第2章 76話
「え、いや、その・・・」
勝彦は、突然声をかけられた驚きと、一人でアルテミスとの会話を聞かれていた恥ずかしさで、答えに困ってあたふたしてしまった。
「ホント、妹が言っていた通り、お前・・・変わった奴だな!」
その男は鋭い目付きで、勝彦の事をジロジロと見つめて言ってきたが、ここで勝彦はすぐに冷静になる。
(誰だこいつ?こんな奴この家に居たっけ?)
昨日・・・・この家にはジャネイロとネコウネと子供達しか確認していない。そのほかの使用人は、年老いた老婆がいるだけである。
それに、この男は勝彦の事を「妹が言っていた通り・・・」と表現した。どうやら、この男は勝彦の事を知っている様である。
(妹?この人は何を言っているんだ!?俺の事知っているのか・・・・?)
「ん?どちら様ですか?」
勝彦はすぐにその男に尋ねてみる。
すると、その男は冗談はやめてくれよと言わんばかりに反論をする。
「おいおい、もう忘れたのか?昨日少しだけ会っただろ!?シンシアを迎えに来た時に・・・!」
そう言われて勝彦は昨日のシンシアを迎えに来たお兄さんを思い出した。牛の様な動物に乗って金髪がたなびく男は・・・・まさしくこの男そのものだった!
「ああ!!」
ようやく勝彦は思い出したのだった。
確かに、この男は昨日のシンシアを向かいに来たお兄さんと同じ顔をしている。
(そういえば昨日、ろくな挨拶もせずにシンシアを迎えに来て、そそくさと帰って行ったんだっけ・・・? )
「そういえば、そうっすね。えーと・・・たしか・・・」
勝彦は必死に思い出そうとするが、どうしても名前が思い浮かばない。そもそも、自己紹介をしたのかどうかもあやしい。
「俺はアイレス・アルゼン。アレスって呼んでくれたらいい!」
と、手をさし出してくる。勝彦はその手を掴みながら立ち上がった。
「こ、こちらこそ、よろしくアレス!俺は西田勝彦っていうんだ。俺も勝彦でいいよ!」
そして、アレスと握手をする。
「実は妹に頼まれてな、今日はお前達を手伝ってやろうと思って来たのだけど・・・早すぎたかな?朝早くに出発すると聞いて来たんだが・・・」
と、アレスが言い終わる前に、小屋の外からまた別の声が聞こえてくる。
「いや、そんな事ないよ、ちょうど勝彦達を起こしに行こうと思っていたとこさ!」
勝彦がアレスと握手をしていると、アレスの後ろから小屋に入って来るジャネイロがいる。
「ジャネイロ!?」
ジャネイロが小屋の中に入り、アレスと勝彦の元に来ると、アレスはすぐにジャネイロに昨日の事を謝罪した。
「昨日は悪かったな!せっかくの二人っきりの時間を!」
と、アレスがジャネイロに向けて手をさし出す。
「いや、別にいいよ!」
と言って、アレスとジャネイロは手を叩いて挨拶をした。二人は笑顔である。
「それより、君こそ良かったのか?もうすぐ・・・行くんだろ?」
ジャネイロは、アレスに意味ありげな顔つきで尋ねる。
横で聞いている勝彦は、何の話をしているのかさっぱり分からない。
「ああ、でも丁度体がなまっていたからな、いい運動になるよ!」
「そうか・・・じゃあ頼むよ!」
「おう、任せとけ!」
結局勝彦は、二人が何を話していたのかさっぱり分からなかった。
でも、二人が目を合わせて納得している光景を見て、勝彦は羨ましく見ていた。それは、本能的に二人は親友なんだと悟ったからである。
そして、ジャネイロは勝彦の方を見て話しかける。
「やあ、おはよう。朝起きるのが早いんだね、起こす手間が省けたよ!」
「いやあ・・・」
ジャネイロに褒められて、勝彦は戸惑っていた。
本当は普段の不規則な生活が祟り、たまたま朝早くに目が覚めただけである。早起きなんて上等なものではない。
「ところで勝彦、もうすぐ出発しようかと思っているんだけど、お連れさんはどうしているかな?」
と、ジャネイロがクー太の事を聞いてくる。
そう言われて勝彦は、クー太がぐっすり眠っているのを思い出していた。
(えーと、クー太の奴か・・・そういえばまだ寝ているな・・・)
それを思い出して、もう少し眠らせてあげたいと思ったが、ここでクー太を起こさないと出発できない。
しかも、ダークマターを手に入れる為の大事な用事である。これは無理やりでも起こして出発しなければならないと勝彦は思った。
(・・・仕方がない!起こしに行くか!)
と、ここで勝彦はクー太を起こしに行く事を決心した。
「すみません、俺、起こしてきますわ!」
そう言って勝彦はその場を離れて行く。
そして、すぐにクー太が寝ている部屋に走って向かったのだった。
それから、勝彦が部屋に戻ってみると、やはりクー太はまだぐっすり眠っていた。
(まったく、こいつホントよく寝るよな・・・まあ寝る子は育つって奴か・・・)
よく考えてみれば、冥王星を出てから宇宙船の中にいる時も、クー太は寝てばかりいた。
最初こそ一緒に話をしたりしていたが、勝彦が寝てから起きると、そこにはクー太はいなかった。
どれだけ待っていても、クー太は起きて来ず、ツキタカが来る直前になってようやく起きて来たくらいである。




