第2章 61話
「勝彦君!勝彦君ってば!」
「う、うーん・・・あれ?クー太…?」
気が付くと、クー太が勝彦の体を起こして呼びかけていた。
「よかったー。長距離転送が終わった瞬間、急に気を失って倒れたから僕びっくりしたよ!」
「え・・・?」
(転送が終わった瞬間・・・・気を失って倒れただって?じゃあ、さっきのあれは一体・・・?)
「長距離空間転移は、問題なく成功しましたから、異常はないと思うのですが・・・」
アルテミスも、心配そうに勝彦に声を掛けてきた。
「俺は・・・夢を見ていたのか・・・?」
勝彦はキツネにつままれたかのようにきょとんとしていた。さっきの女性は一体誰だったのか?ふと、目線をミサンガに移して見てみたが何も変化はない。何も輝いてもいない・・・何も変化はなかった。さっきのあれは何だったのだろうか?
「夢・・・?」
ボー然としていると、クー太が不思議そうに勝彦の顔を覗き込んでくる。
「いや、なんでもない。それで、ワープは成功したのか?」
勝彦はクー太の手を借り立ち上がった。
「はい、私達は地球から、約300光年程の所にいます。地球から見て、さそり座のサルガスという恒星の近くに来ています」
と、アルテミスが勝彦の質問に答えてくれた。
「冥王星の追っ手は?ちゃんと逃げ切れたのか?」
「おそらく大丈夫でしょう!後から我々が転送をした場所に行っても、彗星の影響で重力場の感知はできなくなっているでしょうから!」
「ふーん、で、さそり座・・・?何て言う星に来ているんだっけ?」
「サルガス・・・ですか?」
「そうそう、そのサルガスだっけ?何だか・・・サルが住んでいそうな名前だな・・・」
「いえいえ、サルどころか、ちゃんと人間が住んでいる星がありますよ」
「ヘッ!?マジで!?それじゃあ、サルガス星人がいるという事なのか?」
「うーん、あくまで、サルガスは恒星の名前なんですけどね・・・」
アルテミスが困った声を出している。
(ん、違うのか?)
「サルガスにとっての地球って事で、まあ、サルガス星人としておきますか・・・」
アルテミスは、勝彦の表現に不満がある様だったが諦めてしまった。それを聞いて勝彦は、また馬鹿にされたと思って少しイラッとした。
「でもまあ、会うどころか、おそらく会話する事になりますよ!これから、サルガスの人が住んでいる惑星に降りないといけませんからね!」
だけどすぐに気持ちは興奮に切り変わった。地球から遠く離れた星で、クー太や冥王星で会った人以外では初めての宇宙人である。勝彦は何となくワクワクしていた。
「へ、マジで!すごいな・・・それで、何でこんな所に来たんだよ?」
サルガスという星も気になるが、そもそも何故?ここにワープして来たのかを勝彦は先に聞いておこうと思った。さっきまで散々ワープ前に話し合った結果が、何故ここになったのかを知りたかったのだ。
「もちろん、これからそこに降りるからですよ。勝彦殿は知らないとは思いますが、超長距離超空間転移を行うためには、ダークマターが必要なんです。その、ダークマターを摘出して、エネルギーに変換し、そして、転送を行うのが超長距離超空間転移なんです」
「と、いうことは・・・・俺はこれからサルガスに降りて、サルガス星人に会えるんだな・・・?」
勝彦は、アルテミスが言っている意味の半分も理解していなかったが、今から行く星に降りるという事は理解した。
勝彦とアルテミスが話していると、クー太が勝彦に話しかけてくる。
「そっかー、そうだよね。勝彦君は、地球圏以外の星に行くのは初めてだったよね。でも・・・僕もサルガスという星を知らないな・・・銀河系のこっちの方は、あまりベルウイング星とは交流がないからね。それで、アルテミス、サルガスってどんな星なの?」
クー太は勝彦に話しかけたものの、自分もこれから行く星の詳しい事を知らないみたいで、詳しい情報をアルテミスに尋ねた。
(なんだ、クー太もサルガスという星を知らないのか・・・?)
クー太の質問に、アルテミスは3Dスクリーンを出して説明を始めた。
「はい、サルガス太陽系は、地球から見て、さそり座の尻尾の部分の恒星です。地球からの距離は、約300光年、恒星の大きさは太陽の20倍の輝巨星になっています。そして、公転している惑星は、地球型から木製型まで約24個の惑星が回っています」
アルテミスがクー太に、すらすらとサルガスの事について説明をしてくれる。勝彦もその横で一緒になって聞いていた。そして、サルガスの大きさや規模を聞いて驚いた。
「太陽の20倍?結構でかいな・・・しかも、惑星が24個もあるのかよ!?」
「はい、そうです。今から向う星は、サルガスの周りを回る第13番目の惑星なのです。そこには、海があり空気があって多くの人が住んでいます!」
「人が住んでいるのか・・・俺たちの地球のように・・・?」
「はい、地球ほど人は住んでいないですけどね・・・」
勝彦は、流れゆく宇宙を眺め、地球を出る前に見てきた地球の光景を思い出していた。あの青い地球のような星がここにもあるのか・・・と、感慨にふけっていた。
「それにしても、地球から300光年・・・結構離れた所まできたなあ・・・」
単純計算すれば、光の速さでも地球から300年かかる所である。はっきり言って、そう簡単に戻れる距離ではない。
「けど・・・この先の事を考えたら、まだまだ先なんだよな・・・」
勝彦はもう後戻りできない位遠くに来てしまった事を自覚した。そして、宇宙を眺めながら、これからの長い旅路を覚悟する。
「あ、そうそう!勝彦君。言い忘れたけど・・・シンピ星は、直線距離で5万8千光年って言ったけど、実際は、銀河系の中心のバジルを大きく回って行かないと駄目だから、片道で8万光年くらいの旅になると思うよ!」
「8万光年!?という事は往復で16万光年か?そんなに遠いのかよ?そう言う事は先に言っておけよ!そんな話聞いてないぞ!?」
(俺はそんな話は聞いてない!そんなに遠かったら、地球に行って帰ってくる頃には、地球は滅んでしまうんじゃないのか?こんなに悠長にしていて、ホントに大丈夫なのか?)
新たな事実を知って勝彦は一気に不安になる。これからの旅路を考えただけで不安で一杯になった。
でも、クー太は明るく勝彦に答える。
「大丈夫!!ダークマターを使って飛べば、一度の超長距離空間転移で、5千光年から最大1万光年まで飛ぶことが可能だから、特に問題はないですよ!」
それを聞いて勝彦は一安心する。どちらにしても、旅の計画はクー太とアルテミスに任せている。今更心配したところで仕方がない。とにかく、シンピ星に一年で行って帰って来れれば問題ないのだ。
(そう言えば・・・・さっき空間転移する前に、アルテミスはより遠くに飛べるって話をしていたよな・・・)
ここで勝彦は、冥王星で言っていたクー太の言葉を思い出した。今言ったクー太の話は、これの事だな!と勝彦は思ったのだった。
元々、地球から往復10ヶ月で行ける事は聞いている。でも、それをどうやって実現するのかが分からない。今聞いたクー太の話だと、ダークマターというものを使えば実現可能だという。だったら、何も心配する必要はないのかな?と、ここでようやく勝彦はクー太達が言っている事の意味を理解したのだった。




