第2章 73話
「お帰り!ジャネイロお兄ちゃん!」
「お帰りなさい!ジャネイロ様!」
門を開けるのと同時に、多くの子供達が待ちわびていたかの様に、ジャネイロに飛びついていく。
何人もの子供達に飛びつかれて、ジャネイロは押し倒されてしまった。
「うわ!ちょっとみんな!今日はお客様がいるから静かにしてくれよ!」
押し倒されたジャネイロの上に、次々と子供が覆いかぶさっていく。それを見て、ひとりの少女が子供達に注意した。
「みんな!ジャネイロ様のお客様に失礼ですよ!離れなさい!」
その少女は、子供達を叱りつけながらジャネイロの元に駆け付ける。すると、その一声で子供達は大人しくなっていく。
「ごめんなさい、ジャネイロ様!お客様が来ているなんて思っていなかったので・・・」
「いや、いいよ!ありがとうな、いつも皆をまとめてくれて!」
ジャネイロは起き上がりなら、その少女にお礼を言った。その少女は、ジャネイロに飛びついている子供達より一回り年上で、見た目の年齢はおそらくクー太と同じくらいである。
「いえ、そんな・・・私はジャネイロ様に受けた恩をお返ししたいだけです・・・・」
と、ジャネイロに褒められたその女の子は照れていた。それを見て勝彦は、この少女はジャネイロの事が好きなのかな?と思ってしまった。
何故なら、見ていて分かりやすい反応をしている。それに周りにいる子供達も、(また始まったぞ!)みたいな視線を少女に向けているからだ。
「いやいや、アンが居てくれるからこそ、皆が明るく元気にいられるんだ!それに、君も昔の様に、僕の事、様づけじゃなくて普通に呼んでくれても構わないんだよ!」
ジャネイロは、優しくアンという少女に微笑みかける。
「いーえ・・・・私は、決めていたんです!一人で歩いていた私を拾ってくれたあの日から、死ぬまでジャネイロ様に仕えようって!だから、もう子供の時の様な呼び方は致しません!」
と、彼女の決意に満ちた表情は、確かに子供には見えない。
勝彦はその少し幼さが残る少女を、マセているなと思いながらも感心して見ていた。
こんな小さな少女が、ここまでの決意を持ってジャネイロを慕っているのである。
勝彦は、成り行きでジャネイロのお世話になる事になったが、ジャネイロと知り合いになれてやっぱり正解だったかもしれないと内心思い始めていた。
「まずは、ネコウネさんの様になりたいです!そして、ジャネイロ様のお役に立ちたいのです!」
アンは真剣な眼差しをジャネイロに向けている。
「そうか・・・・ありがとうな!」
ジャネイロは、アンの頭を軽く撫でてやっていた。
するとアンは、最大限の笑顔をジャネイロに向ける。その姿を見て、勝彦は不敵な笑みを浮かべる。
何故なら、勝彦の心の中でジャネイロに幼女マスターの称号が追加されていたからである。
(こいつは、ホント色んなステータスを持っているな・・・)
だが、それを微笑ましく見ていた勝彦に、横から服を引っ張られている事に気づく。
「誰・・・・?」
気が付くと、小さな男のが勝彦の目の前に立っていた。ジャネイロの元にいるアンに比べると、ずいぶん幼い男の子だ。
すると、その子供に気づいたジャネイロがすぐに勝彦達を紹介する。
「ああ、旅の方だよ!名前はクー太と勝彦だ!」
「こんばんは!」
「よろしくな!」
勝彦とクー太は、子供達に笑顔で挨拶をした。だが、子供達の一人が勝彦を見て不満そうに答える。
「えええ!ホントにこの人がジャネイロお兄ちゃんのお客様?こっちの人はともかく・・・」
その子供は、目線をクー太の方から勝彦の方に向けると不満そうに言った。
「こっちの人はかなり頭悪そうだよ!」
「うぐっ!」
(このクソガキ!!生意気な奴め!)
勝彦はその子供に対して、怒鳴りつけてやろうと思ったが、途中で言葉を飲み込んだ。こんな幼い子供に、本気で怒ったら情けなくなるだけである。
「こらこら、お客様に失礼なことを言うもんじゃない!」
子供の率直な言葉に、さすがのジャネイロも子供達を窘める。
「ここは私に任せてください、ジャネイロ様!」
アンがジャネイロの前に出て、子供達の所に行く。
「さあ、みんな!ジャネイロ様はこれからお客様のおもてなしをするんだから邪魔しちゃいけないよ!私達も夕ご飯の準備を始めないといけないわ!」
と、アンがそう言いながら子供達をまとめて連れて行こうとする。さすが幼女マイスターであるジャネイロの事を慕っているだけの事はある。
「ええ、ジャネイロお兄ちゃんはー?」
一人の子供が、ジャネイロの事を聞く。
「今日は、お客様と食べるから私達は別よ!」
「ごめんな・・・みんな、しばらくの間だけだから・・・・」
と言ってジャネイロは、子供たちに手を振って見送った。どうやら、いつもは子供達と一緒にご飯を食べている様である。
勝彦は、「別に一緒でもいいぞ!」と言おうとしたが止めた。
ついさっき子供に馬鹿にされたのを思い出したからだ。
一緒にご飯を食べたら、何を言われるか分かったものじゃない。それに、うるさくて落ち着いてご飯を食べる事が出来ないとも思ったからだ。
多分ジャネイロも、そうなると思ったから別々に食べるんだろう。
「はーい!」
子供達はアンに従って素直に奥の建物のほうに帰って行った。それを確認して勝彦は、ジャネイロにすぐに言った。
「なんだよあいつら、失礼なガキ共だな!」
本当はすぐに言いたかったが、ずっと我慢していた。子供に本気で怒るのはさすがに気が引けたからだ。
「ごめん、ごめん、彼らも悪気はないんだ。ただ・・・みんな親のいない孤児達なんだよ!」
「・・・・・」
勝彦はそう聞いて何も言えなくなった。
さっきまでの怒りも急に萎んでいく。
そもそも、孤児なんて、平和の日本ではほとんど見た事がない。あっても離婚して片親だけとかである。
でも・・・この時代の、この国では・・・普通の事何だろう。勝彦は、地球の日本との違いに少し戸惑っていた。
「僕の家は広いからね、一人では広すぎるから、屋敷の一部をあの子たちに開放しているんだ!」
ジャネイロは、屈託のない笑顔で微笑んだ。
それを見て勝彦は、ジャネイロは本当にいい奴だなあと感心していた。(リア充野郎だけど・・・)
すると、横で聞いていたクー太がジャネイロに話しかける。
「へー、すごいですね。僕、ジャネイロさんの事、尊敬しますよ!」
クー太はジャネイロに目を輝かせて言った。
(クー太の奴、またジャネイロを見ていやがるな・・・・もしかして、ジャネイロの事が好きなのか?)
「い、いやーそんな事ないよ・・・」
ジャネイロも照れていた。勝彦は、二人のやり取りを見ていて何となく機嫌が悪くなった。
「ふん・・・彼女いて、男前で、性格よくてよ・・・別に俺はうらやましくなんかないですよ!」
と、こっそりつぶやく。勝彦の顔はぶすっとふくれていた。
(いや、本当はめっちゃ羨ましいです・・・はい・・・)
「うん?何か言った?」
勝彦の態度に気づいたクー太が尋ねた。
「別に・・・」
勝彦はぷいっと振り向く。
だが、勝彦が振り向いた後、気が付くとジャネイロの目の前に勝彦やシンシア、ジャネイロと同い年くらいの美しい女性が現れていた。




