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11 プルート・エッジワース

本日更新1回目です。

 地球を周回する衛星――月の地上には灰色の建物の群が多数並んでいた。


 まさに殺風景と呼ぶほかないその景色には、支配者たちが持つ気質が色濃く反映されていた。

 実用性重視であり、他者からの視線をまるで気にしないという、ある種の機械じみたとも言うべき性質が。

  

 その一角にそびえる巨大建造物の最上階の一室で、一人の青年が窓の外を眺めていた。


 その視線の先には、大穴がぽっかりと空いている。

 月面最大級のそれは、近年出来たばかりのまだ新しいクレーターであった。


 クレーターとは普通、小惑星や彗星などの衝突によって形成される。

 しかしそのクレーターは違った。


 その名をエッジワース・クレーターといい、青年の弟が殴ったことで生み出されたというなんとも奇妙な出自を持っていた。


 その青年の名はプルート・エッジワース。

 オルト・エッジワースの実の兄であった。



 ブルートは実は青年ではない。

 青年としか呼びようがない見た目ではあるのだが、生きてきた年数はその倍では利かない。


 一仕事終えた後の休息に耽っていた彼の目の前に、黒髪のまだ年若い部下の姿が投影される。


「プルート閣下、緊急入電です」

「何かな?」


 すぐさま仕事モードに移ったプルートの耳に、なんとも言い辛そうな声が聞こえて来る。


「その……。閣下の弟君からの信号が途絶えたとの報告が……」

「またアレが何かやらかしたのか……」


 家族の一大事ということで気遣しげな部下だったが、その予想とは裏腹にプルートは悲しむのではなく頭を抱えていた。


 それもそのはず。

 彼にとって弟の存在とは、昔からずっと悩みの種であったせいだ。


 窓の外に広がるクレーターを造った程度なら、実はまだ笑い話で収まる範疇である。


 昔とある超低温の星雲へと立ち寄った際、そのあまりの寒さに怒り狂った弟が大暴れしたことがあった。

 その結果、星雲を構成する塵やガスなどが四散し、星雲自体がまるごと消滅する事態となってしまう。


 あるいはこんな出来事もあった。

 とある赤色巨星の近くを通った時、たまたま火星の2倍ほどの質量を持つ高温プラズマボールが放出されている最中だった。

 そして運悪くその直撃を受けてしまった弟は喧嘩を売られたと勘違いし、その星を破壊してしまったのだ。

 

 などなど多数のやらかしエピソードが存在しており、一つ一つ挙げつらえばもはやキリがない。

 それを語るだけで、地球の回りを一周してしまう程の時間が要求されるだろう。


 そして、それらの処理に毎度奔走させられたプルートの苦労かくたるや……。

 

 事情を良く知る者たちなどは、そんな彼の理性を強く讃えていた。

 俺なら軍を動員してあいつぶち殺してるわ、なんて感心するほどに。


 だがそんな事情を知らない若い部下は、なおも心配そうに言葉を続ける。


「現在、調査隊を編成中とのことですが、ご家族である閣下にも一応許可を――」

「調査隊など不要だ」


 部下の言葉を遮り、プルートはばっさりとそう斬り捨てた。


「で、ですが超新星爆発に巻き込まれたとの未確認情報もあり、至急――」

「なぁ君? アレが――我が弟がその程度でくたばってくれると本当に思っているのかな?」

「は、はぁ……」


 プルートの言葉に、部下が戸惑った表情を浮かべる。


「ああ、そうか。君は直接アレに会った事がないのか。なら分からないか……」


 この部下が、貴族ではなく見た目通りの若さであるのを思い出し、少し遠い目をする。


「なら覚えておくといいよ。アレは何があっても死なない。……というかね、どうすれば死ぬのか、こっちが教えて欲しいくらいだよ」


 普段は理性に満ち溢れた振舞いで、部下たちからの尊敬を集めるプルート。

 しかし弟絡みになると、その仮面はあっさりと剥がれ落ちてしまうのだった。


ちょっとだけオルトの過去に触れてみました。


次回からはまた本筋に戻ります。

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