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タイトル1

《雪里 剛》


枯れ木の葉はすべて落ちていた。最後の落ち葉も今日の風でやられたのだろう。


寒い


「今日は無理かな?」


独り言を言ってはいるが、不可能な日なんてなかった。


「どいつもこいつもなってない」


デブがニットを着てどうする。デブの武器は胸だろう。寒くても使えるものを使え。


なんだあの足は、大根か?黒ストッキングやストレートがあるだろう。


あの帽子は85点、なかなか良いセンスだが、灰色ではなく白地にエア感があるものの方が似合うだろう。




ナンパに大事なことは何だと思う?


テレビでは誠実になることや褒めまくることなんて言っているが、あれは間違いだ。



大事なことはコーディネート力だ。




「その服は微妙だね、俺が選んであげるよ」


言われた女はあからさまにイヤな顔をして、こちらを警戒している。


「誰ですか?」


「この黄色ではなく、灰色のカーディガンと黒の帽子なんて、君には最高だと思うな」


女の話をシカトして話を進める。


「いえ、結構です。」


ガードが硬いな。あれを言ってみよう。


「お金はこちらが払う」


「え?」


女の表情がほころぶ、しかしすぐに警戒の色を塗りつけ次の言葉を放つ。


「本当ですか?」


こうなりゃこっちのものだ。あとは身体をいただいたも当然だ。


「本当本当、俺こういう者なんだけどモデルを探してて困ってたんだ。」


名刺を渡す。そこに書かれているのは、氏名【雪里 剛】と職業【デザイナー】。



「あんなに服が似合うなんて思わなかったわ。私も捨てたものじゃないわね。」


「とくに、コート!サイズなんてワンランク下なのにピタッとハマっちゃって最高!」


「生地のことまで考えて、サイズ選びなんてさすがはデザイナーね。ちょっと聞いてるの」




うるさい。


あのコートは綿のみ使っているから、伸縮性があり、お前の図体でもギリギリはまる。コートではなく、ダウンの方が色は似合っていたがホテル代まで考えるとだせなかった。


「聞いてるよ。あまりに素敵な体だったから。」


やっと言えたカタコトの言葉に女は満足そうだった。


「私も最高、こんな違う私にしてくれてありがとう。これから、クリスマスや正月も一緒にデー……


女は確かに身体はよかったが、ヤってしまえばそれまでだ。さっきから「最高」のみを連発しているが、ボキャブラリーがなさ過ぎる。付き合うなんてまっぴらだ。


どんなに可愛くコーディネートしても裸になりゃ意味がない。ブサイクな女でも変身させてやれるが、それではナンパの意味がない。


俺は女を寝かしつけ、1人ぼやいた。


「最高な女いないかな?」





《霧彦 大地》

俺は死んでもいいかもしれない。


今までの人生は平凡だった。大学三年まで、彼女1人いなかった。顔はまぁ普通だと思う。でも、性格が真面目すぎた。付き合うなら結婚まで、それが普通だと考えていた。


高校二年生のとき、マジで結婚まで考えていい女性がいた。しかし、叶わぬ恋だった。


すれ違いが多く、彼女とは一度高校近くの喫茶店で一緒に勉強したぐらいだ。


大学に入っても彼女のことを忘れられなかった。しかし、大学一年の夏、夏期実習の生徒に彼女は現れたのだ。




綺麗だ。と第一印象は思った。


顔がとても美しいというわけではない。スタイルが抜群というわけでもない。ただ、透明なのだ。髪は黒のロング、白いワンピースが似合っていた。


すぐに声をかけて、話をすると意気投合。そして付き合った。






そうなりゃ楽だよな。


当たり前だが、一言も話せなかった。大好きな服の布合わせや、デザインを考えようとしたが、先生に頭をはたかれただけだった。


「しっかりしてくれよ、未来のホープ」


その場で笑いがおきる。俺は色やデザインを考えるのが大好きだった。


伊座大学、専門学校が多いデザイン学校の中で唯一4大の学校だ。学科数も多く、衣服やモデル、建築デザインなるものもある。その大学には春と秋に大規模なファッションショーが行われる。テレビでも放送がある。優勝することで、デザイナーとしての将来がかかっており一年から四年生はこぞってアピールする。


「ホープはやめてくださいよ。」


「何言ってんの?!あなたはこの大学で一年生で初めて優勝したのよ!自覚をもって」


うちは貧乏で、ものが何もない場所で育った。暇な時は遠くを見て、塗り絵で色を塗るように色を合わせてた。


お袋にエプロンをあげたとき、ありがとうと涙ながらに感謝されたとき、この道を選ぼうと思った。


デザインは俺にとって人生だった。そこで負けることは自分の人生が間違っていたということだ。


雑念を振り払い、実習に集中した。




彼女を校舎内で何度か見た。なぜかいつも1人でいたのが気になった。


大会が近づくにつれ心血を注ぐようになった。一年生のまぐれ勝ちと言われていたが、一年生の秋の大会でも優勝すると皆手のひらを返したように実力を認めだした。


二年生でも敵なしで、余裕が生まれてきたころ、学食内で窓の外を見ていた。カレーをパクつきながらぼんやりと眺めていると、彼女が現れたのだ。


誰と話すでもなく、食事をするでもなく、ただ立っていた。


彼女でない人がやれば、何をやっているんだと不思議に思っていただろう。しかし、彼女の佇まいはその疑問すら頭に想起させないものがあった。


いつもの習慣で彼女に色や服を当ててみた。





何も思い描くことができなかった。


始めての経験に、最初は戸惑ったものの、すぐに面白いと思うようになった。


学食内でのポスターには、大学三年生の春に行われる大会が盛大にうたわれていた。


彼女に大会のモデルを頼もう。


彼女と付き合いだしたのは春の大会が終わった後、俺が好きだと伝えたら、俺の手をとり手のひらに「私も」と書いてくれた。


《雪里 剛》

ようやく、ひと段落。


春の出荷に備え、安く仕入れた商品を店内に並べる。


「足元みやがって」


春のバザー期間は夏に比べ短い、とくに暑くなると最悪だ。そのため今のくそ寒い時期から仕入れが必要になる。


「店長の仕入れ方が悪く、いや古臭くてダメになる商品が多すぎる。」


1人で愚痴るがもう対策はできていた。













だって、店長は死んでるから。


店内を見渡し、すりガラスの机にたくさんの春服がちりばめられているなか、それはいた。


足で蹴ってうつ伏せから仰向けにする。






色は紺でないとなぁ。


数時間前、


「まだまだだな、経営ってもんがわかっていない。」


すみませんと大きな声で謝る女、去年入ってきた女だ。わりと顔はいいので店長が気に入りだ。俺はセックスを20回ぐらいしている。


女が、発注ミスをした。個数を数着ミスったかわいいものだった。しかし、店長はそのミスを許せないのか中々その女を帰らそうとしなかった。


ネチネチと小声をこれでもかと繰り返していた。


「その態度は何だ‥もっと服を大事にしろ。‥まだまだこの程度で‥だいたいその服は‥最近の若者は‥だいたい協力という姿勢が‥」





殺意が芽生えた。












だってその女の服をコーディネートしたのは俺だ。



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