第2章 54話
「ところで勝彦殿は、ボイジャーって知っていますか?」
と、ここで結局アルテミスは話を変えてくる。もちろん、それに合わせて勝彦も考えを改める。
気分は悪くなったが、自分が馬鹿なのは認めている。それをいちいち気にしていては話が進まない。
「ボイジャーか・・・?なんだか聞いた事あるな・・・」
しばらく、ボイジャーという言葉を考えてみると、どこかで聞いた事があった。たしか、小学生だったか、中学生だったか、高校生だったか忘れたが・・・確かに学校の授業で習ったような気がした。
「ボイジャーは、今現在地球が作ったものの中で、初めて太陽系圏を出た惑星探査衛星です」
と、アルテミスは勝彦が答える前に答える。
(やけに話を進めるな・・・)
と、勝彦は思ったが気にせずに話を合わせる。
「ああ、そういえば、学校の授業で聞いた事あるな・・・」
アルテミスに言われたからではないが、確かに学校の授業で聞いた事があった。
その昔・・・と言ってもそんなに昔ではないが、理科や地理の授業などの教科書に、木星や火星の写真の下の所に(ボイジャー撮影)って書いてあったのを思い出したからだ。
(うーん、あれがボイジャーだったんじゃないのかな!?)
「1977年に、アメリカから打ち上げられた宇宙探査機の事です。今から53年前の事ですね」
「へー、ずいぶん昔だな・・・」
(それにしても、何でアルテミスはボイジャーの話を急にしたんだ?)
勝彦には、アルテミスの意図が全く掴めず一応感心しながらお茶を一口飲む。
「実は・・・そのボイジャーが今、横を飛んでいますが、見て見ますか?」
「ぶうううううう!んぐゴホゴッホゴッホ!」
とお茶を豪快に吹き出す。あまりにも衝撃過ぎて、お茶を吹きだしてしまったのだった。
そして、むせながらもアルテミスに聞いてみる。
「は?・・・マジで!?」
(今・・・アルテミスは、ボイジャーが横を飛んでいて、ミ・テ・ミ・マ・ス・カ?って言ったのか?じょ、冗談じゃないよな・・・!?)
勝彦は一瞬時間が止まったかのように感じた。今聞いた自分の耳が信じられなかったからだ。
「マジです!今ちょうど近くを通りかかったので、スピードを落としています。相対速度を合わせているので、真近で見る事が出来ますよ!」
と、アルテミスは勝彦の質問にわせる様に答える。
そして、アルテミスは勝彦の「マジで?」に対して「マジです」と言って返してくれたのに、勝彦はそんなお茶目なアルテミスに対して反応する事も出来ずに返事をする。
「ぜ、ぜひ見せてくれよ!っというか、地球人類もすごいな!こんなとこまで衛星を飛ばしていたなんてよ!」
勝彦は感心していた。そして、アルテミスの思わぬ提案に狂喜した。
アルテミスが普通に喋りかけてくるから、何だろうか?と思っていたが、ボイジャーを見る事が出来るなんて勝彦は思ってもみなかった。何もする事な無かった勝彦にとって、うってつけの暇つぶしである。
勝彦は、座っていた席から立ち上がって、さっそく映し出している宇宙空間を見てみる。
すると、宇宙空間の奥から人工衛星みたいな姿がどんどん近づいてくるのが見えてくる。そして、その姿はやがてはっきり見えるくらい目の前に近づいてきたのだった。
「へえー、これがボイジャーか!」
今、勝彦の目の前にボイジャーが見えていた。
目の前に現れた衛星は、ほとんど新品にちかくて、とても半世紀前の物とは思えない。ただ・・・ほんの少し古めかしい感じがする。
「この衛星には、ゴールデンレコードと言って、地球の言語や、音楽など、様々な記録媒体が搭載されているのです」
と、アルテミスは説明を始める。
「へー、何でそんなものを乗せているんだ?」
「我々に向けてですよ!つまり、遠い宇宙人に向けて、地球の文明を知らせるために、ゴールデンレコードを載せているのです」
アルテミスは淡々と説明をする。
それを勝彦は、不思議に聞いていた。宇宙人に向けたメッセージを送る前に、すでに宇宙人は地球に来ていたからだ。
「おお、すげーじゃん!って言っても、本当はすでに宇宙人は地球を出入りしていたのにな!」
「そうですね!でも・・・もし地球が滅びる事になったら、これが地球最後の遺産となりますね・・・」
と、アルテミスは後から付け加える。それを聞いて勝彦の表情は曇る。和やかな空気は、しんみりとした雰囲気に変わる。
「ああ・・・そっか・・・そう考えたら結構重要なんだな・・・」
と、目線をボイジャーに移すが、ボイジャーは星々が輝く暗闇の中を、ただ黙々と漂っているだけである。
勝彦は、地球が滅びると聞いて冥王星で会った皆を思い出してボイジャーを眺めていた。
(もし・・・・一年後に地球がなくなったら・・・・地球で作られた構造物はこのボイジャーだけになってしまうのか・・・・。このボイジャーを作った人は、こうなる事を分かっていたのかな?数十年後には・・・・地球が滅んでしまうかもしれない事を・・・)
勝彦は、悔しそうにボイジャーから目をそらした。地球の事を考えていたら、見ていられなかったからだ。
でも、そんな勝彦に向かってクー太の叫び声が後ろから聞こえてくる。
「でも、勝彦君なら必ず地球を救う事ができるよ!!」
後ろを振り向くと、眠っていたはずのクー太が部屋に入ってくる。クー太は、もう女の子姿のリリアではなく、また、元の男の子の姿に戻っていたのだった。
「お、クー太じゃん。もう女の子の姿にはならないのか?」
勝彦は懐かしさで声をかける。
「うん、やっぱり僕は勝彦君には、クー太って呼ばれたいですからね!」
クー太は部屋に入ると、喋りながら勝彦の前まで歩いてきた。
「ふーん、でも女の子姿も結構可愛かったのになあ・・・」
と、ぼそりとつぶやく。ここで勝彦は、女の子姿のリリアを思い浮かべていた。
冥王星でのリリアは、幼いながらも将来有望な可愛らしい恰好をしていた。だから勝彦は、男の姿に戻って少しだけ残念な気持ちになっていたのである。
そもそも、意外と似合っていたし、クー太自身も女の姿の方が慣れていたんじゃないだろうか?と、思ったからである。
(もう少し可愛いって、言ってあげればよかったかな・・・?)
何気に心の中で反省する。思い返してみても、あまりいいコメントをしてあげていなかった様な気がしたからだ。
「ほんと?じゃあ、時々は女の子になろうかな・・・」
勝彦のつぶやきを聞いたクー太は考え込む。
「その時は、胸を大きくしてもらえよ!」
考え込んだクー太を見て、勝彦はすぐに反応する。
「もう!勝彦君のエッチだな!!」
怒ったクー太は軽く勝彦の肩を叩いてくる。
「うひょー!エッチいただきました!」
と、は笑いながらクー太の攻撃をかわした。勝彦とクー太はもはや冗談を言い合える仲になっていたのだった。
最初こそ、ヨソヨソしかったけれども、冥王星の一件が二人の仲を縮めていたのである。
二人の笑い声で、艦内に和やかな雰囲気が流れる。
だが・・・・その瞬間だった!




