第1章 34話
「・・・・あ、そうだったな・・・」
よくよく考えてみればそうだった。犬だったクー太が寿司屋やカレーを食べるはずがない。
そういえば、犬の健康に合わせて、犬専用の健康ドックフードしか与えていなかったような気がする。
「でも、犬に人間のご飯なんて食べさせられないだろ!」
と、勝彦はすぐに言い返す。もう一度冷静に考えてみたら、別に犬なのだから当然の事である。
そもそも、日本出身の犬のクー太に日本食を食べさせる事自体がおかしい。
「いえ、特に気にしているわけではないですよ。でも・・・勝彦君と同じものを一緒に食べる事が出来るのが、とても嬉しいだけです・・・」
そう言って、リリアは喜びのあまり涙ぐんでいる。よっぽど勝彦と食事が出来てうれしい様だ。
「お、おい!泣くなよ・・・」
そう言いながらも、勝彦も嬉しかった。
リリアが・・・いや、クー太がそこまで自分の事を思っていてくれたなんて思ってもみなかったからだ。
感動して泣いているリリアの姿を見て、本当はイタリア料理を食べてみたいと思っていたが、結局リリアに付き合って、日本料理を食べる事にした。
リリアと一緒に食べて、少しでもリリアの気持ちに答えてあげたいと思ったからだ。
それから、リリアは支配人を呼んで料理を注文する。もちろん、勝彦もリリアと同じものを注文する。
そして、テーブルに来た料理は寿司である。
(なんだよ、せっかく宇宙に来てまで寿司かよ・・・)
と、勝彦は心の中でそう思ったが、声には出さない。もちろん、リリアを喜ばせたいからとても言えなかった。
でも、目の前で食べているリリアは美味しそうに食べている。
「うーん・・・あー美味しい!」モグモグと食べ、もう一口「うーん、美味しい・・・」
と、リリアの幸せそうに食べている姿を見て、実に微笑ましかった。勝彦の顔をもつい、緩んでしまう。
(まあ・・・・別に料理は何でも良かったから、まあいっか!リリアがこんなに喜んでくれるなら、それはそれで良しとするか・・・・)
それから勝彦とリリアは、二人でゆっくり寿司を食べたていた。二人の目の前には、ありとあらゆる種類の寿司が並んでいて、時には日本人である勝彦が知らない寿司も並んでいる。
(普通、寿司と言ったらカウンターで食べるのが普通なんだけどな・・・・まあ、回転寿司は微妙にテーブルだしな・・・・)
と、勝彦は寿司を食べながら少し不思議に思っていた。
見晴らしの良い窓際で、対面で、しかも高級そうなお皿に乗って持ってくる寿司を眺めて、日本の寿司とはまた違うな・・・と、思いながら勝彦は食べている。
「でもまあ、意外といけるな!これ・・・モグモグ・・・」
元々お腹が空いていたから、何を食べても美味しい。
勝彦は、次から次へとやってくる寿司を、リリアに負けじと食べ始める。
だが・・・・そんな時である。
リリアと一緒に寿司を食べていると、横から小さな男の子がリリアに向かって近づいてきたのである。
「お姉ちゃん・・・」
と、その子供はリリアに対して話掛けて来る。勝彦とリリアは、突然の事で食事の手が止まった。食事中に知らない子供に話しかけられたら当然びっくりする。
そして、男の子は涙ぐみながら、リリアの前に立っている。
「お姉ちゃん・・・地球を助けてよ!!」
その男の子は、意味不明な事をリリアに訴える。
「え?何・・・?」
急な男の子の登場に、リリアもキョトンとしている。勝彦も一体何が起きたんだろうとその男の子に視線を向けた。
「なんだ?どうしたんだ?」
リリアの前には、小さな男の子が立って真剣なまなざしでリリアを見つめている。そして、衝撃的な事を言い出す。
「お姉ちゃんだけなんでしょ?地球を助ける事が出来るのは!」
「!?」
リリアは、少年の思いつめたその一言に驚いた顔をして見ている。そして、その横で勝彦も驚いて見ていた。
(この子供はいきなり何を言っているんだ!?)
「ど、どうして・・・それを・・・・」
リリアは驚いてその男の子につぶやく。
だが、勝彦はリリアの反応なんて関係なしに、すかさずリリアに助け舟を出すことにした。
何故、この子がリリアに絡んできたのか分からない。でも、今は二人でゆっくり食事をしている時である。いきなり意味が分からない事を言われても、迷惑なだけである。
「おいおい、何を言っているんだい、ボク?今の技術じゃ地球を救えないって、このお姉ちゃんも言っていたぞ!」
と、勝彦は優しく丁寧に男の子に諭す。ここで感情的に叱りつけて追っ払っても、大人なげないだけだ。
それに、リリア・・・もといクー太は、つい数時間前に地球を救う事は無理だと言っていた。それを直接聞いた勝彦は、クー太の星の科学技術でも、地球を救うことが出来ないと知っていた。
だから勝彦は、何とかしてこの子供にその現実を受け入れてほしいと思った。逆にそれがその子に対する優しさだと思ったからだ。
だが・・・その男の子は思いがけないことを言って勝彦とリリアを驚かす。
「嘘だ!僕は聞いたんだ!お姉ちゃんは地球を救う事が出来る星に、行く事が出来るんだって!」
「は!?・・・・・・・」
勝彦は開いた口が塞がらない。そして、頭の中は真っ白になった。男の子が言っている内容は、冥王星に来る前、クー太に聞いた話と違うのだ。
(地球を救う事ができる星?…何のことだ?)
「ちょっと待てよ!今の技術じゃ地球を救う事が出来ないんじゃなかったのかよ!?」
と、勝彦はリリアの方を向き、恐る恐るリリアの顔を見た。だが、リリアは黙ってうつむいているだけで、何も語ろうとしない。リリアに迫る男の子を見て勝彦は思った。
(何だ?どういうことだ?地球を救う事が出来る星に行く事が出来るなんて話は一度も聞いてないぞ!?)
勝彦は、その事実をリリアから聞き出そうと思った。でも、男の子はさらにリリアに突っ込んだ話をする。
「お願いだよ、お姉ちゃん!僕の、僕のママを助けてよ。ママは、僕だけは生き残って欲しいって言って、地球に残ったんだ!僕、一人だけ助かっても全然うれしくないよ!」
その子供の話を聞いて、さらに衝撃を受けた。
勝彦は地球から脱出する人達は、地球を見捨てた人達だと何気に思っていた。自分と同じように、地球に残らず自分達だけ助かりたいと思っている人達だと思っていたのである。
だから、難民の行列を見ても、勝彦は嫌悪感すら感じていた。(あの美しい地球を見捨てて、自分達だけ逃げるんだ・・・)
と、心の中で思っていたのである。




