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第1話

「はぁ~・・・。」

人だけが暮らすミルディヴの村のはずれにある家から大型の鳥パクに乗り、港町パスルタチアまで母に頼まれ買出しにきたリスタンは深く溜め息をついた。

数ヶ月前に家を出て行った兄からは手紙も届かず、生きているのか死んでいるのかも分からない状態。

小さく千切られた紙切れに書いてある買い物リストを死んだ目で眺めるリスタンの頭の中は兄ラスタンの事でいっぱいだった。

パスルタチアに到着するとパクから降り、町の中へ入る前に手綱を近くの木の幹へくくりつけ、けだるそうに後頭部をぼりぼりと掻きながら町門をくぐった。


「トマトに、じゃがいもに・・・魚・・・お。」

広場の方へと足を向かわせていたリスタンがふと港へと目をやれば、丁度中型の船が出航したところだった。

あそこから兄が旅立っていったはずだ。

出来れば自分も一緒に行きたかったが、母を1人にさせるなと兄に言われたからしょうがない。

船を見送ったリスタンは再び広場へ視線を戻して八百屋へと歩き出した。


「ちっきしょーーー!!」

何で今自分はこんな状況になっているんだろう。

そもそも一介の家電修理エンジニアの自分が何故、こんな中世ヨーロッパの世界に居るんだろう。

その事ばかりが小野田博人の頭の中をグルグルと駆け巡るが、今はそんな状況では無い。

この世界に来て知らない町を探索していたら、いきなり財布をすられると言う前途多難の状況に陥っていたのだから。

博人は自分の財布をすっていったガタイの良い男を探していた。

(確かあいつは・・・茶色のオールバックだったか? それにやけにガタイが良かった。あとは大きな剣を背負っていたっけ?)

咄嗟の出来事だったし、追いかけているうちに見失ってしまったので記憶があやふやだ。

それでも自分に記憶を頼りにするしか方法が今の所無さそうだ。

それも駄目なら・・・・。

(誰かに聞き込みだ!!)


広場から数本に分かれた細い道の1つを慣れた足取りで進み、店を出している八百屋の親父へリスタンが挨拶をする。

「おやっさん、トマトとじゃがいも。」

「今日も来たか売れ残り!ほらよ。」

売れ残りとは、兄がこの島を出て行ってから八百屋の親父がリスタンにつけたあだ名だ。

膨れっ面で金を支払い野菜の入った紙袋を受け取って次は魚屋へ行こうとした時、後ろから走ってきた男と肩がぶつかった。


「だぁっとととと!! すまん!!」

博人は一軒の店の前に居た青髪の男にぶつかってしまい、振り返りつつ謝ってすぐに前へと視線を移す。

なぜかといえば、あの大柄な男を見つけて再び追いかけている最中だからだ。

とは言うものの、大柄な体躯ながら男の後ろ姿も素早い。この町の事をよく知っている様だ。

それでも自分だって、伊達に9歳の小学校の授業の時から器械体操を続けてきた訳じゃ無い。そう思いつつ必死に博人は走った。


男とぶつかった拍子に紙袋は床に落ち、じゃがいもは傷付いただけで良かったがトマトの方は無残な姿に変わっていた。

兄は連絡をよこさない、八百屋の親父には馬鹿にされ、挙句の果てに買い物すらろくに出来ないと母親に説教されるのが目に見える。

今まで我慢していたものがこみ上げるように、リスタンの頭の中で火山のように噴火した。

「ふっざけるなよ・・・!」

リスタンは落ちた紙袋もそのままにして、ぶつかった男の後を追いかけていった。


男の姿を必死に追いかける博人。

男も博人の存在に気がついているのか、時折り露店のテーブルや椅子、更にはゴミの入った樽などを自分のほうに投げながら逃走する。

しかしそれを博人はギリギリでかわしながら追いかけ続ける。

この世界で自分の命の次に大切であろう財布を持ったまま逃げられる訳には行かない。

どうやら回りの景色を見る限りここは港町の様で、混雑が激しいのもなかなか捕まえにくい原因だ。

そして、そんな博人の後ろから1人の男が追いかけて来ている事など必死な博人は気がつく筈も無かった。


男はなおも逃げ続けて行くものの、段々と人気の無い場所へと誘い込まれている様な気がする。

いや、追い込んでいると言った方が正しいのだろうか。

博人だってガタイは良い方なのだが、前を逃げて行く男と比べれば小さい。

しかし男よりも小さければ、男よりも素早い動きが出来ると言う事でもある。

男は港の波止場に向かう様だ。

立体交差になっている橋の下をくぐり、博人も当然追いかけて行く。


最初は怒りのままに男を追いかけていたリスタンだったが、その先々の道がゴミや家具などで散乱している事に気付いた。

平穏な港町はいつも綺麗に清掃されているはずだからこんなに汚れているはずはない。

それにこんなに物が転がったり落ちたりしているのではあの男を追いかける事も難しい。

リスタンは一旦男を追いかけるのをやめて、出店も人気も無い裏路地へ向かった。

辺りを見回して誰も居ない事を確認すると、腰巻にぶら下がっている瓶の中からピアスを取り出して両耳へと着けた。

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