第1章 50話
「キャロライン・・・」
勝彦は、キャロラインに声を掛けた。それに気づいたキャロラインは、勝彦に微笑みながら言った。
「私の事はキャロリンと呼んで!みんなそういうわ!」
キャロリンは、優しく勝彦にそう言う。その顔を見て、勝彦は少しポッとした。でも、今は鼻の下を伸ばしている場合じゃないと思い、すぐに気持ちを切り替えた。
「じゃあキャロリン、君は、何故俺達に協力してくれるんだ?」
勝彦は率直に尋ねた。もうすぐアルテミスの所に到着する勝彦にとって時間がない。悠長に遠まわしに聞いている暇はなかった。
「・・・もちろん地球を救うためよ!」
キャロリンは少し考え込んで喋りだす。
「私達地球人ハーフは、地球を脱出する事は認められているけど、純粋な地球人である私の父は、連れてくる事が出来なかったの。でも・・・私の父は、私だけは生き延びてほしいと言って・・・」
キャロリンは思いつめた顔をする。
(やっぱりキャロリンも、家族に生き延びてほしいと言われているんだな・・・)
「地球が助かれば、父も助かる。それに、私は地球人だから・・・地球を守りたいわ・・・・いや、私だけじゃない!あなたの演説を聞いた冥王星中の地球人が、あなた達を解放して、地球を救いたいと思っているはずよ!」
キャロリンは勝彦に激しく訴えた。そして、横で聞いていたリリアが答える。
「勝彦君の演説が、みんなを動かしたんですね・・・」
リリアが、キャロリンに言った。
「ええ、みんな・・・・元々地球を救いたいという気持ちはあったのよ。でも、みんなどうすればいいか分からなくて諦めていたの!だから・・・・地球人のみんなは貴方たちにすべてを託したのよ!・・・どうか、地球を救って勝彦!」
キャロラインの真剣な気持ちは俺の心に突き刺さった。勝彦は、改めて地球人達の思いを背負う覚悟を決めていたのだった。
「ああ、わかったよ・・・みんなの思い、確かに受け取ったよ。俺は必ず地球を救うために戻ってくるよ。そして、君の想いも、ちゃんと背負って必ず地球を救ってみせるよ!!」
勝彦は、キャロリンに優しくそう言った。地球を思う気持ちは皆同じだったのである。勝彦が思っていた(冥王星にいる地球人は、みんな逃げ出そうとしている)
という当初の自分の考えは完全に間違いだったのである。
(俺は馬鹿だし、勇気もない。覚悟だってアーロンの父親に比べたらはるかに小さかった。でも、ここ逃げてくる過程で、多くの人達の応援を聞いて、再度覚悟を決めた。俺は、みんなの想いを背負って、必ず地球を救わなければならない!)
勝彦は決意で打ち震えていた。すると、キャロリンが勝彦の顔を見て急に笑い出した。
「うふふふ・・・やっぱり貴方、聞いていた通りの人ね!」
「聞いてた・・・?」
勝彦は不思議に思って聞き返した。
(そういえば、さっきも同じ様な事言っていたな・・・?)
自分の事を知っている人って誰なんだろうか?勝彦は少し考えてみたが、まったく思い浮かばなかった。
そんな勝彦を見て、キャロリンは否定する。そして、すぐに話を元に戻した。
「ううん、なんでもない。いい!?必ず帰ってくるのよ!!」
キャロリンの言葉に、勝彦は力強く答えた。
「わかっている!」
「お願いだよ、ぜったい地球を救ってよ、救世主お兄ちゃん!」
と、アーロンはわざとらしく言った。
「だから、それはやめてくれって・・・・」
「あははっは・・・」
「うふふふ・・・」
アーロンとキャロリンは笑っていた。そして、その後ろでリリアも微笑んでいた。
「でもまあ・・・俺は必ず戻るよ!そして、地球を、みんなを救ってみせるから!」
勝彦が握り拳を作ってそう言うと、エレベーターは宇宙船の港に到着した。エレベーターの扉が開いて、外にはガラス越しにアルテミスの大きな船体が見えている。
「勝彦君、あそこを曲がれば、転送した部屋に行けるんじゃないかな?」
リリアが指をさして教えてくれた。確かに、この通路は見覚えがある。この星に着た時、通った通路である。
勝彦達は、通路を駆け抜け、曲がった先に転送装置のある部屋に入る。ここはまさしく、管理局長が出迎えてくれた部屋である。
そして、部屋に入ると、目の前にアルテミスに戻れる転送用の機械があった。この機械の上に乗れば、来た時と同じように勝彦達はアルテミスの中に転送される。ついに、俺達は戻ってきたのだった!
(ここまで来たら・・・もう、キャロリンとアーロンとはお別れか・・・・)
勝彦は、そう思うと急に寂しくなった。そして、キャロリンとアーロンの前に立つ。
「キャロリン、アーロン・・・・ここまで、ありがとう。君達の事は忘れないよ。もし、俺が地球を救う事が出来たら、君達が真の英雄だ!」
勝彦は二人にそう言った。二人がいなければ、勝彦とリリアはホテルから脱出することすら不可能だった。自分はただ、リリアに地球を救うチャンスをもらっただけで、実際に行動を起こして動いたのは二人を含めた地球人達である。
勝彦はここまで連れて来てくれたすべての地球人達に感謝していた。すると、 キャロリンが一歩前に出て、勝彦の手を取る。
「勝彦・・・これを・・・」
キャロリンは勝彦の手をつかみ、手編みの腕のリングを腕に巻きつけてきた。彼女が巻きつけている間、彼女の髪が勝彦の頬をかすめた。
(なんだかいいにおいがする・・・)
勝彦は、こんな時まで少しドキドキしていた。
「こ、これは・・・?」
勝彦の腕には、編み物で組まれたリングが巻きつけられていた。
「これはミサンガと言って、願い事が叶うおまじないよ。勝彦の事を大事に思っている人から預かってきの!」
「俺の事を大事に思っている人・・・?」
(ほんとに誰の事だ・・・?)
でも、結局聞き出せなかった。今は言えないと言ったキャロリンの気持ちを尊重したかったからである。それに、時間もない。
「いい!?あなたは絶対一人じゃない!そばには私達がいる事を絶対に忘れないで!」
「ぜったい、帰ってきてよ!」
アーロンも必死で訴えた。
「ああ、じゃあ行ってくるよ・・・」
勝彦とリリアは、転送装置の上に乗った。
「アルテミス、船内に転送して!」
と、リリアがそう言うと、一瞬の視界のぼやけと共に、またアルテミスの船内に戻ってきていたのだった。




