第1章 35話
だが・・・ここで勝彦の、男の子を見つめる目付きが変わった。
(だけど、どうだ!?この子供は地球を救って欲しいと言っているし、母親に生き残ってほしいと託されている。そして・・・この子供は自分だけ生き残りたくないとも言っている)
勝彦は、この気持ちは自分と一緒だと思っていた。
むしろ、この子共の方が諦めずに地球を救って欲しいと言って行動に移している。
勝彦は、地球が滅ぶと聞いても「そうなんだ・・・」と受け入れて諦めていたくらいである。
そんな自分に、(地球を脱出する人達を蔑む資格があるのか?!嫌悪感を抱く資格があるのか!?本当に・・・地球を救うチャンスがあるのか?)勝彦の頭の中で、様々な思いが駆け巡る。
勝彦は一息入れて、改めてリリアを見つめた。するとリリアは困った顔をしている。
(リリアは何か隠しているのか?)
勝彦はもう、何が本当か分からなくなっていた。
本当に地球を救えるのか?救えないのか?どっちが本当なのか?とにかく、男の子が言った事実をリリアにぶつけてみる事にしたのだった。
「リリア・・・この子が言った事本当なのかよ?」
と、勝彦は男の子の事を差し置いてリリアに迫った。
もはや立場は逆転していたのである。
勝彦は男の子を窘めるどころか、逆にリリアに答えを迫っているのだった。
「勝彦君・・・私・・・」
でも、リリアは困った顔をして顔をそむけ、勝彦の質問に対して何も答えなかった。
肯定もしないし、否定もしない。
(という事は、この子が言った事は、本当の事なのか?まだ、地球を救うチャンスが残されているという事なのか?)
わずかな期待とは裏腹に、目の前にいるリリアはバツが悪そうにしている。何だか説明に困った顔をしているだけだ。
勝彦は、なぜリリアが何も語らないのか?その真相をさらに聞き出そうとリリアに迫ろうとする。
だが、リリアが説明に困った顔をしていると、さらに事態がおかしな事に変わっていく。
「私も地球に祖母を置いてきたんです。どうか、祖母を助けてください。お願いします」
隣の席で話を聞いていた一人の女性が立ち上がる。そして、リリアに迫る。
(なんだ?急にどうしたんだ?)
さらに違う席からも、続々とここに人が集まってくる。その人達の服装は、さっき見た地球人の様である。
「俺も、母さんを連れて来れなかったんだ!」
「私は、兄を地球に置いて来たのです!」
気が付くと、リリアの周りに次々と人が集まってくる。
勝彦は街を一望できる席に座っていたので、窓の外を見て見ると、外には多くの人達がここに集まっているのが見えた。
(ここだけじゃないのか?)
人々は、次々とこのホテルに集まってくる。もうこのあたり一帯は、大混乱になっていた。
さらに、先ほど難民施設に並んでいた行列の人達も、並ぶのを止めて、一斉にこちらに向かってきているのが見えていた。
(何が起きているんだ!?)
あまりにもの大混乱ぶりに、勝彦には何が起きているのかさっぱり分からなかった。話に困っていたリリアも、何が起きているのか分からず、茫然としている。
ただ、集まってくる人々が「おい、本当にいるぞ!」「あの噂は本当の事だったのか?」など、所々に言っていて、リリアにすがっているのである。
どうやら、勝彦とクー太がここに居る事、ここに来ることが分かっていた素振りで、多くの人々がゾンビの様にリリアにお願いをする。
「お願いです。どうか地球を助けてください。私たちは地球を離れたくないんです!」
「お願いだよ、お姉ちゃん!どうか地球を助けて!」
リリアの周りに集まってきた人々は、尚もリリアにすがっている。
次々と多くの人々がリリアにお願いにやってくるのだった。
そんな中、リリアは多くの人に取り囲まれて何もできずに困っている。
勝彦も、本当はリリアに真相について話を聞きたかったのだが、とても聞ける状態ではない。
すると、向うの方から警察らしき人達がやってくる。
「お前達、どけ!どくんだ!今すぐ解散しろ!これ以上騒ぎを起こすと、難民認定を取り消すぞ!」
そう警官達は叫びながら人波をかき分けてこちらにやってくる。
そして、その人達はリリアの前に来るとそこで跪く。
「姫様、どうぞこちらへ。管理局長の指示で騒ぎが落ち着くまで、最上階のスイートを用意しています。しばらく、そちらでおくつろぎください・・・」
と、訴える。
(管理局長・・・・あいつが・・・?)
だが、この騒ぎを収める事が出来ない勝彦達は、取りあえずその指示に従う事にした。
このまま、ここにいても何の問題も解決されない。勝彦自身も、リリアに詳しい話を聞く事も出来ない。
駆けつけて来た警官達は、その場に集まってきた人達をかき分け、通行整理をしてリリアと勝彦を誘導して先に進む。勝彦とクー太は、そんな警官に従ってついて行く。
両脇かき分けられた地球人達は、静かに勝彦達を見つめている。皆、一応に警官の指示に従っていた。
どうやら、最初に言われた「騒げば難民認定を取り消す」の、この言葉が彼らを静かにさせていたのである。
そんな彼らの悲しい目の訴えは、勝彦の、そして、リリアの心にも響いた。あれほど必死になってリリアにすがっていたのである。何も言わないのは、逆に心に突き刺さっていたのだった。
勝彦とリリアは、彼らと同じ様に悲しい目をしてその場を離れて行ったのだった。
それから、勝彦とリリアは警官達に連れられて、ホテルの最上階にあるスイートルームに入った。
その部屋は20畳ほどの大きなリビングになっていて、2階には寝室がある。リビングの先にはバルコニーがあって、そこからこの街全体が見渡せている。
本来なら、その部屋に入ってすぐに感動するだろう。
でも勝彦達は、その部屋に望んで来た訳じゃない。
バルコニーの下には、このホテルに集まった地球人達が解散せずに集まっている。みんな、リリアに希望を託しているのだった。
すると、この部屋に入って一息を入れる間もなく、案内してくれた警察官が端末機を取り出す。そして、リリアに報告する。
「姫様、ブレッド管理局長より連絡が来ています!」
「はい、繋いでください・・・・」
リリアがそう言うと、管理局長との通信映像が目の前に現れた。
「これは姫様、ご無事だったでしょうか?どこで情報が漏れたのか分かりませんが、姫様がこの星に来ている事が難民に知れわったってしまった様です。騒ぎが落ち着くまで、しばらくここのスイートで、どうぞごゆるりとしていってください!」
「あ、あの・・・・」
リリアは何か言おうとしたが、すぐに通信映像は切れてしまった。通信が終わると、ここまで連れてきてくれた警察官も部屋の外に出て行ってしまう。
そして、今は、ドアの前で警護してくれている。というか、見張られていると言った方がいいかもしれない。
ここまでの管理局長の手際がかなりいい。警官の手配といい、ホテルの部屋の手配といい、まるでこうなる事を予見していたかの様である。




