2 チュートリアルの仕方なんて知らない
街の出口方面からトボトボと歩いて戻って来た。
ライムは力が抜けきって、屍のようになっていた。
「私、いま迷子になっている」
ついさっき決意表明をしたのに、情けない。
私はスタート早々障害に衝突していた。そして今は、肉体的精神的にダメージを受けている。
そうして何に躓いているかというと、チュートリアルだ。
「ちょっと。そんなにわらわなくてもいいでしょ?」
蔑まれてもいい、言い訳をさせて。
私は、今までゲームなんてやったことがないの。
それもチュートリアルというのが、ゲーム始めにあるイベントなんだって今知った。
さっき酒場に行ったらマスター的な中年のおじさんに
「お嬢ちゃん。チュートリアルをしなくちゃ」
と言われたが、やり方を聞くのを忘れてしまった。
「どうしたものかなぁ」
周りの人に聞いてみるのも気恥ずかしい、それにこんな素人ゲーマーがいると知れば、このゲームに参加できなかった人達の妬み嫉みに対応なんてできない。
知り合いにと言ってもそんな人なんてい……
周りを見回していると、
『始まりの街役場』
というものを見つけた、これほど役場が頼もしいと思った事は小学2年生以来だ
あと時は、母からお使いを頼まれ隣町の祖母の家に行くことになった。14歳になった今でさえ迷子になるくらいの人間だ。案の定、7歳の私は道に迷った。
「うわぁぁん。ここどこ。お母さん。お家に帰りたいよう」
と盛大に泣いたことは、記憶力に自信がないが鮮明に
脳裏に焼き付いている。
「あら。お嬢ちゃん迷子かい?」
と優しく声を掛けてきた大人がいた。
磔磔思うあの時私を助けてくれたのがお巡りさんで、
「おうちにかえりたいよぉ!」
この年齢の子供は質問に対して的外れな答えをするものだ。私は典型的な子供だった。
「ねぇねぇ。お名前を教えてくれない?」
と訪ねながらiPadを取り出した。
「うん。私、みねざきらきむ」
「じゃあ、ライムちゃん一緒に行ってお母さん探そうか」
「うん。いく!」
私はあの時の市役所の安心感。市役所行ったら母が迎えに来て、家に帰れた時の頼もしさ。
そういう感情が蘇るようだ。
心のどこかであそこに行けばなんとかなるそう思っていた。あの時の安寧に縋り、私は役場に向けて踏み出した。
役場の前で、一息ついて木製の扉をゆっくりと押し開けると、そこには5つほど窓口があり、窓の向こうにはよくできたNPCが座っていた。
「うわぁすごいなぁ。ここなら……」
と窓口に近づきチュートリアルについて尋ねてみた。
「はい。ここで宿を見つけていただき、この後酒場に向かってパーティに参加するか、パーティを結成するところまでが、チュートリアルとなっています。」
と街の全体図も手渡しながら説明した。
これで迷子にならない。恐らく。
「AI とは違う人間みのある声色で親しみやすそう」これが私のNPCに対する第1印象だ。
私は手際よく、安心できる役場の近くに宿を決めた。
ここから先彼女は、拠点を役場の近くに無理矢理でも構えることから『関の番人』と呼ばれる事になるのだが、真の理由は、彼女がただ臆病ということなのに……ライムはそれを知る由もなかった。
ライムはそのあと酒場に向かった。その道中
「うわぁ。結構綺麗な街だなぁ」
と言いながら、全体図を元に一番最初に通った道を帰りながら歩いていた。
そうライムは、自分が盛大なミスをした事に気がついていない。
彼女は、一番最初に訪れた場所が役場でそのあと何気なく手掛かりを探しに街の出口付近の、今向かっている酒場に行ったのだ。詰まる所、二度手間である。
最初にゲームの要項をプレイ前に見ておけば今頃は、もっと良い所にいた筈だ。
そうして、見たことのある酒場についた。
「あれここって…あーそうか。」
ようやく開始30分間自分が空回りしていた事に気がついた。これからやっていけるのか自信がぐらついた。
そうして、あの入りにくかった酒場に渋々入って5分もしないうちに出る羽目になったあの恥ずかしい過去を振り返る。
ようやく酒場についたが、今はもうそんな入りにくさはなく、通い慣れたサラリーマンで入った。
「すみません。パーティ募集ってここですか?」
あのおっさんに無愛想に質問した。
「あーそこのタッチパネルで設定してね」
雰囲気は中世なのにシステムだけが最先端で統一感がないなと感じた。
無理もない、このタッチパネルのために増設されたような建物が酒場の右側の壁を突き破ってくっつけたような感じだからだ。先程なない感情が出て来た。
「なんだか惨いな」
そしてタッチパネルの前に立ったが…
これまた問題発生。このご時世でタッチパネルを触ったことがない。
普段は小説しか読まないもので、今この瞬間まで縁がなかった。よく考えみればタッチパネルも触ったことがない奴がいきなり、フルダイブのゲームをやること自体おかしいものだ。でも、
「えーと。あっなんか開いた…人数5人くらいかな
…パーティ名か」
できる。簡単な操作なのがタッチパネルの醍醐味である故かもしれない。
「終わったぁぁ。じゃあ少し待とぉっと」
そして一番奥の席に座って、一息ついた。
よくよく考えみればまだゲームらしい何一つしてないな。
お品書きを見て、驚いた。
「お酒しかないじゃん。てっきりオレンジジュースとかあると思ったのに」
本当にこのままでやっていけるのだろうか。
チュートリアルをするだけで丸々1話使って良いのだろうかという心配で肩を落としていると。
「ねぇねぇお姉さん。お姉さんがライムさん?」
と幼女が尋ねてきた。まぁ中学生のわたしが幼女というのは何か抵抗がある。
「そうよ。何かしら?」
「そう、あなたが」
なんだか含みのある言い方だ、少しばかり嫌な予感がしと、もちろん勘である。
「パーティに入れろ。いやでも厚かましいですよね」
おいおい。情緒不安定な幼女がパーティに入りたいって。耳を疑った、応募をかけたのはつい10分前。
「え?パーティに?わたしの?」
「あぁ、そうだよぉ!わかんねぇのか?入らせてもらえませんか?」
なんだか、多重人格の形成に失敗した子供みたいなやつだ。
「良いよ。名前は?」
「アル。アル・モードレットっていうの」
明らかに日本の名前じゃないのに、私の言葉が通じるものすごい違和感があった、
「どこの出身?役職は?」
「日本です。アサシンです。」
私は指で耳を掻いて、詰まってないことを確認した。
「え?日本なの?感じはどうやって書くの?」
そういうとアルと名乗る少女は、自分のスマホらしきものを出して、漢字でこう書かれていた。
"亜瑠・孟戸烈徒"
すごい当て字雰囲気がある。
私は察したこのパーティ碌なメンバーが集まらないのじゃなさないかと。
なぜなら、1人目が情緒不安定な自称日本人の幼女だからだ。
だが、定員は4人、憂鬱になってきた。