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第1話

(あー、何でこんな事になったんだろ)

 棋士としてのインタビューに答える仕事を終えて、そのまま自宅へと愛車の白いFD3Sで直行で帰宅予定だった市松孝司。

 途中、首都高を通って帰るのだがそこで事件は起こる。

 その首都高のパーキングエリアの1つで、トイレに行きたくなった孝司は用を足す為にパーキングのトイレへ。

 しかし、そのトイレの大便器のある個室に入った途端の事だった。

「……!?」

 個室に入って鍵をかけた瞬間、いきなり誰も居ない筈のトイレの個室が光に包まれる。

 眩すぎるその光に、思わず孝司は腕で顔を覆ってしまった。

「うぐ……う……!?」


 そうして目を開けた次の瞬間には、下半身丸出しの状態で何処かの平原に座り込んでいたのである。

「は……え……あ……?」

 一体何が起こったのだろうか。さっぱり分からない。

 今の自分の状況は周りを見渡す限り、整備されていない土の道が通っている街道……だろうか。

 その脇で、下半身丸出しの状態でしりもちをついている格好になっていた。

 余りの出来事にズボンを直すのも忘れて呆然としている孝司の耳に、何かがバサバサと羽ばたく音が聞こえて来たのはその瞬間だった。


 風圧と共にむき出しの土壌に蹄が4つ食い込む。

 翼は一瞬で体躯から姿を消し、緑瞳が目の前の人物を間近で捉えた。

「そういう事はもう少し人気の多い所でやった方が得策だと思うが」

 冷ややかな眼差しで見つめる人馬。

 人馬の名の通り上半身は人、下半身は馬の体躯を持つ人獣が孝司へ進言する。

「……はっ?」

 声がした方に振り向いてみれば、そこには人の身体に……馬? の身体を持っている変な動物の姿があった。

「え、あ……あれ、えー……け、ケンタウロス?」

 ファンタジーRPGに疎い孝司ではあるが、まさかこんな生物が目の前に居るなんて……と驚きと若干の恐怖と喜びを隠せない。

 自分が下半身裸である事も忘れて立ち上がった孝司は、つんつんと馬の身体に触ってみる。

「おーすげー本物だ……本物……え、本物?」


 人間は大抵、こうやって自分の体を触わるものだと地上に堕ちてから学習した。

 仲間の人間にも、彼が1番に愛している人物の弟にも散々こねくり回すように触られたからだ。

 最初は嫌悪感しか沸かなかったケンタロスも、次第に身体に触れられる事に慣れていったのだ・・・肉食の獣族を除いて。

「・・・まずはその下半身をどうにかした方がいいと思うが。 それと、俺の名はケンタウロスでもケンタロスでも無い・・・ケンヴィだ」


 孝司はひとまずズボンを直し、改めて辺りをキョロキョロと見渡す。

「……で、ここは何処なんだ? どう考えても地球じゃないよな?」

 とにかくこの状況を説明して貰わなければならないので、目の前の下半身が馬の謎の生物であるケンヴィに尋ねてみる孝司。

「チキュウとは何だ?」

 この世界とは装いの異なる人物を怪訝に眺め、ケンタロスは腕組みする。

「ここはクフトーとエペドフシーを結ぶ街道だ。見慣れない格好だが、旅でもしてるのか?」


 聞き慣れない地名(?)に孝司は頭を抱えた。

「やべえ……俺、また異世界トリップって奴しちまったのか・・?」

 現在の2018年10月27日からさかのぼること約4年半前。

 孝司は昔馴染みの知り合い達、それからヨーロッパからやって来た合計35人でヘルヴァナールと言う世界にトリップしてしまった。

 その時もファンタジーな世界観の中で色々とすったもんだがありつつも、結局はどうにか帰って来る事が出来た。

 しかし、今回は見渡す限りまた違う世界。その上自分1人。

 これが仮にファンタジー作品に詳しい椎名連だったり稲本明だったら楽しむ事が出来るのだろうが、あいにくそうしたファンタジーな世界には疎い孝司。

 しかも、ヘルヴァナールとは違う世界の様なのでそれも不安を煽る原因だ。


 そこで、ケンヴィと名乗ったこの馬(?)に孝司はこんな事を聞いてみる。

「俺はトイレをしてたら変な光に巻き込まれたんだ。……なぁ、俺の他にも違う世界から来たって人間は居たりしたのか? 過去に……」

「何を言ってるのかさっぱり分からんが・・・体を売りたいならアルカボルドの裏通りででもする事だな。この街道は人通りも少ない、魔獣の餌食になりかねんぞ」

 そう言うとケンヴィは四肢を進め、孝司の横を通り過ぎようとした。

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