13 確認
本日更新1回目です。
帰宅し席についた二人は早速オルトの抱える事情について話し合う――のではなく、まずお説教から始まった。
ソファーから立ち上がったテティスが、対面に座るオルトへと勢い良くまくし立てる。
「まったくもう! ボクがどれだけ怖かったか分かってるのかな!?」
「わ、わりぃ、全然気付かなかったぜ……」
別に耳が悪いわけではないのだが、思い込んだら即行動の彼は、割と周りが見えていない事も多い。
今回もそうだった。
「大体キミさ? ボクの扱いがちょっと雑すぎないかな? フローラにはその……お姫様抱っことかいうのをしてあげたんでしょ? なのにボクは荷物扱い? ちょっとあんまりじゃないかな?」
「あん? おめぇもやって欲しいのか?」
「ばっ!? ち、違うよ! そうじゃなくてさ! ただもーちょっと女の子扱いしてくれても良くないかなーなんて……」
「つってもなぁ……」
テティスの言葉に、オルトは視線を逸らしながら頭を悩ませる。
見た目も家柄も悪くない彼だが、これまで女性とはあまり縁がなかった。
破天荒過ぎる性格に加え、危険な環境での暮らしが長かったことが大きい。
「はぁ……いやいいよ、忘れて。ボクもちょっとどうかしてた」
「そ、そうかよ」
少し我に返ったテティスだが、また表情を固めて身体を乗り出して勢い良く言い放つ。
「ただこれだけは言っておくよ! 今度からは何かする前に、せめてボクに一言ちょうだい!」
「お、おう」
「あ、あと、ボクのことは娘っ子とかじゃなくて、ちゃんとテティスって名前で呼ぶように!」
「わ、わーったよ」
「うん、ならよし」
じゃあこれでこの話はおしまい、そう言わんばかりにドシンとソファーへと座り込むテティス。
それから表情を正し、改めて向き直る。
「で、今度こそ聞かせてもらっていいかな? ちゃんと話してくれるんでしょ、キミのこと」
「ああ、だがその前にちょっと確認いいか?」
「なにかな?」
「なぁ、UENって単語に聞き覚えはあるか?」
「……いや、ないね」
UEN――人類圏統一帝国の存在を知らないなら、やはりここは管理外惑星である可能性が高い。
とはいえ念のため、ダメ押しの質問をぶつけてみる。
「んじゃ地球って単語はどうだ?」
「……それもないね」
人類発祥の星の名前さえ知らない。
となると、ただの管理漏れの有人惑星である可能性は、ほとんど消えたといっていい。
(やっぱこいつら……同じ人類じゃねぇってことなのか? そういや、なんか魔力がどうとか良く分かんねぇことも言ってたしな……)
そんな考えがオルトの頭をよぎるが、情報がまだ少なく上手くまとまらない。
「ねぇ、確認はもう終わりかな?」
無言で考え込んでいると、そろそろ話を進めて欲しいなぁと、テティスが視線で促してきた。
「ああ、そうだな。多分そっちにゃわかんねぇことも多いだろうが、まずは話だけでも聞いてくれや」
「ふぅん、なんかただ事じゃない感じだね。分かったよ。こっちも覚悟して拝聴させてもらうとするよ」
常ならぬ真剣な表情のオルトを見て、テティスも姿勢を正す。
それからオルトがどこか重苦しい声で語り始めた。
「昨日も言ったがよ。俺はあっちからやってきたのさ」
指で天井を指差すオルト。
「上ね。空ってことかな?」
「ちげぇ、もっと先だ」
「空の先……となると、まさか宇宙から?」
「んだぁ? 一応こっちにも宇宙って概念はあるんだな」
その説明からとなるとまた色々と面倒であったため、少しホッとする。
「まあね。とはいえそこに何があるかまではよく知らないけどさ」
「んじゃ、この世界が星――球体の上にあるってことは分かるか?」
その問いにもテティスは頷く。
「んじゃ話は早ぇな。宇宙にはよぉ、ここみてぇな星がいくつもあんだよ。んで、俺はそのうちの一つからやってきたって訳さ」
もっともこの星から、彼の故郷の姿は見えない。
少なくとも昨夜見た星空の範囲には、地球はおろかソル星系自体が影も形もなかった。
「なるほどね……。キミが話したがらない理由がやっとで理解出来たよ。確かにちょっと信じがたい話だね」
「だろよ?」
同意が得られたことに気を良くしたのか、オルトが胸を張る。
「うーん。それを証明できるものって、何かないかな?」
信じない訳ではないし、信じたい気持ちもあるのだが、やはり中々受け入れがたいというのがテティスの正直な感想だった。
なので、その手助けとなる何かを求めてみる。
「……ねぇな。強いて言えばこの服くれぇだが……」
そう言ってマントの内側に着ている黒スーツを軽くつまむ。
オルトが来ているこのスーツだが、何気に超新星爆発に耐え抜いたほどの特別製だ。
着心地が良く伸縮性にも富み、何より簡単に破けない点を気に入り愛用していたが、その素は地球の科学技術でも分析できないという謎のスーツであった。
「へぇ、実は凄い服だったんだね、それ。変なデザインだけど……」
その説明に、納得の表情を浮かべるテティス。
(なるほど、それでか。その神具の力で、邪竜の攻撃を防いだんだね)
オルトの纏う妙な服こそが、噂に聞く超級の魔導具――神具であったならば話の辻褄もあってくる。
「うーん。これだけじゃ空の向こう――宇宙から来たって証拠には少し足りないかもだけど、ボクは信じるよ」
こんな脅威の防御性能を持つ魔導具について、テティスは初耳だった。
スパイにそんな貴重な品を持たせるはずもなく、疑いはよりいっそう晴れたといっていい。
なら今はそれで十分だと思うことにしたのだ。
「あんがとよ。これでそっちの心配はなくなってことでいいのか?」
「とりあえずはそうだね。その宇宙とやらについても色々と興味はあるけど、それは追々でいいかな。先にそっちの話を聞かせれもらうことにするよ」
向こうも話を聞きたがっていることを察したテティスが、そう気遣う。
「おおっ、話が早くて助かるぜ」
そして今度はオルトが彼女に尋ねる番となった。




