第3話
孝司はケンヴィに置いてきぼりを食らい、しばらくは街道をトボトボと歩いていた。
「あーあ、FDがありゃなあ……」
せめて自分の愛車のFD3Sがこの世界に一緒に来てくれていれば、移動手段に困らずに済んだかも知れない。
ムエタイで鍛えた足腰を持っているとは言え、ここがどこなのかも良く分かっていない以上、とにかく人里を求めて歩くしか無かった。
だがそれよりも、そもそもあんな生物なんて地球上では絶対に見た事が無い。
人間の上半身に馬の下半身なんて、遺伝子操作をされても生み出すのは多分無理だろう。
(ファンタジーな世界なんだなー、本当に……)
すると、そこに1台の荷車……ではなく、象らしき生物に引っ張られている荷車が通り掛かる。
どうやら乗り合い荷車の様で、孝司は大きく手を振ってその荷車を止めた。
幸いにも料金はかからず、近くの町まで乗せて行って貰えるらしい上に、同乗していた人間から色々と話を聞く事も出来た。
(……エールディンなんて聞いた事ねーぞ?)
明らかに地球とは違う世界。これはもしかしなくても異世界トリップ。ヘルヴァナールに続いて2度目である。
とにかく帰る手立てを考えるべく、孝司は荷車の中で話を聞き終わってからまずは眠って体力を温存する事に決めた。
ケンヴィが去って行った方向に荷車が向かっていたのは偶然かも知れないが、孝司は夜中にようやく街に辿り着く事が出来た。
象らしき生物に引っ張られた荷車に乗り、クフトーと言う町に辿り着いた孝司はそこで自分の予想が合っている事を確信した。
(何だよここ……)
上半身が人間で下半身は動物の生物、はたまたその逆で上半身が動物の下半身が人間と言う生物が、当たり前の様に闊歩している光景。
まるでどこかのテーマパークにでも迷い込んでしまったのだろうかと考える孝司だが、さっきのケンヴィとか言う馬? の言っていた話からするとどうやらこれはアトラクションでも何でも無いらしい。
「……とにかく、どうにかして今後の予定を立てなきゃな」
それだけ呟き、孝司は近くに居るライオンの獣人から話を聞く事にした。
その結果、この世界はエールディンと言う名前がついている事、仕事は依頼を受けて成功報酬で稼ぐ歩合制だと言う事、通貨はガリッドだと言う事等が分かった。
「10円玉や100円玉が使える訳も無さそうだし……あー、どうすっかな……」
最近三鷹に中古の一軒家を購入した孝司だが、この世界ではどうやらホームレス状態である。
一先ず何か自分にもできそうな仕事がないかと思い、仕事の斡旋をしている場所へと向かった孝司だが、そこで思いがけない物に値打ちがある事が判明する。
仕事を斡旋している酒場で様々な依頼を見ながらハローワークを思い出していた孝司だが、いざ自分にも出来そうな雑用の仕事を引き受けようとカウンターに向かった時に、コロンと懐からカウンターの上に落ちてしまったもの。
それは「王将」の文字が描かれた将棋の駒。
将棋の棋士である孝司はそれがついたキーホルダーを使っていたのだが、壊れてしまったので買い替えようと懐に入れっぱなしであったのだ。
しかし見慣れない模様をしている見慣れない材質の物体とあって、酒場の店員から気になる事を聞いた。
どうやら、これを酒場から少し離れた場所にある骨董品店に持っていけばかなり高値が付くだろう……との事である。
「え……これ売れるのか?」
こんな古臭いキーホルダーが売れちゃって良いのか? と疑問を覚える孝司だが、店員が嘘を言っている様には見えないのでひとまず民家の掃除の雑用の依頼を受け、その骨董品店へと向かっている途中に「あの」生物と再会した。
「……あれっ!?」
カッポカッポと音を立てて蹄と地面を打ち鳴らしながら歩いて来たのは、自分を置き去りにしたあの……。
「おいっ、ケンちゃんだよなぁ!?」




