第1章 31話
だが勝彦は、今度は無難な返事をしようと思っていた。アルテミスに突っ込まれるのが嫌だというのもあったし、ここで長い時間を使いたく無いという思いもあったからだ。
「まあ、いいんじゃないか!?」
と、そっけなく言う。さっきよりも興味心が完全に無くなっていた。さっきの様な感動は全く無い。印象としては、親戚の女の子といった感じである。
そもそも、男の子だった時も含めてだが、たまにドキドキしても、別に惚れたわけじゃない。可愛いと感じても、それはライクであり、ラブではない。
それは、心の中のどこかでクー太は男で、子供で、元飼い犬だ!と言い聞かせているからである。
流石にめったな事で惚れてしまうような、特別な感情は生まれてこない。
「うーん、やっぱり胸なのかな・・・?」
勝彦の鈍い反応を見たクー太が、自分の胸元を見つめてつぶやく。
「ん、どうかしたのか?」
勝彦はクー太がうつむいたので声をかける。
「ううん!!なんでもありません!それでは行きましょうか?」
それから勝彦とクー太はその部屋を出た。部屋の外には長い廊下が広がっていて、右にも左にも行く事が出来る。右を向いても左を向いても十字路が見えていて、勝彦はどっちに行けばいいか分からなかった。
「こっちです!」
と言って、クー太が左に向かって歩き出した。そのまま勝彦もクー太についていく。
「うわーー!!」
すると、勝彦はバランスを崩してそのまま廊下の壁にぶつかった。本当は部屋を出た段階で、体が軽くなる違和感を感じていたが、気のせいだと思ってそのまま歩き出したからだ。その結果、足がもつれ前のめりにコケてしまったのである。
「あ痛たたたたた!!」
勝彦は頭をぶつけてかなり痛がった。たんこぶが出来ているんじゃないかと思ったからだ。
どうやら感覚的に、部屋の外である廊下に出ると、異常に体が軽くなる様である。
「大丈夫?勝彦君!」
クー太が床を蹴って「ポーン」と素早く駆けつけてくれる。そこで、脳内からアルテミスの声が聞こえる。
「あ、言い忘れていました勝彦殿。冥王星の重力は、地球の重力の六分の一しかないから気を付けてくださいね」
と、勝彦がコケた事に気づいたアルテミスが、遅すぎる説明をしてくれる。
「こ、これは・・・逆に動きにくいな・・・」
試しに、手や足をいろいろ動かしてみたが、とても体が動かしにくい。思い切って前に進んでみると、「ポーン、ポーン」と、スキップをするように前に進んでいく。
「大丈夫です。街には人工重力が働いていますので、すぐ元に戻りますよ」
と、アルテミスが教えてくれる。
「人工重力・・・?」
「回転運動ではない、重力場発生装置という機械が、地面の中に埋め込められているのです。その機械の上では、地球と同じ様に、重力を保つ事が出来るのですよ」
「ふーん・・・」
そのまま気にせず先に進む。どうせ聞いても理解できないのが関の山である。
そして、そこから真っ直ぐ進み、アルテミスが停泊していた施設を抜け、エレベーターを降りると、そこには広々とした空間が広がっていた。
道は一直線に整備されていて、両脇に施設やお店などが連なっている。その中央の道路を小型電気自動車らしき乗り物が走っていた。
「すげー、地下にこんなでかい空間があるなんて・・・」
街に一歩前に踏み出すと、今度はガクンと急に体が急に重たくなった。
「うわ!?」
また俺は、体がよろめいて地面に倒れこんだ。
「ああ、勝彦君!ここから先は、人工重力が働くみたいですから気を付けてくださいね!」
と、クー太が注意を促してくる。
「だから、それを早く言ってくれよ・・・!」
「ご、ごめんなさい・・・」
と、クー太は手を差し出して、勝彦を引き起こしてくれる。
「それにしてもここ・・・ずいぶん広いところだなー」
「約一万人の人が住んでいますからね。今現在も、地球から避難してきた地球人達が、続々と来ています」
「そうか・・・俺みたいな奴が他にもいるのか・・・?」
(避難してくるという事は、他にも一杯いるのだな・・・・)
「そうですね、でも、どちらかと言えば、勝彦君の様な純粋な地球人よりも、最近地球に移り住んでいた人達や、血縁、子孫などがほとんどですよ」
「へー、それじゃあ何?地球にはもうすでに、多くの宇宙人が住んでいた、と、いう事になるのか?」
「はい、移住宇宙人は、地球人類がまだ類人猿だったころからいましたよ!」
と、クー太は答える。
「まあ、実際こうやっている訳だから、いるんだろうとは思うんだけど・・・」
勝彦は街並みを眺めながらそう言った。
これだけの宇宙人がいるのである。恐らく本当の事なんだろう。改めて昔からある宇宙人話は本当の事だったと実感したのだった。
「そうですね。地球の報道でも、たまに宇宙船が映っている事があるそうですからね」
確かに、良くTVの特集番組などでも、UFO特集をしている。
「ということは、UFOは本当の事だったんだな・・・」
勝彦は、今までUFOに関するTV番組を見て、ずっと疑いのまなざしで見てきた。TVに登場する目撃者も、ずっと見間違いじゃないの?と疑っていた。
でも、目の前に広がっている光景を見て信じざるを得なかった。
「そうですね・・・多分TVなどで取り上げられているUFOは、殆どそうだと思いますよ。地球は銀河系でも有名な観光スポットですからね」
と、クー太は教えてくれる。でも、勝彦は今まで自分が見て来たものがあまりにも小さい事に衝撃を受けていた。
自分の知らない所で、多くの人が住み、育んでいる。自分の考えている世界があまりにもちっぽけで小さかった事を驚いているのであった。
(なんていうか・・・もうこれから、俺はあの手の番組を、疑って見る事を止めないといけないな。地球に来るUFOが、宇宙人の観光客だったなんて思ってもみなかったよ。まさか、もうすでに宇宙人が地球に根付いているなんて誰も知らないだろうな・・・)
「へー、地球って宇宙では結構有名な所なんだな・・・ところでクー・・・」
途中まで言いかけて、振り向いてクー太と呼ぼうとしたが、途中でためらった。




