第10話(最終話)
「……な、何で?」
地下の体育館程の広さの部屋に降りた2名の目の前に現れた物。
それは孝司にとっては見覚えがあり過ぎる物であり、ケンヴィにとっては初めて目にする未知の物体だった。
何故なら、それは……。
「お、俺のFD……?」
そう、首都高のパーキングエリアに停めておいた筈の自分の愛車……白のFD3S、マツダRX-7だったからだ。
前橋出身の孝司だが一時期高崎にも住んでいた事があって、その時に購入したこのFD3Sは間違い無くナンバープレートからして自分の物だと言う確信があった。
何で自分のFD3Sがこんな所にあるのだろう、と首を傾げている孝司の横からケンヴィが怪訝そうに質問する。
「これは何だ?」
「これは俺の車……あ、こっちの世界で説明するなら自動で動く荷車だ。色々金属の部品を使って、それを原動力として動かすんだ。地球じゃ当たり前に存在している物で、俺と栗山と博人はこれ繋がりで知り合ったんだ」
「ほう、そうか……こんな鉄の塊を1人で動かすのか?」
「ああ。こうやって動かすんだよ」
そう言いながら、ポケットに入れっ放しだったFD3Sのキーを取り出してガチャリとドアを開け、そのままシリンダーに回してキーをひねる。
するとキュキュキュキュ……とエンジン内部の火花が飛び散り、ボゴォッとエンジンが掛かった。
「うおっ!?」
「これでエンジンが掛かって動く様になった」
「ほう……この車、良い音させてるじゃあないか」
車の事は1mmも分からないケンヴィだが、直感的な感想を述べてみる。
「お、分かるか? ……それは良いけど、どうやってここから持ち出せば良いんだ?」
そもそもここから出せるだけの通路も何も見当たらない以上、FD3Sをどうやって出せば良いのか。そして自分はこれから地球に帰る事が出来るのか?
そう考えていた矢先、カサカサカサ……と何処からか音が聞こえて来たのをケンヴィが聞き取った。
「……ん、まずい!!」
「え?」
ケンヴィの焦った声と同時に、部屋の四方八方から大量の大きな蜘蛛が現れた。
約1m60cm程の体躯を持つ大きな蜘蛛は、アバウトに数えてみても50匹は居るだろう。
これだけの数の蜘蛛が一気に現れたら、幾ら俺でもきついかも知れないとケンヴィが考えていた矢先、FD3Sに乗ったままの孝司から声が掛かった。
「おおい、そこをどいてろ!」
「どうする気だ!?」
「前の2つの部屋であんたに助けて貰ったからよお、最後は地球の文明で恩返ししなくっちゃあな! 行くぜ!!」
そう言いつつ、シートベルトを締めた孝司はサイドブレーキを下ろして思いっ切りアクセルを踏み込む。
ロータリーエンジンが唸りを上げ、ホイールスピンさせながらFD3Sが一気に加速。
そのまま思いっ切りハンドルとサイドブレーキでテールを振り出し、一気にドリフト状態に持ち込んで1匹目の蜘蛛を思いっ切り跳ね飛ばす。
跳ね飛ばされた蜘蛛は壁にぶつかってそのまま息絶えた。
「おらおらあ、どんどん来いやぁ!!」
その後も18歳で免許を取って鍛え上げて来た、元プロレーサーのドライビングテクニックを活かして的確にFD3Sをコントロールして1匹、また1匹と蜘蛛を潰して行く。
そして最後の蜘蛛を潰し終わった時には、部屋の中にタイヤのゴムの臭いと排気ガスの臭いと、蜘蛛の死骸の臭いが混ざり合った悪臭が充満していた。
FD3Sのフロントガラスやボディには蜘蛛の体液がこびり付いている。
「うっぷ……酷い臭いだ」
そう言いながらケンヴィは孝司のFD3Sの元に近づくが、その瞬間FD3Sが淡い光に包まれ出した。
「え……?」
「あ、ちょ、おいおい!?」
この展開はもしかして……と孝司はヘルヴァナールに居た時の事を思い出し、ケンヴィもラスタンから聞いた栗山が消えた時の話を思い出した。
「どうやらお別れの時みたいだな」
「ああ……少しの間だったけど、色々助かったぜ」
「礼には及ばないさ」
そう言ったケンヴィに対して、孝司はふとある事を思い出して助手席に置いてあるビニール袋をガサゴソと漁る。
「そうだ。これやるよ!!」
FD3Sの中からポイッと投げ渡された物を受け取ったケンヴィは、しげしげとその物体を眺める。
「……ニンジンじゃないか」
「ケンちゃんは馬だからそれ食って元気出せよ!! じゃあな!!」
そう言いながら、光に包まれた孝司とFD3Sはそのまま地下の部屋から姿を消した。
「俺はケンヴィだ……全く」
最後までそのあだ名で呼ぶは直らなかったんだな、と思いながら遺跡から退散する事に決めたケンヴィの口元には、知らず知らずの内に薄い笑みが浮かんでいた。
◇
光に包まれた孝司がふと気が付くと、何時の間にか自分がトイレに寄っていた筈のパーキングエリアの中でエンジンが切られたままのFD3Sに乗っていた。
外を見てみるとそろそろ明け方になろうとしている。
「あ、あれ……? 今までのって……」
まさか知らず知らずの内にFD3Sに乗って、そのまま寝てしまったのだろうか?
だとしたら今まで夢を見ていたのだろうか?
しかし、それはすぐに間違いだと気が付いた。
「……あ」
何故なら、最後のバトルで薙ぎ倒した蜘蛛の体液がフロントガラスやボディにこびり付いていたからだった。
「……よっしゃ、洗車して帰るか」
何時もは洗車機で洗車するのだが、たまにはコイン洗車場で手洗い洗車も良いだろう。
そう考えた孝司はシリンダーに差しっ放しだったセルを回し、FD3Sのエンジンを始動させてパーキングエリアを後にするのであった。
Erudin Battle Quest第3部(最終部) 完




