第1章 19話
「そうですね、火星は太陽系で唯一地表を歩ける惑星ですからね。でも、この先に向かう惑星は、火星の様に気軽に降り立つ事はできませんよ!」
と、感動している勝彦にアルテミスは注意を促す。どうやら、これから向かう惑星では、火星の様な体験はできませんよ、と、言っている様である。
でも、元々火星の地表を歩けるなんて思ってもみなかったので、勝彦にとってむしろ火星だけでも十分である。
「ふーん、そうか・・・でもいい体験ができたよ。ありがとうなアルテミス!」
「いえ、私はリリア様に命じられて、出来る事をしただけです。お礼でしたらリリア様に言ってください。私はリリア様に命じられて行動しているにすぎませんから!」
「そ、そうか・・・」
アルテミスに言われて勝彦は、クー太の方に振り向いた。
「えへへへ・・・・」
クー太は恥ずかしそうに笑っていた。
「あ、ありがとなクー太・・・」
と、クー太の頭に手を乗せる。
「どういたしまして!僕も、勝彦君が喜んでくれてうれしいよ!」
と言って頭を撫でられたクー太は満面笑みを勝彦に向けた。その笑顔を見て勝彦は、「ハッ」としてすぐにクー太から顔を逸らした。勝彦はどうしても、クー太の純粋で素直な顔を直視できなくて、ドキドキしてときめいてしまったのだった。
(こ、これは、クー太が犬だった頃を思い出しただけだ!!別に深い意味はない!)
と、自分自身に言い聞かせる。
「勝彦殿、心拍数が上がっていますよ!大丈夫ですか?」
と、アルテミスが聞いてくる。
(な、なぜ分かったんだ?)
「な、なんでもない、だ、大丈夫だ!」
勝彦は、自分の気持ちがバレた様な気になって戸惑った。
「・・・・そうですか、それでは早速ですが、次は木星に向かいますので・・・」
少し黙ったアルテミスだが、勝彦の気持ちを汲み取ってこれ以上聞いてこなかった。
「わ、わかった!!」
そして勝彦は、チャンスとばかりに、逃げるように窓際に向かった。
すると、窓の外にはさっきまで居た火星が見えている。暗闇に浮かぶ火星は、地球とは違って無機質な神秘さが醸し出されていた。
「では、出発します!」
アルテミスの声と同時に、宇宙船はゆっくりと動き出す。窓から見えていた火星は、みるみる小さくなっていった。
「あ、もう火星が見えなくなったな・・・」
それから、窓から見える景色は、星がきらめく宇宙空間が続いていた。
暗闇に輝く星々の煌めきが、勝彦の気分を少しずつ落ち着かせる。胸に手を当ててみるとドキドキした感情も無くなっていた。
そして、勝彦は試しにそーっとクー太の方を見てみた。
(よし!!何ともない!!)
勝彦は、もう完全に心は落ち着きを取り戻していたのだった。
(男のクー太に、何をドキドキしていたんだ?俺は?)
と、人知れず深く反省する。
それから気を取り直して宇宙を眺めていると、遠くのほうに銀河系の中心部らしき星の渦が見えている。その光の渦はいつまでも形を変えずに輝いている。
その渦はまったく動いている気配がなかったので、恐らくものすごく遠いんだろう。勝彦はそう思って感が深げに宇宙を眺めていた。
「さあ、次の目的地は木星です」
と、アルテミスが声を掛けて来る。
「次は木星か・・・たしか、太陽系で一番大きな星だよな?」
(俺の知っている知識では、たしか惑星の中で一番大きな星だったはず・・・)
「はい、太陽系で一番大きな惑星です。惑星の大きさは、地球の1300倍ですが、主成分は、ほとんどガスで出来ているので、中身はスカスカの星ですね・・・」
「ふーん、で、木星にはどれくらいで着くんだ?」
「そうですね、30分くらいでしょうか?」
「何だ、火星よりも時間がかかるんだな・・・」
「これでも、まだ近い方です。木星以降は、何時間もかかる事になると思いますので!」
「うわ~、やっぱりそんなにかかるんだな、だったら暇つぶしに、ゲーム機でも持ってこればよかったよ!」
「地球のゲーム機は用意できませんが、もしお時間が余るようでしたら、睡眠をとってはどうですか?」
(睡眠か・・・、確かに時間は潰せるけど、寝てしまうのはなんだかもったいないな。せっかくの宇宙旅行なのに・・・)
「う~ん、そうだな、まあ、それは別の時に考えるとするわ。ところで、さっき、火星でもやっていた、転送についてちょっと教えてくれないか?いまいち解らないんだ・・・」
寝るのは後回しにする事にして、さっきから頻繁に行われている『転送』という現象を知ろうと思った。ずっと疑問に思っていたが、どうせ聞いてもわからないだろうと、今まで聞かないでいたのだ。
だけど、ここまで頻繁に行われていると、さすがに気になってくる。これ以上疑問を後回しにしておくのは体にもよくない。
(何で物や人が移動できるんだろう・・・俺みたいなバカでも理解出来るといいな・・・)
「それについては、僕が教えてあげるよ!」
と、クー太が任せてと言わんばかりに自信満々に答えた。そして、早速説明を始める。
「そうですね・・・・多分理解できないとは思うんですけど、その転送技術なんですが、まず、宗教的な話になるんですよ!」
「宗教的・・・?」
「そうです、魂ってわかりますか?」
「死んだら幽霊になるっていうやつか?」
「そうです、魂には質量がないのですけど、実は別次元ではちゃんと存在しているのです」
「じゃあ聞くけど、死んだら魂になって、別次元に行くのか?」
「厳密に言うとそうですけど、ちょっと違いますね。別次元に行くというよりも、もともとそこに存在しているという事なのです。それと、実は魂は別次元でも、重力の影響があるのです。死んで魂になっても、その惑星の重力次元範囲からは、魂は抜け出す事が出来ないんです。ただ、再構築の場合は、肉体が生きているので、魂と肉体が一体となって再構築されますけどね!」
「・・・・あの・・・日本語でOKです・・・」
勝彦はそっと手を挙げてそう言う。話を聞いていて、さっぱりわからないかったからだ。勝彦は、途中から話の内容にまったくついていけなかったのだった。
「はい?日本語ですけど・・・?」
クー太は不思議そうに真面目に素で聞き返してきた。ここで勝彦ははっと気づく。あまりにも頭の回転がオーバーヒートして、つい、いつものネット用語を言ってしまったのだった。
(うげ、しまった!さすがにクー太にはネット用語はわからないか・・・)
不思議そうにしているクー太の横で、勝彦は恥ずかしくなった。ネット用語ななんて普段の日常生活でもあまり使わない。
「あ、いや・・・あの・・・その・・・」
勝彦は答えに困っていた。説明しようとしたが、なんて説明すればいいかなんて分からなかった。
もうこうなったら、「今のは日本語じゃなかったぞ!」とか言って押し切ろうかと思っていた。
「リリア様、つまり話の内容が理解できないという意味です。地球人の独特な表現方法で、勝彦殿の国では一般的に使われているのです」
と、アルテミスは話を理解できなかったクー太に対してフォローをする。
(あ、バカ!余計な事を・・・)
改めて、冷静にネット用語を解析されるとなんだか恥ずかしかった。




