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失われしもふもふだった頃の記憶
冬毛に覆われた
獣たちは寄り添って眠る
お互いの毛皮をもふもふと貪り
幸せに目をアーチに閉じて
彼らの境目に手を挿し入れたなら
ひと時に味わう
柔らかみ
温かみ
そして
思い出していく
浅い記憶から深い記憶へと
遡り
父母から祖父母から曽祖父母から高祖父母……
遥か数万年を遡り
我らが獣だったころの記憶
春に
父母は兎分け合い
乳をやり
仔は無心に眠り
朧の野に草花満ちる
夏に
水に喜び入り
魚噛み
転げまわり
蝉鳴く清流の深緑
秋に
巣穴を守り
芋を蓄え
子と別れ
豊かな山野は錦の色
冬に
巣穴で睦み合い
寄り添って眠る
新しい命の予感と
雪原の荘厳
今思い出すのは
失われしもふもふだった頃の記憶
知恵と引き換えに
失った獣としての幸せな世界と心