1、始まりの始まり
今回はNO SIDEです
『かんぱーい』
カンっとグラス同士がぶつかる音が響いた。
大手ゲーム会社〈rabbit moon〉は、新作ゲームの完成打ち上げをしていた。
「皆、ゲーム作りお疲れ様
今日は打ち上げだから皆楽しんでくれ」
黒い髪を揺らしながらスーツをきた男、東 奏多はそう言った。
奏多の話が終わると、その場にいる者たちは友人や上司と話し始めた。
奏多は探していた人物の後姿を見つけ、声をかけた。
「水無月」
水無月と呼ばれた人物は、くるりと振り返った。
「リーダー・・・こと、アホの東先輩やん」
この人物水無月 桜こそ、この物語の主人公である。大阪産まれ、大阪育ち。茶色の眼鏡をかけ、スーツを着こなし、桜のピンで前髪をとめており、長い髪をポニーテールで纏めている。クラスに一人はいそうな感じのちょっとした美人である。
桜の言葉が奏多の豆腐メンタルにヒビをいれた。
「うわ、よっわ」
この言葉により、奏多はかなり落ち込んだ。
数分後なんとか復活した奏多は口を開いた。
「と、とにかく一緒に来「嫌です」てくれ
・・・って嫌!?俺上司だよね?しかもかなり君より立場上だよね!?」
「立場なんて関係ないんです。人には拒否権っていうものがあるんですから、拒否したって良いんじゃないんですか?」
「小学生みたいな言い訳しないで!?確かに拒否権は存在するけど、普通上司の言うことぐらい聞いてくれるでしょう!?しかも付いて来てくれっていうだけだよね!!無茶なお願いでもないじゃん!!」
「それってアレなんですか?よく少女漫画とかで聞く、お前に拒否権なんかないからな!イケヴォ(笑)ってやつなんですか?あれって人権損害ですよね?大体、トイレなら一人で行ってください」
「たしかに、あれは人権損害だけども!!ってかなんでトイレなの!?女と連れションなんて聞いたことねえよ!!」
「えっ!!よく女子便所で見かけますよ?異性との連れション
てか、私女子じゃないですし、女子(笑)なんですけど」
「なんで(笑)!?てか異性でってまじかよ!?」
「はい、女性がママしかしゃべれない小さな男性を抱っこしていました」
「親子じゃねえか!!しかも赤ちゃん!!」
「小さくても男は男です」
「それはそうなんだけど・・・ともかく来てくれ」
奏多は桜の手首をつかみ、歩き出した。
「私は何をさせられるんですか?」
桜はめんどくさそうに言った。
奏多はニヤリと笑い、こう言った。
「男装」
桜はそれを聞いた瞬間、逃げ出そうとしたが、周りを女の先輩達に囲まれ、別室へと引きずられていった。
「これより、『rabbi moon』新作完成打ち上げ恒例、新人社員男装
お披露目をしまーす!!」
片手を上にあげ、楽しそうな表情の女がそう告げると、会場全体が熱気に包まれた。
拍手をする者、指笛を鳴らす者もいた。
「では、水無月 桜ちゃんどうぞ!!」
スッと柱の陰から出てきたのは、いつもの眼鏡をコンタクトに変え、黒いTシャツに赤のチェックの上着を羽織った美形の桜であった。本人は自覚はないが、もともと、男勝りな口調と態度が女性社員に人気であったが、その桜がいわゆるかわいい系のイケメンになって出てきたため、女性社員からの黄色い歓声があがった。また、男性社員からは、口笛や桜をおちょくる声があがった。
しかし、目立つことが嫌いな桜は、恥ずかしくなってしまい顔を真っ赤にした。その反応に社員達は口をそろえてかわいいと言った。
とうとう、恥ずかしさを我慢できなくなってしまった桜は、自分の荷物を持ち、軽い挨拶だけを言い、速足で会場を後にした。
「あーもー!!やってもうた」
先ほどのことを思い出し、桜はため息をついた。
桜は子供のころから目立つのが嫌いで、学校の発表などにはいつも苦労しており、自分の事が嫌いであった。
しばらく歩いていると、何か違和感を感じた。
何の音も聞こえないのだ。風や草が揺れる音も車の音も聞こえないのだ。
周りを見渡すと人も車も、何もかもが動いていない。止まっているのだ。
動いてるのはただ一人、桜だけなのである。
冷や汗が止まらなかった。
いつの間にかあたりは一面真っ黒であった。何も見えず、何も聞こえない。
ただあるのは黒一色のみである。
ジャラっという音が聞こえたかと思うと、どこからともなく金色の鎖が現れ、桜の身体に巻きついていった。
「な、なんなん!?これ!?」
身動きもとれない桜はただ声を出すことしかできなかった。
何もない空間から出てきた鎖はあっという間に桜を拘束すると、桜を下に引っ張りと何もない空間に沈ませていった。
「し・・・沈んでってる」
真っ黒の空間が桜の足を体を沈ませていった。
「だ、誰か・・・!」
助けてという言葉を言う前に、桜は沈んでいった。
シンっと静まりかえた森にズドンっという音を立てて、まぶしい光の柱が現れた。