表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Remove  作者: 音無
出会い編
9/20

8話 少女1

「ごめんねえ忘太郎くん、そういうことだから。」


「そういうことだから……って、どういうことですか、一ノ瀬さん!」


と、声量大にして突っ込む。


 家に着いたと思うと、恵は自分のアパートの部屋の前まで行き、着ているワンピースのスカートの方についているポケットから鍵を取り出して、それで部屋の鍵を開けた。驚き以前に状況を把握できない。そこで、何か知っているかと思い、一ノ瀬に電話をかけて、今。


「言った通りよ。その恵さんは理事長のお知り合いの方で、しばらくの間泊めておいて欲しいのよ。」


一ノ瀬の艶を帯びた声が電話口に響く。


「泊めてって……仮にも相手は女性ですし……男と二人ってまずくないんですか?」


真っ当だと思う。理事長にとってはなんでもないのかもしれないが、異性だ。それに美人。そんな人を冴えない一介の男子学生の家に泊めさせるのは、いろんな意味でどうなのだろう。


「うーん、それは私も思うんだけれども、それに……」


「それに?」


と、一ノ瀬が言葉を数瞬止める。


「あぁ、ごめん、やっぱりいいわ。とりあえず恵さんをよろしくね。じゃあ。」


「ーーととととのっ、一ノ瀬さん……」


切れた。



「というわけでよろしくお願い……」


「ーーちょちょ待ち!」


電話を切り、忘太郎のベッドに腰掛けている恵が声を発すが、途中で遮る。


「何?」


「いやだって普通に考えておかしいでしょう。僕は男ですし、あなたは女性ですよ。しばらく泊めろって言われても……」


「もしかして……嫌?」


悲しそうな表情を浮かべる恵。


「いや、決して嫌ってわけではないけれど……」


「なら、よろしく、忘太郎。」


「嫌だから……」


「理事長の命令よ。」


と今度は恵が言葉を遮る。


 理事長の命令、その6文字を耳にして、背筋が急にピンとたった。そう、どういう意図でこのようなことになったのかはよくわからないが、これは絶対である理事長、河原登の命令なのだ。


「そんなこと言われたら、断ることができないじゃないか……」


先ほどまでと比べて弱々しく、忘太郎は呟くように言う。


「じゃあ、いいよね。」


「はぁ、わかりました。しばらくの間、よろしくお願いします。」


ため息混じりに忘太郎は恵を泊めることに同意した。と、彼女は忘太郎に向けて手を出す。


「えっと……」


と、忘太郎もピンときて、手を恵みに向けてだし、お互いの手のひらを触れ合わせ、握手をする。


「手、大きくなったね。」


「え、あ、はぁ。」


恵は再び笑みを浮かべる。自身の周りに光のエフェクトをかける笑顔。それぐらい、綺麗な人。


ーーと、意識すると忘太郎の心拍数上昇を促し、一瞬顔を俯かせた。




 それを見つめる恵。その一瞬に、恵の眼から何かが流れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ