場じゃねぇかな。
前いた星も大概だったんだが、ここはその比じゃあねぇ。
なんか1兆テスラとかあるらしいからな。
ああ、数値で言われても良く分かんねぇか。
俺も分かんねぇけどさ。
ともかくそのすっげー磁場のせいで、水の反磁性がどうたらで細胞がマジぶっ壊れまくるんだよ。
おかげで慣れるまでは、身体中がしょっちゅう悲鳴あげてたぜ。
ありゃ大分堪えたな……。
もちろん、キツイことはそんだけじゃねぇ。
他にも沢山あったさ。
一つはやっぱ自転の早さだろうな。
この星、1秒間に何十回転もしやがるから、ホント目が回んだよ。
真っ直ぐ立ってるだけでもマジ大変で、しばらくは結構ふらついちまったからな。
まあ一度コツを掴んじまったら割と楽勝だったがよ。
ちなみに重力もヤバいっちゃヤバいんだが……。
まあ前いた星と大差ねぇから、そこはあんま問題にゃ感じなかったな。
重力といやぁ、ここに来る途中にちょっと覗いたブラックホールの方が遥かにヤバかったぜ。
あの時のこたぁ、思い出しただけでもまだ寒気がすっからな。
全力ダッシュでどうにか逃げ切ったけどよぉ、ダイ〇ン並みの吸引力でマジ息切れしたわ。
ホント死ぬかと思ったぜ。
シュバルツシルトの闇だっけか、マジおっかねぇわ。
おっと、まだあるぜ。
この星、マジあちーんだよ。大気がプラズマ化しちまってるからな。
たしか40万℃くらいあるとかなんとか言ってたっけか?
だからさ、肌がしょっちゅうピリついて痛ぇのなんのってよ。
俺はさ、寒いのは割と平気な方なんだがよぉ、暑いのはちっとばかし苦手なんだよ。
家建てて凌ごうにも、めっちゃ回転してやがるし、何より地面がくっそ硬ぇ。
たしか鋼鉄の100億倍の硬さだっけか?
ともかく、結構ガチで殴んねぇと傷一つ入りゃしねぇんだよ。
そのせいで地面に固定なんかまずムリだ。
あんなとこに家建てようなんて考えんのはよぉ、正直バカのやることだと思うぜ?
◆
んでこれはよぉ、俺がこのマグネターつぅ星に住み着いてから、1年くらい経った頃の話だ。
「なんか結構いい感じじゃねぇか、おい?」
余計な贅肉が削げ落ちて、身体つきがなんかシャープになった気がするぜ。
「この1年さ。長いようでよぉ、あんがい短かった気がすんな。けどよぉ、やっぱ修行に来てよかったわ」
過酷な環境に身を置くってのは、それだけで成長を促してくれるつぅーこったな。
もっともイキナリこんなとこに来んのは、オススメしねーけどな。
初心者なら、まずは金星辺りでゆっくり身体を慣らすのが無難だと思うぜ?
あそこはよー、火星なんかと違ってテラフォーミングこそまだだけどよぉ、同じ地球型惑星だし何より近所だからな。
気温だって500℃前後で割と過ごしやすいし、大気もまあ二酸化炭素がちょこっと多いくらいで、呼吸だって大して問題ねぇ。
まあ、せいぜい硫酸の雨がちょっと鬱陶しいくれぇか?
「……ん? ありゃぁ、なんだ?」
朝イチの――つっても自転が早すぎる上、太陽なんて近くにゃないから起きた直後って意味だ――筋トレをこなしていると、遠くになんか真っ白い光がチラッと見えた。
「まあ流星なんて、特に珍しいもんじゃねぇしな」
こんな生活してりゃ、嫌でも見慣れちまうもんさ。
刹那でその光のことを忘れた俺は、すぐにトレーニングに戻ったのさ。
けどな、それが俺の今後を大きく左右することになっちまった。
「んー? なんかちょっと眩しかねぇか?」
異変に気付いたのは、それから0.02秒くらい後だったか?
気が付けば、真っ白い光が視界の大部分を埋め尽くしてやがった。
「あん? なんだありゃ白色矮星って奴か? てかおい! なんかこっち来てねぇか!?」
地球大ほどの星が、超スピードで真っ直ぐに俺の方へと向かって来やがる。
完全に衝突コースだ。
「やべぇな……。こりゃぁ、ちょっと逃げらんねぇぞ……」
眩い光に気付いた時点ですぐに動いていれば、まだなんとかなったと思うんだがよ、もう完全に後の祭りってやつだな。
「ったく。ホントついてねぇな、俺ってやつはよ……」
眩い光に呑み込まれながら、俺はそうぼやいた。