表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネタキャラ転生とかあんまりだ!  作者: 音無 奏
第二次人魔大戦
162/167

激突

 視界を埋め尽くす刃の群れが、空気を割いて、痛々しい音を響かせる。

 ただ一本の剣から生じたとは到底思えない数多の刃は、ただ振り抜くだけでも尋常ならざる技量が必要になる。


 クラナとて、十全に扱えないじゃじゃ馬だが、その手数と破壊力の大きさは、嵐が通り過ぎた後のように破砕された闘技場を見れば語る必要さえないだろう。


(…………おかしい)


 手に握る剣の違和感。

 逃げ場など、あるはずもない斬撃だったはずだ。

 なのに、手に獲物を割いた感触がない。


「どうした、終わりか?」

 

 そんな声が耳に触れ、咄嗟に視線を上げるクラナ。数多の刃が舞う空に、悠々と佇むナハトが挑発の笑みを浮かべながら言った。


「っ!? 何時の間に……違う、どうやって――」

 

 思考するよりもなお早く、体は動いた後だった。

 握り直した剣を振り抜き、追撃を仕掛けるクラナだったが、またしても剣を握る手に違和感があった。


(重っ……! それに、鈍い――)


 先ほどよりも速度を失したクラナの剣撃は、時間の概念を超越したかのように動くナハトに当たるはずもなく、空を斬る。


 違和感の正体は、分裂した刃を覆う透明な氷だった。

 気がつけば、辺りの気温が低下して、降り注ぐ無数の氷雪。

 光を吸い込むような透明な氷が、クラナの操る刃の幾つかを止め、その隙を縫ってナハトはクラナの剣撃を躱したのだろう。


 破鏡刃は、その身を何十、何百の刃に転じても、一切の攻撃力減少を受けることのない理不尽な武器だが、分裂させればさせる程、その制御が難しくなる。

 だから、クラナが自らの武器の異常に気付くには、致命になりかねないタイムラグがあった。


 それでも、初見で、何百倍にも増える刃を冷静に捉え、剣撃の軌道を妨害し、躱すことなどできるとは思えない。だが、現実にナハトは一切の傷を負っていなかった。


 だが、真に驚愕すべきはナハトがクラナの攻撃を躱したことではない。


(…………気づけなかった……)


 クラナの攻撃を妨害するほどの魔法が、闘技場の環境さえ変化させてしまっている。

 その発露は、一般人でも察して余りあるはずだ。

 なのに、クラナはナハトが何時魔法を使ったのか、まるで分からなかったのだ。


「っ! 死鏡四刃――」

 

 まざまざと見せつけられた格の違い。

 だから、クラナはあっさりと奥の手の一つを切る。


 乱立して、荒れ狂っていた刃たちがクラナの意思に導かれ、四つに集い、銀光を反射する長剣へと転じる。

 神々しい光を映す四本の剣にナハトの姿が映り込んだその瞬間。渾身の力を込めクラナは剣を振り下ろした。


「――竜破断っ!」

 

 刃に映るナハトの虚像が切り裂かれる。

 顕現した四つの剣は、刃に映した対象を斬ることが可能となる。

 距離も、現実さえも、お構いなしとばかりに攻撃を通す装備の力に、竜さえ屠るクラナの剣撃。

 その一撃は、今度こそナハトを両断して――


「やっ、ってないっ!?」

 

 ――土塊が崩れ落ちた。

 

 思えば、ナハトの魔法を察知できなかったという事実をクラナはもっと重く見るべきだった。己の認識を超えた相手に迂闊に大技を放てば、それが一転して隙になる。

 

 クラナにとっては完全に初見殺しのはずだった必殺の一撃。

 ほんの僅か、クラナの意識を埋めた達成感と、それを粉々にする圧倒的驚愕。

 それらが生み出した微かな隙を見逃してくれるほど、クラナの相手は甘くない。


「――氷撃魔法アイシクルマジック――静謐なる氷獄コキュートス


 震え上がるほどの圧倒的魔力の発露を感じると共に、クラナの身体は氷の中へと飲み込まれた。










「やはり、中々に初見殺しだな」


 ナハトは氷雪に覆われた闘技場でポツリと呟く。

 ナハトがクラナの攻撃に対処できた理由は一つ。

 知っていたから、それに尽きた。


 かつてのギルド戦で、数多の猛者を切り捨てた破鏡刃は余りに有名で、その対処法をナハトも考えたものである。


 無難な対処法はやはり、装備者ではなく分裂した剣自体を攻撃し、妨害することだろう。

 ナハトはクラナが放った最初の一撃に合わせ、幻想龍によって隠蔽した氷撃魔法でその刃の一部を氷結させ、回避していた。


 攻撃の手数が増えれば増える程、それを管理する者の負担は当然増す。

 クラナはまだ、完璧と言える程には破鏡刃を扱えていない。嵐のように迫った刃も、あくまで大上段から振り下ろされた攻撃でしかない以上、迎撃することは難しくなかった。


 破鏡刃が秘める唯一無二の力――死鏡四刃への対処は少し捻ってはいたが、文字通り、クラナは虚像を斬り割いたに過ぎなかった。

 

 クラナの知覚をあっさりと置き去りにする技能スキル、鏡渡りの龍神による加速と同時。地精魔法アースマジック土人形創造ゴーレムクリエイトによって己の姿を映した身代わりを置いたのだ。

 氷撃魔法で生み出した氷による光の屈折を利用して、一瞬クラナの知覚を誤魔化し――クラナが破鏡刃の制御に意識を向けた隙をうまく利用したのである。

 だから、クラナはナハトの用意した人形を本物と錯覚してしまった。


 今回は、不意を打つために複数の技能スキルを贅沢に組み合わせたが、シンプルに対処するならば光そのものを奪って、刃に映る姿を消す方法が無難だろう。

 あるいはアネリーさんのような幻術が使えるならば、鏡に映る姿を偽ることはもっと楽だったに違いない。


 いずれにしろ、初見で対処できるものではない。

 ナハトがこうも一方的にクラナを打倒できたのは、彼女が信頼する父に貰った装備を過信し、それに頼った戦い方をしたからである。

 

 静謐なる氷獄コキュートスに飲まれたクラナは、致命的な隙を晒している。

 その時間を利用して、もう一つ魔法を発動すれば、決闘は終了となるだろう。


「だが、これで終わりではつまらないと思わないか?」

 

 ナハトは既知の力に対応した、それだけだ。

 これでは、攻略サイトを覗きながらゲームをしたも同然である。


「――――獣魂覚醒――――」


 ナハトの声に応えるが如く、荘厳な音色が響くと共に、静謐なる氷獄コキュートスが溶け出していく。


「ふむ、それがお前の全力か――」

 

 柱のように立ち昇る、銀に染まった幻想の焔。

 少女の姿をしていたクラナの身体が一回り成長すると共に、その背には七つの尻尾が揺れていた。そんなもふもふの毛先からは炎が躍る。


 闘争本能の赴くまま、クラナはナハトへと飛び掛かる。

 炎を纏い銀に染まった剣が、半身を引いたナハトの真横を通り抜けると、異常なまでに重々しい音が響き渡った。

 抉れた大地はものの見事に焼失していて、まるで重機で抉り取った工事現場のような有様である。


 幻想の獣――九尾の血を色濃く受け継ぐクラナが発する銀炎は、質量を持った炎だった。

 水銀が如く蠢く炎は、金属のように姿を変え、数多の剣へと姿を転じる。


 相対するナハトは、先ほどまでの小細工を止め、全てを粉砕するために魔力を練った。

 ナハトとクラナがぶつけ合う膨大な力の圧力に、空間が震える。

 一瞬の静寂、そして――


「――銀炎剣――終の暴刃――」


「――龍撃魔法――龍の吐息ナハトブレス――」


 ――力と力が激突した。



ネタキャラ転生の二巻が発売中です!


web版共々応援してくださいますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ