序章 5話
「真君―!」
向うの方で真司を呼んでいる女の子がいる。それを見て勝彦は、「霧條様!!」
と、すぐに反応してしまった。
向こうの方で呼んでいる少女は、間違いなく全校生徒のアイドルである霧條彩夏である。
彼女は、現在の生徒会長で、今日の卒業式も彼女の努力のたまもので行われていた。そんな彼女を、勝彦は尊敬と親しみを込めて「霧條様」と呼んでいたのだ。
だから、勝彦にとって、この日に彼女に出会えた事はとても喜ばしい事なのである。
(でも、彼女が呼んでいるのは俺ではない・・・)
「うん?なんか、彩夏が呼んでいるみたいだから、俺はこれで失礼します。じゃあ先輩!大学行っても頑張ってくださいね!」
そんな霧條彩夏の事を、真司は呼び捨てにする。もちろん幼馴染だから、当然と言えば当然の事なのだが、勝彦はそれが許せなかった。
(くぞー!さ、彩夏だと!俺なんか恐れ多くて霧條様と呼んでいるのに・・・)
真司は、やっとこの場を離れれるチャンスが来たと思ったのか、そそくさとこの場から離れていった。
(やっぱかわいいなー霧條様・・・)
霧條彩夏の姿を見て、しばらく見惚れていたが、真司と霧條様が話す姿を見ると、すぐに我に返って怒りがこみ上げた。
「けっ!!何が『真君!!』だよ!!見せつけやがって!今に見てろよ!」近くにあった石ころをけっ飛ばした。
「孝治!何が何でもあいつらを絶対くっつけるなよ!」
孝治の両腕をつかみ、頼み込む。今日で、勝彦はもう卒業してしまう・・・明日からは在校生ではない。
「了解です先輩。我らKS団に誓って必ずやり遂げてみせます!」
孝司は、勝彦に向かって敬礼をした。
そして、勝彦はその言葉を聞いて空を見上げた。
(そうだよ!どうせ俺は、KS団とも、高校生活とも卒業したんだ・・・明日から俺には新しい生活が待っている。俺は生まれ変わって、必ず彼女を作って、バラ色のキャンパスライフを送るんだ)
周りで、同級生がちやほやされている中、勝彦は一人、新たな志を抱いていた。
この頃の俺は・・・まだ、これから起きる幾多の苦難をまだ知らなかった・・・・。