第1章 23話
「ところで、ここには寝る所があるのか?それともさっきみたいに転送するのか?」
「いえ、別の部屋に移動します。転送で移動したり、この部屋をベッドルームにすることも可能ですが、そこは区別する様にしています。睡眠は狭い部屋の方がいいですからね」
と、アルテミスが教えてくれる。
「という事は、今から別の部屋に行くのか?」
「そうですよ、部屋は一杯ありますので、さあ、こっちです!」
クー太は、勝彦の腕を引っ張って上機嫌で案内しようとする。
「痛たたた・・・引っ張るなよクー太!」
それから勝彦は、クー太に連れられて初めてこの部屋を出る事になった。この宇宙船がどうゆう構造で、どうなっているのか?そして、一体部屋がどれくらいあるのか?確認してみようと何度も思ったが、ここで少し垣間見ることが出来た。
クー太に連れられて歩いてみると、宇宙船の中は意外と単純で、そっけない感じである。
部屋が何十部屋もあって、下に行けるようになっている。下の階に行けるという事は、思ったよりもでかいのかもしれない。
それから勝彦達は、狭い廊下みたいな所を進んだ先の部屋に入っていった。
「ここが寝室です!」
通された部屋は、真っ黒で何もない部屋である。ベッドも椅子も何もない。
最初にこの宇宙船に転送されて来た時と同じ感じの部屋なのだ。
「おい、クー太。ここには何もないぞ!?」
見渡してみるが、やはり何も見当たらない。
「大丈夫です、アルテミスお願い!」
「はい、わかりました」
クー太がアルテミスに声を掛けると、部屋は一気に明るくなり、ベッドが現れた。そして、ちょっとしたインテリアと家具も現れた。
「おおスゲー!」
「いや、まだだよ!アルテミス、ココとココにもお願いね!」
「わかりました」
クー太はベッドの天井と脇を指差して、アルテミスにお願いすると、その部分が可視モードになって、宇宙空間が見えるようになっている。
そして、さっきまで何もなかった真っ黒なただの空間が、ちょっとしたインテリア家具のある、趣のあるおしゃれな部屋になっていた。
「どう?これなら星を眺めながら寝られるでしょ?」
窓や天井には宇宙空間である星空が見えている。
「おお、いいではないか!」
天井を見ると、満天の星空が煌めいていた。そして、ベッドに座ると、ベッドの脇も星空が広がっていている。
「おお、すげー!眺めも最高だ!!」
この部屋は、巨大な宇宙空間に浮かぶ寝室になった。
「どう?眠れそう?」
「ああ、これならいい夢を見れそうだ!」
そういってベッドに寝転んだ。すると、クー太が一緒のベッドに入り込んでこようとする。
「おい、何をしているんだ?」
すかさず突っ込みを入れる。
「いや、僕も一緒に寝ようかと・・・」
「いや、だめだ!何で俺が男なんかと一緒に寝ないとダメなんだよ!」
「ええ、でも昔は一緒によく寝たじゃないですか?」
確かに、犬のころのクー太とは、一緒によく眠った。冬は毛皮が暖かかったのでたいへん重宝した。
でも、今はただの少年である。
「馬鹿かお前!?その時お前は犬だったろ!?」
「そんなあ、昔のように一緒に寝たかったのに・・・」クー太はがっくりしていた。
「駄目なものは駄目だ!さ、下りた!下りた!」
クー太はがっかりして渋々ベッドから下りた。
「それじゃあ、ベッドには入らないからさ、僕もこの部屋にいてもいいかな?」
「まあ、いるくらいないいけど・・・」
寂しそうにしているクー太を見て、ちょっとくらいならいいかなと思った。
クー太はベッドの前の椅子に座り、ニコニコこちらを見つめている。
「じゃあ俺はもう寝るから・・・」
「うん、おやすみ・・・・」
人に見られて寝るのはなんだか落ち着かなかったが、それから勝彦は目を閉じて色々な事を考えた。
クー太に出会った事。地球が滅亡する事。
本来なら体験する事が出来ない様な貴重な体験ができた事。
地球がちっぽけで、宇宙がものすごくでかい事。
そして、これからの自分の事・・・。
とりあえず俺は、海王星に行って、冥王星に行ったら、地球に戻る事になっている。
はたして、それでいいのだろうか?
このまま、地球が滅ぶのをただ待つだけでいいのだろうか?
でも、俺はどうせ滅びるなら、地球に戻って大学生活を堪能したいと思っていた。
どうせ死ぬなら地球人として死にたい。そう思っていた。
そんな事を考えていると、いつのまにか寝ていた。疲れていたし、色々な事を考えて、疲労感が蓄積していたからだ。
「勝彦君、勝彦君・・・起きて!ねえ起きてよ!」
「う、う・・ん?」
「ねえねえ、海王星に着いたよ・・・」
「海王星・・・?」眠たい目をこすりながら聞いた。
(そうだった、俺は海王星に向かっている途中で眠っていたんだった!)
目が覚めて、改めて今までの事が夢じゃ無かった事を再確認した。今日の出来事が、あまりにも現実離れしすぎて、最後まで夢の可能性を捨てきれていなかったからである。
勝彦は上半身を起こして、クー太を見つめた。すると、クー太が不思議そうに見つめ返してくる。
「どうしたの?」
クー太の顔を見て、改めて夢じゃないと確認した。
(ああ、やっぱり夢じゃなかったんだな・・・・)
と、勝彦はしみじみ感じた。
「いや、なんでもないよ・・・」
ベッドから起きると、宇宙空間の星が見えている。だが、海王星らしき星は見えていない。
「ん?どこに見えるんだよ・・・?」
見渡してみるが、どこにも見えない。




