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異世界ライフの始まり

受験シーズンの夏休み中間。特に将来の夢もなく、久遠はほとんど勉強もせずにゲームや動画鑑賞に浸る日々を過ごしていた。


俺は父子家庭で育った。そんな父さんは海外へ出張に行っていてほとんど帰ってこない。友達もいない俺にとっては孤独な夏休み。生活面では月毎に父さんがお金を振り込んでくれるので、生活するには十分だった。


いつも通り夕食を買いにコンビニへ。星も月も見えない空の下を歩き暫く、暗い中見えてきた大きめの明かりを頼りに、それに向かって足を進める。気がつけば周りが昼間のように明るい。俺は青色を主とした装飾が施された、床も壁も高い天井も石造りの建物の中にいた。部屋の真ん中には赤色のクルスタルが浮かぶ台座があり、まるで何かを崇めるための教会のようだ。


どうやって浮かんでるんだこれ


疑問を浮かべながらクリスタルに近づきまじまじと見るが、それを吊るすような物は見当たらない。 恐る恐る手を近づけそのクリスタルに触れると瞬く間にその部分から黒色に染まっていく。


《ウィルドレッドを確認。3人の魔王候補が揃ったため、これより虚空間戦闘シュミレーションを開始します》


ロボット音声のような声が建物内に響き渡る。


「よくぞ戻られました、我が主よ」


さっきの声とは別の透き通った女性の声が木霊した。後ろへ振り向くと、勇ましい雰囲気の少女がその紅い瞳で真っ直ぐ僕を見つめていた。少女はツヤのある長い黒髪をしていて黒髪に赤のマントを羽織って跪いている。


「どちら様ですかね、護衛を雇った覚えはありませんが」


腰に剣を装備していることから戦うタイプの人だと察し、半分笑いながら冗談交じりに尋ねてみた。少女は なにを言ってるの? とでも言うように、不思議そうな顔をして首を傾げた。


「私の名はディルミアーガ、ディルと呼んでください。クオン様の騎士として命を賭す所存です」


「騎士・・・どういうことだ?」


黒髪だし日本語を喋ってるって事は日本人なのだろうか、それにしては顔立ちが少し違う気がする。取り敢えずディルには跪くのをやめてもらい、場所を把握するために出入り口である大きな木のドアを開ける。


・・・・森の中?


外は深い緑の連なる森林が広がっていた。目に見える範囲には木以外の何もなく、なぜか微かにパチパチと何かが燃える音が聞こえる。


考えればあのクリスタルに触れたからだ。三人の魔王候補とかいう声が流れたこと、ディルが俺のことを主と呼び、さらに俺の名前を知っていたこと。魔王候補とは俺のことなのか? この森は恐らく日本ではない。だが種の分からない浮いたクリスタルや触れた瞬間黒に染まりディルが現れた。もはや違う世界なのだとしたら・・・まさか、


「ディル! 今何かが行われているのか?」


「はい、虚空間戦争シュミレーションが行われております。ルールは分かっておられるでしょうが我々にはどうやら初期戦力がないようですのでこれからしもべとなる魔物の生成や収集をお勧めします」


「いかにもやばそうなタイトルだな。えーっと、その・・・ルール、教えてもらえませんか? 知らないんですけど」


望んでこの場所に来たのではない故にこの世界のことは何も知らなくて当然。俺は悪くない・・・はずなんだがディルの期待外れと頼りなさを蔑むような瞳は問答無用で罪悪感を与えてくる。


「・・・じゃあルールを説明しましょう」


「申し訳ありません・・・・」


虚空間戦争シュミレーション(バトルロワイヤル形式)

・虚空間内にある物は自由に使用可能。


・自分の騎士と配下の魔物は虚空間内に連れ込むことが可能。ただし、主と騎士と以外の魔物が虚空間内で死亡した場合は現実での死とみなす。


・虚空間内において主に従う者は基本 的に各々の兵力とする。


・最後に生き残った主を勝利とし、それが決まるまで虚空間から出ることはできない。


・勝利した者は虚空間で新たに配下となった者を全て持ち帰ることができる。



『自分の騎士と配下の魔物は虚空間内に連れ込むことが可能』つまり俺たちは最初から不利だということだ。


《アグネス・アリエイト死亡、残り2名》


またあの声、そしてまずい状況だ。相手の標的はもう自分しかいない。さらに魔王候補の対決とかいういかにも強者しか集わないような戦いだ。例え奇跡が起こっても光は見えないだろう。それでも光を見させるものが本当の奇跡なんだろうがーー。


「ディル、魔物はどうやって集める?」


「周辺にある石碑に魔力を触れさせれば可能です。石碑に書かれた魔物が最初に触れれば直後に1〜100体、その後石碑を染めた状態ならば一定時間経つごとに召喚されます」


魔物の石碑を探すべく、2人で森を駈ける。敵に見つからぬよう、隠密に慎重に。


「これか? アームドオーガ10・・・魔力を触れさせるにはどうすればいい?あとこいつどのくらい強いんだ?」


「手で少し触れるだけで可能です。アームドオーガはかなり強力な魔物ですしかも10体、幸運をお持ちですね」


「そうか、ありがとう」


石碑に他の主が触れていなかったためすぐに10体のアームドオーガが出てきた。身長はディルの1.5.倍、横幅は腕を閉じていても2倍程はある巨大に頑丈そうな鎧を纏ったとても頼り甲斐のある魔物達だ。数分経って更に10体増え力強さが増した。

散策をしていると、近くに俺たちがいた教会と似た建物があることに気づく。中に入ると荒らされた形跡はないものの、クリスタルだけが綺麗に真っ二つになり床に落ちていた。嫌な予感がする。


「なあ、すまないがクリスタルが壊れたらどうにかなったりするのか?」


ディルは騎士とは名ばかりではないようで常に俺の斜め後ろを歩いていてくれる。


「クオン様が死にます」


・・・・。


「おいお前ら全力で教会に戻れぇぇ!!」


20体の魔物と1人の騎士と1人の人間は死に物狂いで走った。


目の前に広がるのは数千はいるであろうアームドオーガの軍隊。もう1人の魔王候補だ。まだ少し教会と距離があり、こちら側は少数なのでばれていない。だが最悪の状況であることは変わりなく、軍隊が向かっているのは教会のある方向だ。


「クオン様、失礼いたします」


こんな時にディルは何をしようというのだろうか。彼女は俺の左手を取るとほとんど見えない速度で抜刀し、その甲に切り傷をいれた。しかし不思議と痛みはない。そして彼女は傷口へその唇を向かわせた。すると傷口は癒え、その場所に刻印のようなものが刻まれる。


「なにしたんだ?」


「正式な騎士の契約です」


そう言うとディルはアームドオーガの軍隊に向かって走り出した。


ーーなぜ?


止めることすら出来ず自らも飛び込もうとした時だ、すでに数千の軍隊の半分が血の湖に変わっていたーー。飛び、舞うような彼女の姿が軍隊から見えるたびに降り立った周辺の数百の首が飛ぶ。奇跡なんてすぐ近くに・・・、


一瞬だった。


最後の一匹の首を彼女の剣が切り落とし血の海が完成した瞬間、一人の赤髪の少女が現れてディルと少女を紫色の爆発ような光が包み込んだ。


クリスタルが破壊されたのか、瞬く間に心臓を貫かれたのか、気がつくと俺は知らない街の中に立っていた。


「君、珍しい身なりをしてるけどもしかして迷子かい?」


声を掛けてきたのは誰かと似た雰囲気を持つ銀髪で白銀の軽装備をした少女だ。


「え、あ、女の子を知らない? 赤色の目をしてて目立つような子なんだけど」


「見てないな、力になれなくてすまない」


他人に心配かけてもしょうがないよな。


「いや、すぐ見つかるだろうから!」


本当に申し訳なさそうにする彼女に今作れる最大の笑顔を見せると彼女は心配気にしつつも微笑みで返してくれた。


「君の望みを叶えられなくて図々しいんだけど僕今大金持ちの人を探してるんだけど心当たりはないかい? 知り合いとかに」


これが俗に言う 売春 というものなのであろう。


こんな純粋そうな人なのに、


やはり人は見かけだけで判断してはいけないのは異世界でも同じなのだろうか。


「俺も俺で図々しいんだが、その・・・」


気まずい! 言ってはいけないのだが言わなければならない謎の使命感が俺を操ろうとしているぅぅ。


「苦しそうな顔をしてどうしたんだい?!ちょっと待ってどうして僕をそんな可哀想な人を見るような目で見つめるの!」


ああぁ、まさか物心ついた時がそんな環境にいたのというのかッ。これは教えてあげなくてはならない、彼女という個人をそんな風に傷つけてはならないとッ! 言う、言うぞ、俺はこの子を見捨ててはおけない!恋愛ゲームで女性との会話なんて何度も経験済みじゃないか!簡単だ、数ある内の一つだ。よし、


「今まで苦しかっただろう? さあ僕と一緒においで、もう二度と君を泣かせるようなことはさせない。・・・オレと、同じ夢を見ないか?」


恋愛ゲーム熟知し過ぎて逆に混ぜまくったオリジナリティがぁぁぁぁ!!! いや待て、この子を連れて行くってことは大金を請求されるってことか? バカヤロォ、なにやってんだ一銭も持ってねえだろ俺は。だがこんな一人称バラバラの俺ですら意味わからない発言だったんだ、こんな奴について行くわけ・・・


「あの」


「ど、どういう意味なんだい、まだぼ、僕たちは他人同士じゃないか!」


と思ったらこうなるのは元の世界じゃありえなかっただろうな。


彼女は赤く染まった顔を隠すように振る舞っている。


ーーー馬鹿なのか?


「でも悪い、僕にはやるべき事があるんだ、返事は遅らせて貰ってもいいかな」


振られた・・・のか・・?


「こちらこそ、いきなり訳の分からんことを口走ってしまい悪いことをしたと思います・・・」


「声をかけたのは僕だ、探してる人見つかるといいね、それじゃあ」


彼女は右手を大きく上げこちらに振りながら、急ぐように走り去って行った。


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