6話 日常2−2
河原学園高校教室棟2階男子トイレ
「おい、もういっぺん跳んでみろよ。」
右の生徒がこちらを睨みつけながら言う。
目の前には3人の男子生徒。
真ん中に立つ生徒、犀川。クラス1の成績を誇り、その風貌も、地毛の黒で制服もきちんと着こなした、いわば優等生である。
右、大野。隣のクラスの副委員長で、彼もまた真面目そうな風格。
左、犀川の弟。兄とは対照的に気性が荒く、問題生徒。制服も着崩し、髪も茶髪に染めている。
購買から教室に戻る最中の一階から二階に登る階段の渡り廊下でのこと。突然彼らが現れ、無理やりトイレに連れてこられた。そして戸を閉め、外を遮断した上、トイレの一番奥に追い込んだ。
「おい、聞こえてねえのかよアァ。」
今度は犀川の弟が声を荒げながら忘太郎に迫る。
「おいあんまり声を上げるな、ただでさえ理事長の家の人間だ。まぁ忘れてくれるから助かるんだけど。」
犀川がこちらを嘲笑うように一瞥する。
優等生たちが(一人は不良だが)このようなことをするなど、誰が想像つくものだろうか。忘太郎も実際にこうなるまで信用できなかったと言うのも事実である。だが、以前から何度も同様の被害を被っている。どうも忘太郎はその記憶が’欠落’している。そこをつき、この行為を日常的に行っているもようだ。
「わかったよ。」
忘太郎はポケットから財布を取り出し、中から入っていた3野口を犀川に手渡した。犀川はそれを数える。そして……。
「まだあるんだろう。」
と言った。
「理事長に金もらってんならもっとあるんだろ。」
睨みつける大野。
「テメェさっさと出せよアァ。」
と言って、犀川弟は忘太郎の胸ぐらを掴む。そして……
「うっ。」
忘太郎の胴に強い衝撃が襲う。犀川の弟に溝の拳で打たれていた。その一瞬の痛覚とは違う圧迫感。
ーーとその瞬間。忘太郎は手に持っていた財布を落とす。そしてそれを犀川が拾い……。
「あるじゃないか。」
犀川がそう言うと、戸に体を向け、退出。それに睨みきかせた大野も続く。
「ぺしっ。ちっ」
そして犀川の弟はつばをかけ、舌打ちをしたのちに犀川弟も退出した。
優等生の皮を被った男たちによるカツアゲ。
言ってしまえば卑劣であり、何と言う暴虐だろうか。だがこれを誰かに言うことはないだろう。
怪我をしているわけでもなく、それに、彼らともこれ以上深い関係にいたいとも思わない。
そもそも忘太郎は『深く人と関わる』わけにはいかないのだ。
忘太郎は彼らに絡まれた階段踊り場に行き、彼らに無理に体を押された結果落としたおにぎりを拾い、教室に戻って、食べた。