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プロローグ

第二章からはまったりと、一週間に2~3話程度更新できればと思ってます。

 ユートランド川と呼ばれる運河に三つの橋が架けられている。かつて、水竜が聖都の北方に位置する湖に住まう前。清涼な水辺を旅していたとされる水竜が立ち寄ったとさえ言われるその水辺に、沿うように建設された街並み。自然と調和した美しい景観を持つ王都、その最奥に位置する宮殿は、白亜と呼ぶに相応しい白と、微細な青のコントラストが美しい豪奢な佇まいを見せていた。

 空を突き抜けるような円柱に支えられ、高く吹き抜けた天上には竜や神々が象られた壁画が彩られていた。そんな宮殿内でも得に美しいとされる広間を抜けた奥に置かれた会議室では王の側近や大貴族が一枚の書簡を巡って、重たい談義を繰り広げていた。


「ふざけるなっ! そんな、ふざけた話があってたまるか!」

 王の住まう宮殿にて無作法ともいえるほど激昂する貴族の言葉にも、誰も不満を発するものはいない。

 彼らの心情は、まさしく彼の言葉通り、一致しているのだから。


「して……いかがなさいますか……陛下」

 宰相の言葉と共に、玉座へと掛ける国王、シンドリア八世へと視線が集まる。

 シンドリア八世は、権謀術数の限りを尽くす貴族たちの視線を受けようと、眉一つ動かすことはなかった。


「――戦いは世の常である。だが、エストールが相手では、些か不可解ではある――」

 齢四十二にして些かの衰えも見えない肉体と、深い知性を秘めた眼光で書状を見定める。 

 そこにはエストールの王印が押されており、複雑な手順で小難しく書かれた文体は、簡略化すればたった一文に纏めることができる。

 即ち――


 ――我がエストールは王国シンドリアへと宣戦布告する、と。


「かの国は長年、我らの良き同盟国であったはず――なのに、何故……!」

 帝国との同盟関係が保たれる以前、王国と帝国は幾度も幾度も国境を変える戦をしていた。だが国力としては帝国の右に出る国はないと言っていい。

 王国も大国であることは間違いないが、いずれ戦いを制すのは帝国であることは間違いなかった。そしてもし、帝国の脅威が王国だけに留まらないとすれば、次に狙われるであろう国は南部のエストールや七国であることは間違いがなかった。

 だからこそ、二国は王国と轡を並べて歩んできたと言っていい。

 

「北の監視を強めよ――戦の準備じゃ――」

 同盟関係にある帝国がこの期に攻めてこないとは断言できない。 

 王は不測の事態に悩みながらも、指示を下す。

 貴族共に兵を募らせ、第三騎士団と合流させる。二万程度でエストールは粉砕できるだろうというのがシンドリア八世の推測だった。王国は最大二十万は兵力として動員することが可能である。勿論その大部分は徴兵した農民となるため強力とは言えないが、それでも数は力である。国力でエストールに優る王国が負ける道理はない。

 

 何故、このような愚かな選択にでたのか、未だに理解はできなかった。

 エストールとの平和は数百の年月をかけて培われたものである。エストール王も王としての器は平凡なものでしかないが、愚鈍では決してないことをシンドリア八世は知っている。王に相応しくはないが好感の持てる優しげな瞳を宴の場で目にしていたのだ。


「貴族と冒険者にも依頼を出せ――早々に決着としよう――無駄な犠牲を出すでないぞ――」

 そんな王の言葉に側近が恭しく礼をして、そそくさと動き出した。

 そんな中で、貴族の一人が恭しく口を開いた。


「陛下、さしあたり、兵力として用いるべき人材に心当たりがございます――」

 貴族の進言を受けシンドリア八世は、視線を向ける。


「ほう、申してみよ」


「はっ。先の魔竜紛争にて無類の活躍をしたと言われる交易都市の英雄にございます――名は確か、ナハト、と」


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