唯の綺麗ごとかも知れないけれど「すべての夢に」
あの日 吹き殴る激しい風が吹き
小さな君がかいた絵や
あの日の笑顔の満ち溢れた写真を
千切れ千切れに 粉々に 手の届かない遠くへと
吹き飛ばしてしまった
あの日 天の湖の底が抜けたような たくさんの雨が降り続き
あなたのお母さんの 大好きな 台所の 温かさを
あなたのお父さんの 大好きな 庭の 土をすべての緑を
どううどううと うねり叫ぶ大きな手のような濁流となって
もみくちゃにして 形も色もなにもかも なくなって
遥かな世界の果てへと 押し流してしまった
あの日 地球という大きな一枚の円盤が 突然に まったく突然に 無慈悲に 不条理に 真っ二つに 割れてしまった
みんなの大好きな 安らぎと慈しみと温かみとときに厳しさとそれでも優しさと立ち向かう勇気と受け止める重さと
そして
背筋の伸びた 畑を頑張っていた優しいおじいちゃんと
背中の丸くなった おじいちゃんと一緒にがんばっていた優しい おばあちゃんと
怒ると怖いけどいつもぼくやわたしや兄弟たちのことを考えて働いて頑張っていた おとうさんと
優しくていい匂いがして時どき怒るけどいつもは明るく笑っていた おかあさんと
いつも優しくていつも僕の味方をしてくれた おにいちゃんと
なんだか綺麗になってでもこっそりいつでも優しくしてくれた おねえちゃんと
我がままでおとうさんやおかあさんや兄弟をこまらせていたけどみんなが大好きだった ぼくと
いつも喧嘩していたけど本当はお兄ちゃんが大好きだった おとうとと
あまりかまってやれなかったけれど一度だけままごとをしてなかせてしまった いもうとと
私たちを信じて尻尾をふった素晴らしい犬たちと
私たちにゆったりとした温かみとと感触をくれる美しい柔らかな猫たちと そのほかの様々なペットであったものたち
暗い嵩高いゆっくりとしたしかし誰も止められない水という化け物が 何もかもを呑みこんでしまう大きな大きな口を開けて
防波堤を 呑みこんで
船を 呑みこんで
道を 呑みこんで
車を 呑みこんで
家を 呑みこんで
消防署を 呑みこんで
警察署を 呑みこんで
病院を 呑みこんで
学校を 呑みこんで
畑を 呑みこんで
田んぼを 呑みこんで
死ぬことも 呑みこんで
生きることも 呑みこんで
暮らしも 呑みこんで
学びも 呑みこんで
遊びも 呑みこんで
仕事も 呑みこんで
誰も彼も 呑みこんで
なにもかも 何一つ 残さないで 呑みこんでしまった
私たちは 今も 呑みこまれたまま
地球という円盤は まだ割れたまま
無慈悲は まだ 人々の顔を撫でまわっている
不条理は まだ 見渡す限りの 風だけが住んでいる
この跡かたの 街に 種を植えることを 許さない
全ての夢たちは 今も深い深い海の底に眠っている
私たちの 夜が 来て 眠りのなかで 裸になって
深く 深く どこまでも 深く 潜っていったなら
そこには ある
古の昔より 人類が 滅びの刹那のたびに 蓄えてきた
真実の この先一万年たっても かわることのない
仄かに 灯る 明かり
ぼくらの大好きな 浜辺
いつもかけていた 野山
みんなで暮らした 街
みんなの命
みんなの心
みんなの夢
すべての種が まだここにある
この種を植えよう
不条理に逆らって 無慈悲の手を振り払って
この時代の種から 呑まれてしまったすべてのものたちの
夢をこめて 歪な芽を芽吹かせよう
やがて葉が伸びて実がなれば
その実を分けよう
全ての夢がつまった実
全ての心がつまった実
全ての哀しみがつまった実
全ての怒りがつまった実
全ての諦めが詰まった実
全てのうらみが詰まった実
その実をフライパンで炒って、ばりばり塩を振って食べてしまおう
なんども なんども かみしめて
こんなに こんなに かみしめて
ぎりぎり ぎりぎり かみしめて
泣いてる人も かみしめて
震える人も かみしめて
死にたいひとも かみしめて
どうしていいか おろおろしている人も かみしめて
みんなで 一斉に 飲み下してしまおう
美しい 澄んだ 水 一杯で 飲み干してしまおう
それから 明日を 考えたらいい
明日の 朝日を 見たらいい
朝の 憎い憎い 無慈悲な 不条理な 虐殺者の 独裁者の
綺麗な 輝く海を 見たらいい
吹いてくる 勝手な やくざな 爽やかな 清浄な 風を感じたらいい
落ちてくる 痛い いうことを聞かない 重たい 全て洗ってくれる 潤いと恵みをもたらす 雨に濡れたらいい
何もわかっちゃいませんが、せめて詩だけでも届け。




