第2話
孝司は咄嗟にその背中に飛び乗る。
「それじゃ情報収集に付き合って欲しいんだけどな」
ここで置いてけぼりにされたらかなりまずい。
なので少々強引な手段ではあるが、このケンヴィと言う名前のケンタウロス(?)に案内を頼む事にした。
「頼むよ~頼れる人間……あ、馬……いや人間……は君しかいないんだよおおお」
たてがみの代わりに生えている髪の毛に頬ずりしながら孝司はねだった。
「ふざけるんじゃあない! 俺は今からクフトーに今晩の食材を買いに行くんだ。9人分の材料を背負って帰らんといかんのに貴様の面倒を見てる暇なんぞないわ!!」
男色家のケンヴィが切れ気味に対応しているのは、全く自分の好みではないからだろう。
それも自分よりもはるかに歳の離れている男が道の真ん中で下半身をさらけ出していたのだ。
出来る事なら関わりあいになりたくない。
「頼むよ~!! 俺もさっさと帰りたいんだしぃ~!!」
髪を引っ張ったりケンヴィの耳をクイクイしてみたり、うざい事この上無いねだり方をする孝司。
「お願いだよ~! 早く帰らないとママに怒られちゃうんだって~!! そのアル何とかって場所までタクシー頼むよおおおお!!」
グイグイ身体を揺らしつつ、ケンヴィに更に懇願する孝司。
しかしついにブチ切れたケンヴィは肘を思い切り後方へ突き、孝司を地面へはたき落とした。
「あだっ!?」
振り落とされた孝司だったが、2005年から和美に習っているカンフー、それからインストラクターの資格を持っている、2001年からの長年のムエタイの経験でそれなりに打たれ強いので少し咳き込む位で済んだ。
「げほっ……げほ……おいてめぇ、何すんだよ!?」
そのまま無視してクフトーまで駆けていってしまおうとケンヴィは思ったが、ふとある事に気が付く。
自分の身体に直に触れているのに、全く痺れている様子がこの男には無い事に……。
「・・・お前、俺の体に触って平気なのか?」
ケンヴィが妙な事を聞いて来たのでそれに孝司は答える。
「は? いや触っても何もって……さっきからけっこー触ってっけど特にどうって事は無えぜ? 普通は平気じゃないのか?」
確かにゴム底のスニーカーを履いていたり、腕時計の他にゴム製のリストバンドをつけてはいるけど……と自分の身体を見下ろして違和感は無い事を確認する孝司。
しかし、それでもケンヴィは納得が行かない様子だ。
生まれつき体内に蓄電機能が備わっており、見知らぬ者が体に触れれば静電気以上の痛みに襲われることは少なくない。
ただでさえ仲間にコキ使われ、不機嫌で放電の匙加減が曖昧状態のケンヴィを、初めて会った孝司がこれほど触っても痛みを感じていないのだ。
しかし、孝司がこの世界エールディンの住人ではなく、地球からやってきた異世界人だとケンヴィは気付いていない。
魔法で耐電を体に施していればケンヴィに触れるだけなら容易い、それに孝司を見る限り、偶然かゴム製品を身に付けているわけだから自分の電気が通らないのも納得がいく。
「まあいい、生憎今俺は忙しいんだ。早く用事を済ませないと仲間全員から非難されかねん。」
馬体から孝司と一緒にずり落ちてしまった、食材を入れる大きな麻袋を馬背に掛け、ケンヴィは再び蹄を動かす。
「だから頼むよ~、そのついでにお願いします~!!」
過去にはカリスマと呼ばれた自分も、プライドなんて気にしていられないのでケンヴィの目の前で土下座する孝司。
「俺はこの世界じゃ身寄りが無いんだよぉ~!! 頼れるのは貴方だけなんですー、お願いしますううううう!!」
そのいきなりのDOGEZA STYLEに動きが固まったケンヴィは、はぁーっと溜息を吐いた。
「嫌だと言っているだろう。自分で何とかしろ。」
「おっ、おい待てよ! 置いてかないでくれよぉーっ!!」
そのまま翼を出現させて空に飛び上がったケンヴィに向かって孝司は叫ぶが、その姿はあっと言う間に見えなくなってしまった。




