第1章 8話
「うぐ・・・まあいい、どうせ夢だしな!こうなったら何でも聞いてやろうじゃないか!?」
と、覚悟して気構えた。
「本当に夢じゃないんだけどな・・・」
と、自称クー太も不満そうにぼそりとつぶやく。
「でもまあいいか、それじゃあ勝彦君!いきなりでびっくりさせたけど、たしかに私・・・いや僕は、12年前、西田家で飼われていた犬のクー太なんですよ!」
「それにしても・・・・よくできた夢だよ。あのクーちゃんが夢に出てくるとはね、しかも人間の姿になって・・・」
あくまで信じられない勝彦は、スタスタと少年に近づき、自称クー太をまじまじと見つめた。
「・・・いや、夢じゃいないですから!それに人間の姿なのは、ちゃんとした理由があるんですよ。うーん、そうだな・・・どうしたら信じてもらえるのかな?」
自称クー太は、腕を組み真剣に考え込んでいる。
「そうだ!犬だった頃、よく散歩に行った川の堤防を覚えていますか?」
そして、自称クー太は思い出したかのように堤防の話を始めた。
「ああ、覚えているとも。確かボールを探すのが大好きで、いつも何処からともなく見つけてきたよな!」
「そうそう、僕も楽しくてついつい、怒られながらもボールを見つけて来たものさ!」
「だよなー、今でも実家の倉庫には、クーちゃんが見つけてきたボールが山積みになっているしな!」
「本当?いやあ、懐かしいなあ、まだ残っているなんて、とってもうれしいよ!」
「で、そのクー太が何で化けて出てきたんだ?」
勝彦はテンポよく自称クー太に質問する。鋭く質問すれば、すぐにボロが出るはずだと思った。急に質問を振れば、もしかしたら何かしらの本音と確証が出るかな?と思ったからである。
「・・・いや、だから、お化けでも夢でもないんだってば!今、一緒に思い出話したじゃないですか!?」
と、自称クー太はすぐに突っ込む。
「そりゃ俺の夢だからな、そういう記憶もあるだろ!」
と、ぷいっと顔を背けて、勝彦はあくまで信じないそぶりを見せた。
「そんなあー、どうしたら信じてもらえるんですかああ・・・?」
自称クー太は、信じてもらえなくて悲しそうな顔をしている。それを見て、勝彦はすぐに顔をそらした。
(ダメだ!こいつの目を見てはいけない・・・)
勝彦は自称クー太の悲しそうな顔を見て、少したじろいでしまう。
勝彦はあくまで信じるつもりはなかったのだが、自称クー太という少年の悲しそうな顔を見ていると、どうも何だかチャンスを与えてやりたくなってしまうのだった。
「そ、そうだな・・・、じゃあ俺の質問にちょっと答えてもらおうか?」
と、つい勝彦は自称クー太に心動かされてしまった。
気づかないうちに、勝彦は自称クー太の術中にかかってしまっていた様である。
だが、それと同時に、みすみす純粋な自称クー太の術中にかかってしまった勝彦では無かった。
逆に質問を多く出せば、逆にボロが出るんじゃないかとも思っていたからである。
もし、本物のクー太ならば自分の知らない記憶を知っているはずである。
それを聞けば、逆に自称クー太が言っている事が本当か嘘か分かるチャンスだとも思っていたのだった。
「わかりました。いいですよ!」
自称クー太は自信満々で答えた。
そんな自称クー太をよそに、勝彦は自称クー太からボロを出させるため、テンポよく多くの質問を浴びせる事を考えていた。
そして、勝彦は一息深呼吸をして身構えた。
「じゃあ、言うぞ!」
「はい、いつでも!」
「クー太が好きなドックフードは?」
「A社の骨太君!!」
「好きな散歩コースは?」
「山池公園!!」
それから、勝彦は何十個かの質問を繰り返した。
その中で、勝彦が(どっちだろう?)と、悩むような質問も少年はすらすらと答えていく。
その的確な受け答えを見て勝彦は(もしかしたら、こいつは本物なのか?)と、少しだけそう思えるようになっていた。
「どうですか?満足していただけましたか?」
クー太は、ここまで勝彦の質問を数多く答えている。そして、そのすべての答えは的確だった。
「むむむ・・・なかなかやるな!この俺の妄想め!」
「だから、妄想じゃないってば!!」
クー太は激しく否定をする。
ここで勝彦は、とっておきの最後の手段を取ることにした。
昔の質問をするにつれ、クー太との昔の思い出がよみがえり、昔のクー太の癖を思い出していたからだ。
「よーし、これならどうだ!ハイ!お手!」
と、手を差し出した。
すると、「わん!」すぐに自称クー太は手を差し出した。
その動きはなめらかで、とても人間の動きとは思えない。
「はいお座り!」「わん!」「伏せ!」「わん!」クー太はすぐに座って、すばやく伏せる。
「おおおおおお!」
勝彦は手を叩いて感心した。
滑らかに動くこの少年は、確かに今、クー太のような動きをしていた。
「もうー!何をさせるんですか!?」
と、自称クー太は抗議した。
(でも、そういう割には、かなりいい線いってたぞ・・・!?)
この少年は、確かにクー太と言ってもいいようなクセっけのある動きをしていた。感心しながらも、勝彦はもうクー太という事を信じ始めていたのだった。